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シャトレーゼ外観

死角はあるか?コスパ最強の洋菓子店シャトレーゼ快進撃の秘密

苦戦を強いられているスイーツ取扱企業の中にあって、「低価格で高品質」を武器に好調を維持し続けているシャトレーゼ。9月にはついに銀座に出店を果たすなど、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いと言っても過言ではありませんが、何が同社の快進撃を支えているのでしょうか。フリー・エディター&ライターでビジネス分野のジャーナリストとして活躍中の長浜淳之介さんが分析・検証します。

プロフィール:長浜淳之介(ながはま・じゅんのすけ)
兵庫県出身。同志社大学法学部卒業。業界紙記者、ビジネス雑誌編集者を経て、角川春樹事務所編集者より1997年にフリーとなる。ビジネス、IT、飲食、流通、歴史、街歩き、サブカルなど多彩な方面で、執筆、編集を行っている。共著に『図解ICタグビジネスのすべて』(日本能率協会マネジメントセンター)、『バカ売れ法則大全』(SBクリエイティブ、行列研究所名儀)など。

スイーツショップ受難の時代を跳ね返す、シャトレーゼのビジネスモデル

1本60円(税別)のアイスバー「チョコバッキー」をはじめ、高品質のスイーツを信じがたいほどの安さで提供するチェーンが、「シャトレーゼ」である。

一番人気のチョコバッキー(バニラ)

全国の郊外に駐車場が付いた欧風のおしゃれな店舗を構え、約500店を展開。シャトレーゼではお菓子づくりに水が重要と考え、山梨県白州の名水にこだわる。名水の効果もあって、値段から想像される味を、良い意味で裏切り続ける商品のクオリティの高さを保っている。そのため毎日のようにSNSの投稿で話題になるほどで、熱烈なファンを多数獲得している。

シャトレーゼ外観

そうした顧客からの高評価もあり、シャトレーゼは好調な業績を続けていて、成長性が高い。海外を含めた店舗数は、3月期の決算推移を見ると、2015年の461店から19年は578店へと、過去4年で100店を上回る増加となっている。

また、持株会社シャトレーゼホールディングス(本社・山梨県甲府市)の連結売上高も、15年の540億400万円から、19年は662億3,400万円へと2割以上伸びている

近年のスイーツ店は、個人経営の店や不二家、銀座コージーコーナーなどの老舗チェーンが不振と言われ、コンビニなどに顧客を取られているとされるが、シャトレーゼには無縁の快進撃ぶりである。

今年9月には、都心型の新ブランド「Yatsudokiヤツドキ)」1号店を銀座にオープンし、郊外ばかりでなく東京をはじめとする都市部への侵攻を開始した。シャトレーゼのスイーツショップ受難の時代を跳ね返す、ビジネスモデルを追った。

ヤツドキ外観

シャトレーゼが低価格で高品質の商品を販売できる大きな理由は、農場、工場、店舗が一体となった「ファームファクトリー」という独自のビジネスモデルにある。

中間に商社や問屋を通さないから、その分の費用が発生せず、市場の商品よりも安く売ることができるのである。

要は契約農場から素材を直接仕入れ、自社工場でお菓子をつくる。お菓子は全国の直売店に、専用便で配送している。生産から物流販売までコントロールする、ファームファクトリーのシステムこそが「おいしいものを、お値打ちで」という同社の理念を支えている。

これは、アパレルになぞらえれば、ユニクロ、ギャップ、ワークマンなどと同様な製販が垂直統合された、製造小売業のスイーツ版だ。

しかし、シャトレーゼは当初から製造小売業を目指していたわけではなく、当初は量販店、つまりスーパーマーケットに商品を卸して売っていた

ところが1984年に本社工場が竣工して、これから本格稼働という時に、従来からあった主力工場が火事で焼失してしまった。懸命に建て直しをはかっている間に、他のメーカーの商品が代わりにスーパーの棚を埋めてしまった。

そこでやむなく85年、甲府市内に工場直売店を出店するのだが見事にピンチをチャンスに変えた。けがの功名と言えよう。値段は卸売価格そのままとしたので、市場よりも2割~3割安く売った。だから人気が爆発した。

実際に工場直売店をオープンしてみると、顧客からの反響がストレートに売上に跳ね返ってくる面白さがあることがわかってきた。スーパーに販売していると、顧客よりもスーパーの意向で商品を出していかなければならず、顧客本位の商売をしているとまでは言い切れないもどかしさがあった。

