MAG2 NEWS MENU

NY渡航10年で新聞社創業。何もない若者がなぜ成功できたのか?

初の著書『武器は走りながら拾え!』も大好評な11月でNY在住20年となった米国の邦字紙『NEW YORK ビズ!』CEOの高橋克明さん。20年という節目を迎え、自身のメルマガ『NEW YORK 摩天楼便り-マンハッタンの最前線から-by 高橋克明』で、ニューヨークに渡ったときには、お金もなく英語力もなく、何もないからこそ行動するしかなかったと振り返ります。そして、いまの自分がある理由を「橋を渡り、その橋を壊したから」と表現。「できることをやる」のではなく、「やりたいことを先に掲げて、そこに追いつく」人生でありたいと、まだまだ先を見ているようです。

この街に来てよかったこと

この街で暮らすと、自分で自分の人生を決められるという幸せ、を痛感します。日本だと、努力すること自体を美徳にする風潮がありますが、逆に言えば「努力してもいい」ということ。

日本だと、幸せすぎて、挑戦すること自体に価値を見出す傾向にありますが、突き詰めて言えば「節操なく何度も挑戦していい」って状況でもあると思うのです。

知り合いのIT関連に勤めているインド人に「やっぱりインド人って数学が得意なんだな」と何気なくいうと、彼は「それって、ある意味人種差別だよ」と笑いました。「人種による得意、不得意なんてない。あるとしたら、環境なんだよ」と次のことを説明してくれました。

インドはご存知の通り人口が多く、そのうえカースト制度の名残りもあるので、生まれた時から、父親の職業をそのまま継ぐのが普通だ、とのこと。自分たちが何か新しい職業に挑戦するためには、父親の世代にはなかった業種を選ばなきゃいけない。それが「IT」だった。彼らが土着の呪縛を逃れアメリカンドリームならぬ、いわゆるボンベイドリームを実現するためには、ITのスペシャリストになるしか方法はない。だから、数学を必死で勉強した、と。

そうでなければ、何代も前から続いた皿洗いや、掃除夫になるしかなかった。つまり、IT系であれば、必死に勉強して、努力してもよかった。「努力することが許され」たんです。

彼らのように「帰れる場所がない」ことは大変でもあり、でも、これ以上強いこともありません。彼らは橋を渡ってきたけれど、振り返るとその橋がもうない状態です。覚悟を決めて戦うしかない。

もちろん、今の日本でなかなか彼らと同じような状況になること自体、難しい。カースト制度や内戦がある国と比べられてもピンとこない、と言われると思います。

でも、日本でも「帰れない自分にする」ことは可能です。橋を渡って、その橋を壊しちゃえばいい。手っ取り早く、簡単な方法は、周囲に向かって宣言することです。流行りのインスタでもなんでもいい。「3年以内に、宅建資格を取得します」「来年、カナダに留学します」。「東京オリンピックまでに都内に2号店をオープンします」。「再来月、子供が生まれたら禁煙します」。

宣言しちゃったからには、ヤルしかない。できなかったらカッコ悪い。世間体や周囲の目を気にしなきゃいけない日本ではニューヨークよりも案外、効果的かもしれません。

根拠や具体的な戦略は後からでいい。とりえあえず宣言する。僕も2023年までに、ロンドン支社をオープンする!とここで宣言します。英国での市場調査もまだしてないし、マーケットが具体的にどうなのかも、まだ明確ではないです。なによりその時ポンドが強いのか弱いのかも誰も予想できません。

ただ、ヨーロッパでも採算は取れるビジネスモデルだろうな、というザックリな希望的観測と、ロンドンは好きな街なので出張で定期的に行けたらいいな、というミーハーな理由です。それだけです。

でも、宣言しちゃったからには、利益が出る形での進出を実現しなきゃいけない。約款も税率もこれから調べる。宣言した後に、勝つための戦略はこれから詰めていけばいい。これも見切り発車です。

その昔、今から数年前。当時の僕の雇い主(オーナー)が、僕の結婚式でスピーチしてくれた際、どうして会ったばかりの高橋に新会社の社長をやらせたのか、と来場者に聞かれた際、「異常に目力が強かったこと(笑)あと、“僕にはもう帰る場所がないんです”と言ってきたので」と話されました。(言った本人まったく覚えてないけど・笑)

彼自身も同じような経緯でアメリカに来た過去があります。帰る場所がない人間が誰よりも強いと経験から知っていたのかもしれません。資金もコネも、英語力や学歴という武器もない。何もないから大変だったと同時に、何もないからこそ、やれたのかもしれません。

