タクシーに常につきまとう不安として、目的地に着いたときにようやく料金が決まるという点があります。旅行者にとっては特に大きなこの不安を取り除く方法として、国土交通省が事前確定運賃制度の運用ルールを策定し、今年の10月から認可されるようになりました。メルマガ『理央 周 の 売れる仕組み創造ラボ 【Marketing Report】』発行人の理央周さんが、この制度の導入を決めたタクシー会社大手の狙いを解説。自身がアメリカ出張でUberの配車アプリを利用した経験も合わせて、その利便性を伝えます。
タクシーのマーケティングは難しい?
日本交通などのタクシー会社大手が、10月にも「事前確定運賃」を導入することにしたそうです。これまで、タクシーに乗るときには、行き先までの運賃は着くまでわからないですよね。
今号では、日本交通がなぜ、事前確定運賃を導入したのか、それによって、何を目論んでいるのか、について深掘りをしていきます。
私は常々、「タクシーのマーケティングは難しい」と感じてきました。ハイヤーと違い、流しでのタクシーの場合は、乗るお客さんの方も、乗せるタクシーのドライバーの方も、お互いを選ぶことができないため、セグメンテーション、ターゲティング、などというアプローチで集客、(タクシーの場合はお客様に乗ってもらう)ができないからです。
また、雨などの天候に大きく左右されること、時間帯などによって、拾う人のいる度合いが大きく異なるという、不確定要素が多いのも一因です。
したがって、これまでは、「この時間のこの天気だと、この辺に行けばお客様を拾えそうだな」と、どこに行けばお客様が多いのかを、ドライバーの人たちの勘でやっていたため、ベテランのできるドライバーはたくさん稼げますが、社歴の浅いひとや土地勘がまだ浅い人たちは、その勘どころがわからないため、ドライバーの間で成績の格差が出てきてしまいます。
配車アプリサービスUberの利便性
タクシーは、乗る距離とかかる時間によって、料金が変わる公共の交通機関です。カウンターの寿司屋さんにいくのと同じで、「時価」なんていうのがあるため、食べ終わるまでいくらかかったのかがわかりません。
特に、海外旅行に行ったときのタクシーでは、いくらくらいかかるのかなとか、安全でいけるのかな、大丈夫かなと、心配になったものでした。
しかし、数年前、アメリカに行ったときに、初めて体験した配車アプリサービスのUberは、スマホにアプリを入れておいて、乗るときに現在地と行き先を入れるだけで、目的地までのルート、かかるお金=運賃、今待っているところまで後何分でつくのか、どの道でいくのか、ドライバーは誰なのか、車種は何か、がすぐにわかります。
ここ最近は、来るドライバーが星何点なのかという、カスタマーレビューの評価までわかるのも面白いやり方です。乗ったら後は、到着するだけ、スマホに登録したクレジットカードから、自動的に料金が引き落とされます。しかも、税金もチップも込みで。
ニューヨークやシカゴ以外で、アメリカではそれまで流しのタクシーがいることは稀。レストランで食事をしたら、タクシーを呼んでもらわなければなりませんでした。Uberが出てくる前まではお客様側は、「タクシーを呼ぶのには時間がかかるものだ」「タクシーは目的に着くまで料金が決まらないものだ」と思い込んでいたわけです。
お客様が感じる価値は、その製品やサービスから得ることができる「利益」と、我慢したりする「犠牲」のギャップです。利益が大きければ価値を感じますし、犠牲が大きければ、嫌になり、価値を感じなくなり、ひいては選ばれづらくなるのです。
Uberの場合は、これらお客様が犠牲にする手間や時間、面倒臭さなどを解消するビジネスモデルなのです。
日本交通の場合はどうなのか?
日本交通での仕組みは、ここまでの情報が出るわけではなく、アプリで乗降場所を指定すると、システムによって料金を計算し、事前に運賃が決まります。料金は、降りるときに、現金やクレジットカードで支払うというもの。
しかしこれでも、乗車までのプロセスが、今よりかなり便利になりますし、渋滞で多少時間がかかったとしても、料金は変わらないそうなので、安心してタクシーを利用することができます。
この背景には、タクシー乗車数の減少に対応すること、また自分で運転をすることが難しい高齢者への対応、そして増える外国人観光客への対応があります。
日経新聞の記事によると、日本交通の川鍋会長は、「経路と料金が明確になれば、乗客の満足度向上につながる」と、期待しているとのことです。さらに、外国人旅行客からすると、日本語がわからなくてもスマホアプリで大丈夫だ、という安心感で利用もしやすくなるでしょう。
配車アプリの使い道
このように、お客様がアプリを使い、事前確定運賃で乗車降車するようになれば、そのお客様たちのデータ、たとえば、お客様がどの時間にどの辺でどこまで行くのか、この天気であれば、何時頃に乗降するのか、を集めることが可能になります。
このようなデータが蓄積されていけば、ビッグデータになるわけです。AIなどを活用して、データ分析ができるようになり、お客様の行動を推測することができるようになります。そうなると、より効率よく配車をすることもできるようになり、生産性も上がります。
もちろん、お客様の属性などの傾向も、データとしてとれるようになるので、より深いサービスを生み出すこともできます。ITの進化はこのように、お客様の行動を「見える化」してくれるので、これを利用しない手はありません。
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