ものづくりに活かされる「山梨の地の利」

シャトレーゼの商品が現在のような品質にまで高められた理由としては、94年に現在の主力工場である、山梨県北杜市の白州工場が稼働したことが大きい。同工場で井戸から汲み上げる水は軟水の中でも硬度が低くお菓子づくりに最適と同社では考えている。

白州工場

南アルプス山麓にある白州は、サントリーのウイスキー醸造所やミネラルウォーター工場もある、名水で知られる地。シャトレーゼは山梨県内に3つの工場を有するが、他の2つの工場へも白州から水を運んで菓子を製造している。この山梨から全国、さらに海外の店舗に、商品の大部分が配送されている。国内ならば基本、商品は製造された翌日店頭に並ぶ

雑味のない軟水の良さがダイレクトに味に出るのが、アイスクリームをはじめとする氷菓だ。

白州に近い八ヶ岳は牛乳の産地であり、契約農場の新鮮な搾り立ての牛乳を使うことができる。牛乳は風味を損なわないように低温で殺菌する。このようにシャトレーゼは、ものづくりに山梨の地の利を活かしているのだ。

味の追求のために手間暇を惜しまない社風も、商品の品質の高さにつながっている。たとえば、一般に大量生産を行う多くの菓子工場では、卵は液卵を買ってきて使うが、シャトレーゼでは、その日に鶏が産んだ新鮮な卵を契約農場から仕入れて1個1個割卵機で殻を割り白身と黄身に分けている。白身にはものを固める機能があるが、液卵を使うとその機能が薄まっており、添加物の力を借りなくてはならなくなる。同社のやり方なら余計な添加物も不要だ。

水が重要なのは和菓子も同じで、とりわけあんこの製造では味に差が出る。あんこの素材である小豆は、各社が北海道などから国産の良質な小豆を仕入れているから、差は出ない。

シャトレーゼでは小豆の水洗いの段階から炊き上げる工程まで、白州の水を使い、風味豊かなあんこに仕上げている。

実は、シャトレーゼは創業時和菓子の専門店だった。1954年に甲府市内で、今川焼風「甘太郎」の店としてスタートしていたのだ。なので、あんことは縁が深く、その製造には並々ならぬ情熱を注いでいる。

ところが、今川焼は冬には売れるが、夏は売上が落ち込んでしまう。そこで夏場の売上を確保する対策としてアイスの販売を始めた。やがて、ケーキ、焼菓子などにも洋菓子の分野を広げて、今日に至っている。

アイスをはじめ乳製品の製造は管理が難しく、人間が直接かかわると衛生面で厳格な対策が必要となるため、無人化自動化が非常に進んでいる。1本100円を切るアイスバーは、コスト削減を究極まで進めて、卸売価格で売っているからこそ可能なのである。

セブン-イレブンより先日発売された、1個28円(税別)のキャンディーのような包装のアイス、デザートショコラボール3種(バニラ・イチゴ・ミント)を、シャトレーゼが製造していると評判だが、その実力の一端を垣間見ることができる。

セブン-イレブンに供給している、デザートショコラボール

シャトレーゼの競争優位性は、商品ラインナップの豊富さも寄与している。1つの店の中には、300~400アイテムもの商品が並んでいる。

取り扱う分野は、アイス、ケーキ、チルド(シュークリームなど生菓子)、焼菓子(フィナンシェ、クッキーなど)、和菓子、チョコレート、健康商品(スムージー、ヨーグルトなど)、冷凍食品(ピザ、パンなど)、機能性商品(糖質カット、アレルギー対応など)と、幅広い。

チルド売場(シャトレーゼ)

ケーキ売場(ヤツドキ)

品揃えは、アイスだけでも実に100種類以上の商品が存在する。そこに、専門店としての選べる楽しさがある。店によって並ぶ商品が若干異なるが、たとえば人気が高いチョコミント味のアイスだけでも、5、6種類の製品がある。コンビニならば、スペースの関係上チョコミント味のアイスがいくら売れていても、せいぜい2種類くらいしか販売できないだろう。

シャトレーゼのアイス各種

「チョコバッキー」にコーティングしているチョコや、「クッキー&クランチバーバニラ」のチョコやクッキーも自家製である。大手、中堅の菓子メーカーでもこれだけの幅広い商品ラインナップを持つ会社はまれである。