ないからこそ「行動」するしかなかった。ニューヨーカーたちと実際にぶつかって、自分の道を開くしかなかった。(だからって、もう二度と嫌だけど)あくまで「結果論」だけど「何もない」ことが最大の武器だったのだと思います。(やっぱり、もう嫌だけど)

ありがたい自己啓発本を読む時間も、あやしい新興宗教にハマる時間もなかったことは振り返ると幸いだったのかもしれません。世界の中心と呼ばれる大海に飛び込んで手足をバタバタするしかなかった。

もし、当時の自分が何もない状態じゃなければ、「行動」じゃなく「理屈」に走っていたかもしれません。「まずは学校に行って時期を見よう」とか。「とりあえず資格でも取ってハクをつけよう」とか。挙げ句の果てに「やっぱり向いてないから出直そう」とか。

決してそれらを否定しているわけではなく、僕のような弱い人間だと、その「理屈」を「逃げ」の言い訳に利用する可能性が高かった。でも幸い(?)にも、学校に行く時間も、資格を取るお金も、そして、出直すための帰る場所もありませんでした。

結果、渡米2年目から業界に入り込み、3年目から社長業をスタートし、10年前にはオーナーとして新聞社を創業しました。前職の社長業から15年連続で黒字展開し、北米全土では発刊部数がトップクラスのメディアカンパニーを運営しています。

12歳の七夕に書いた夢をそのままに、いやそれ以上に実現できた最大の理由のひとつは、「橋を渡り、その橋を壊したから」だと思っています。逃げられる橋があると、僕みたいな人間は気づくとほぼ無意識に引き返してる(笑)。橋は壊した方がいい。様々な理由を持って母国からこの国にやってきた周囲のニューヨーカーを見てると、そう思ってしまいます。

「いま、あなたがやれることを一生懸命やりましょう」という類(たぐい)の書籍やセミナーが流行っています。まったく否定しない。素晴らしい考えだと思うし、100%賛成です。でも、僕には「やれること」なんて大してない。僕の許容範囲でやれることをやったとして、たかがしれている。僕個人は自分がやれることだけをやるわけにはいかないんです。

なので、いつも、自分ができることをやろうとはまったく思ってない。自分がやりたいことを、やりたい。自分がやりたいことを先に掲げて、なんとか必死に追いつきたい。今までだってそうでした。根拠も自信もない。でも、やりたいことを自分に聞いて、そこに多少無理してでも、背伸びしてでも、追いつこうとする人生でありたい。

今の世相からすると、人生論を説くセミナー講師や、ベストセラー作家には「そんな無理しても苦しいだけです。不幸せの連鎖になります」と諭されちゃうでしょうか。でも、本人(僕)、頭描きながら答えるつもりです。「いや、楽しいっす(笑)」。そして、申し訳なさそうに付け加える。「たぶん、こっちの方が幸せです」。

アホみたいな例え話ですが、渡米して本当の意味で初めてアメリカ人の話す英語を明確に聞き取ることができたのは、最初のスカイダイビングの時です。

日本のような丁寧な事前説明もほとんどなく、すでに飛行機内に乗り込んだ後、上空1500フィートで、インストラクターのおニイちゃんが注意事項を説明してくれます。タンデムといって一緒に飛んでくれる彼が背中に張り付いた状態で、飛び立つ直前に耳元で、です。窓が開いて風の音がかなりうるさい中、そこそこの早口で話すブロークンイングリッシュをこの時ばかりは一言一句聞き取れました。命が掛かれば、外国語なんてクリアできる(笑)。

(スカイダイビングを兼ねた英会話教室って、儲かるんじゃないかな。あとは英語の説明書を読解しないと装着できない安全ベルト付きジェットコースターとか)後戻りできない自分にしたら、できないことだってできてしまう(笑)

僕個人の今年のキーワードは「橋を渡って、今渡ってきた橋を壊しちゃおう」。帰れない自分になることが、意志の弱い僕には最高の戦略だから。

image by: Shutterstock.com 

高橋克明この著者の記事一覧

全米発刊邦字紙「NEWYORK BIZ」CEO 兼発行人。同時にプロインタビュアーとしてハリウッドスターをはじめ1000人のインタビュー記事を世に出す。メルマガでは毎週エキサイティングなNY生活やインタビューのウラ話などほかでは記事にできないイシューを届けてくれる。初の著書『武器は走りながら拾え!』が2019年11月11日に発売。

有料メルマガ好評配信中

  初月無料お試し登録はこちらから  

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 NEW YORK 摩天楼便り-マンハッタンの最前線から-by 高橋克明 』

【著者】 高橋克明 【月額】 初月無料!月額586円(税込) 【発行周期】 毎週水曜日

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け