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1兆以上の金が吹っ飛ぶ。WeWork投資で孫正義氏が見る「痛い目」

新規株式上場を目前に控えながら、次々と「好ましからざる事実」が噴出、上場延期どころかCEOの退任劇にまで発展してしまったWeWork騒動。すでに同社に100億ドル超を出資しているソフトバンクに対しても厳しい目が向けられていますが、今後この騒動はどのような展開を見せるのでしょうか。世界的エンジニアで米国在住の中島聡さんが、メルマガ『週刊 Life is beautiful』で占っています。

※ 本記事は有料メルマガ『週刊 Life is beautiful』2019年10月8日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール中島聡なかじまさとし
ブロガー/起業家/ソフトウェア・エンジニア、工学修士(早稲田大学)/MBA(ワシントン大学)。NTT通信研究所/マイクロソフト日本法人/マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。現在は neu.Pen LLCでiPhone/iPadアプリの開発。

WeWork騒動

WeWork騒動については、先週のメルマガに書き始めたのですが、次々に新しい情報が入ってくるので、今週書くことにしました。

WeWork(最近になってWeに改名しましたが、分かりやすいようにWeWorkと呼びます)のビジネスは、一言で言えば「オフィスの又貸し業」ですが、ここ数年注目されて来た、リモートワークやシェア・オフィスなどの流行り言葉に乗じて、投資家から大量のお金を集め急激にビジネスを伸ばして来ました

ユニコーンと呼ばれる上場前に$1billion1千億円強の企業価値を認められた企業の中でも、今年の1月にソフトバンクのビジョンファンドが$2billionを投資した際の企業価値$47billion(参照:SoftBank Bets Big on WeWork. Again.)は極めて高く、Uberに匹敵するメガ・ユニコーンと呼ぶべき存在でした。

ちなみに、この手の未上場企業の企業価値の決まり方は、上場企業の企業価値(株価総額)の決まり方とは大きく違います。

上場企業の株価は、株式市場で複数の買い手と売り手がいる中で自然と決まりますが、未上場企業の場合は、企業と投資家の1対1の交渉だけで株価が決まるのです。つまり、1月についた$47billionという企業価値は、ソフトバンク一社が納得したから決まっただけなのです。

ソフトバンクのビジョンファンドは、(ジャーナリストの暗殺を支持したと噂される)サウジの皇太子を含めた投資家から$100billion10兆円超という資金を集めて作ったファンドですが、そのサイズもさることながら、その気前の良さ(高い企業価値で投資してしまうこと)も注目を集めていました。

ビジョンファンドの投資方針は、急速に伸びている市場でNo.1の企業にさらなる資金を注入することにより、市場そのものを大きくすると同時に、寡占化を加速し、あわよくば「一人勝ちの状態を作ることにより大きなリターンを得ようというものです(孫さんは別の言い回しをしますが、分かりやすく言えば、こうなります)。

高い企業価値を認めて莫大な資金を投入することは、会社の経営陣からすると大歓迎ですが、反面、投資家からすると、(上場などの)エグジット時に株価が下がってしまうリスクもあります。

シリコンバレーの投資家たちの中には、$100billionもの資金を集めたソフトバンクを羨望の眼差しで見る人たちもいたと思いますが、同時に、あまりにも高い企業価値を認めてしまう気前の良さに「いつか痛い目に会うに違いない」という目で見ていた人も少なくないと思います。

ちなみに、同じようにソフトバンクによる投資によって(書類上の)企業価値を高めたUberは今年の5月に上場しましたがその後株価は低迷しています。

WeWorkは今年に入ってから上場の準備をしていましたが、CEOのAdam Neumannが株の売却や株を担保にした借金で$700millionの現金を既に手にしていることが判明し、(上場直前の会社のCEOがすべきことではないと)批判を浴びてしまいました(参照:WeWork CEO Adam Neumann has reportedly cashed out of over $700 million ahead of its IPO、TechCrunch 7/18)。