シャトレーゼに見当たらない「死角」

商品のクオリティはどの分野も、競合として設定する、デパ地下や各地のスイーツショップや和菓子店の一番店に肩を並べ追い越すことを目指している。

「商品企画では、名のあるパティシエや和菓子店のつくる商品を購入して、日々研究していますね。そのレベルの商品でないと売りません。コンビニは競合ではないです」(シャトレーゼ販売戦略部部長 広報・通販統括/中島史郎氏)。

機能性の商品は、間口が狭く大量に売れるわけではないが、非常に喜ばれる。卵、牛乳、小麦粉を使わないアレルギー対応の商品は、通常の工場ラインを一旦止めてほんの少しでもこれらアレルギーを引き起こす物質が残っていないように完璧に洗浄。つくり溜めをして、瞬間冷凍で保存する。

糖尿の人向けの糖質カットのあんこは、小豆自体が糖質なので食物繊維を使い小豆汁で香りを付ける。研究開発チームが2、3年かけて製法を編み出した。

「食品アレルギーを持つお子様が増えているので、お母さま方からは喜んでいただいています。誕生日のデコレーションケーキ、クリスマスケーキ、七五三のお祝いと、折にふれて買って行かれますね」(前出・中島氏)。

全ての顧客がスイーツを食べて笑顔になるのがお菓子屋の喜びと、経営理念の体現として、機能性商品を製造販売している。

シャトレーゼはこれまで郊外に出店してきたため、SNSで「シャトレーゼの店があるのは田舎なのか」が話題になって、書き込みが連綿と続いているほどであるが、新業態「ヤツドキ」は最初から銀座に出店したように、手強いライバルひしめく都心部に広めるべく構築した。

ブランド名は、おやつの時間と八ヶ岳の恵み、末広がりの「八」を意味する。家賃が高い都心部で、電車と徒歩で買いに来る、手土産やオフィスの需要を想定し商品数は70~80に絞り込む。

一般のシャトレーゼの店でも人気のアイスなど数々のスイーツや、自社で経営する山梨のワイナリーから直送するワインも販売している。車で来る人がいないような立地なので、150円で専用の瓶を買えば740円で詰め替えを購入できる格安のワインは、入口から入った正面に陳列し前面に出している。

ヤツドキのワイン

「ヤツドキ」オリジナル商品として開発した、「八ヶ岳南牧村契約農場 しぼりたて牛乳のカスタードシュー」(250円)は、発酵バターの芳醇な香りが特徴の皮に包まれ、濃厚な北海道産純生クリームや、臭みがなくコクのある特別飼育卵も使うなど、素材にこだわって贅沢な味に仕上げた。

八ヶ岳明野村契約農場 うみたて卵のプリン」(250円)も、南牧村の牛乳、特別飼育卵、北海道産純生クリームを使っている。

さらに、「国産和栗の生モンブラン」(640円)は、店頭での仕上げにこだわった商品で、南牧村の牛乳、特別飼育卵のカスタード、北海道産純生クリームを使うのはもちろん、和栗を収穫後に最小限の加熱で加工して旬のおいしさを引き出した栗の渋皮煮や栗ペーストをふんだんに使用している。

国産和栗の生モンブラン(ヤツドキ)

このような新しいチャレンジばかりでなく、海外もシンガポール、香港、インドネシアなど9ヶ国に60店を出店し、拡大中である。

こうして見ると、シャトレーゼには死角が見当たらない。強いて言えば「ヤツドキ」が都心部店の経験不足ゆえ伸び悩む可能性もないではなく、韓国の店舗が国の事情で厳しいとも推測されなくもないが、一大事には至らないだろう。

まだ四国をはじめ9つの県に店舗がなく、しばらくは出店の余地がある。価格以上の価値がある商品を供給し続ける限り未来は明るい

image by: シャトレーゼ , 長浜淳之介

長浜淳之介

プロフィール:長浜淳之介(ながはま・じゅんのすけ)

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兵庫県出身。同志社大学法学部卒業。業界紙記者、ビジネス雑誌編集者を経て、角川春樹事務所編集者より1997年にフリーとなる。ビジネス、IT、飲食、流通、歴史、街歩き、サブカルなど多彩な方面で、執筆、編集を行っている。共著に『図解ICタグビジネスのすべて』(日本能率協会マネジメントセンター)など。

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