さらに、WeWorkの上場目論見書が公開されると、それを読んだ人たちが、コーポレート・ガバナンスがなっていない、長期リースが多すぎる、CEOが会社を利用して私腹を肥やしている、などの批判が相次ぎ(参照:WeWork Is the Most Ridiculous IPO of 2019、Forbes 8/27)、1月にソフトバンクが付けたの$47 million以上の企業価値で上場するのは難しい雰囲気になって来ました。

上のForbes の記事などは、同じく「オフィスの又貸し業」をしていて、かつ黒字経営でグローバルにビジネスを展開している IWG(リージャスのブランドで日本でも事業をしています)の企業価値が$3.7billionであることと比べると、赤字経営で一部の都市にビジネスが集中しているWeWorkの$47billionはどう見ても高すぎるととても分かりやすく指摘しています。

それに加え、CEOが乗っているプライベート・ジェットへの批判や、会社が開催する淫乱パーティなどの記事がネットに溢れる中、WeWorkは計画していた上場を取りやめ(上場するには企業価値を$10 billionにまで下げる必要があり、それにはソフトバンクが猛反対をしたそうです)、同時にCEOのAdam Neumannを退任させることを発表しました(WeWork throws in the towel on its ill-fated IPO, Reuters, 9/30
WeWork’s Adam Neumann is out as CEO. Here’s everything we know about the drama that’s been unfolding at the co-working giant. Business Insider, 10/1)。

今週になって、GAFAの分割を訴えていて有名なScott Galloway教授が、At What Point Does Malfeasance Become Fraud?’: NYU Biz-School Professor Scott Galloway on WeWork (New York Magazine)というWeWorkだけでなく、ソフトバンクも厳しく批判した記事を発表して注目を集めました。そして、さらに追い討ちをかけるように、「MDMA(エクスタシーと呼ばれる麻薬の別名)」という記事で、ソフトバンクによる投資手法がいかに無謀なものかを分かりやすく説明しています(下のグラフは、投資額が多い投資ほど失敗に終わっていることを示しています)。

Galloway教授によると、上場に失敗したWeWorkは、6ヶ月も経たないうちに資金がショートするため、大株主であるソフトバンクは、「救済のために追加投資するかそのまま倒産させるか」という究極の選択をしなければならない状況に追い込まれているそうです。

ビジョンファンドはトータルで$10.5billionをWeWorkに投資していますが、その価値は既に3分の1以下になっていることは明確で、それだけでも大変な損失ですが、WeWorkが倒産すれば、日本円にして1兆円以上のお金が吹っ飛ぶことになります。

Theranosのケースでも書きましたが、天才起業家と詐欺師の違いは本当に紙一重なのです。CEOのAdam Neumannは、ソフトバンクをその気にさせて$47billionの企業価値で投資させることには成功したものの、上場という高いハードルはクリアすることが出来ず(市場が健全な証拠です)、一気に化けの皮が剥がれてしまったのです。

私は1年半ほど前に、「資金さえショートさせずにModel 3の量産を開始出来ればTeslaは素晴らしい会社になる」と予想しました。Elon Muskは債権などを上手に活用して危機を乗り越えることに成功しましたが、あそこで資金ショートを起こして会社を倒産させていたら詐欺師扱いされていたと思います。

この件を受けて、「上場がしにくくなった」と指摘している評論家もいますが、私は、これでバブル気味だったIPO市場が落ち着きを取り戻すのは、良いことだと感じています。赤字を垂れ流すメガユニコーン企業が、知名度だけで上場するのは、必ずしも市場全体にとって良いことではないのです。

ちなみに、Finantial Timesの記事によると、ビジョンファンドは、外部投資家に対しては年利7%の配当を約束した優先株を発行しているため、現在は借金で配当を支払っているそうです(SoftBank’s Son uses rare structure for $93bn tech fund)。

ソフトバンクは、この配当金を餌にサウジアラビアから莫大なお金を集めたのでしょうが、これはとてもリスキーな資金集めの方法で、万が一投資がうまく行かないと、(ビジョンファンドの)普通株を持つソフトバンクばかりが損失を被ることになります。

image by: Linda Parton / Shutterstock.com

※ 本記事は有料メルマガ『週刊 Life is beautiful』2019年10月8日号の一部抜粋です。

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