日本のインターネット業界大手2社、ヤフーとLINEが統合協議を開始したことを発表し、世間を驚かせました。一見行き詰まっているようにも思えない2社が、このような動きに出た背景と狙いについて、メルマガ『理央 周 の 売れる仕組み創造ラボ 【Marketing Report】』発行人の理央周さんが、ユーザー側の期待も含め解説します。そこには競争の中に置かれた企業の、決して歩みを止めないという考えがあり、企業規模に関わりなく参考にすべきだと伝えています。
ユーザー目線でヤフーとLINEの統合を見る
ヤフーを展開するZホールディングス(ZHD)と、LINEが経営統合に向けた協議を進めています。この2社は、検索とSNSという異なる業態を展開している企業と認識している人も多いでしょう。それぞれのビジネスにおいて、LINEは検索をやっていませんし、ヤフーもSNSをやっていません。
しかし、スマホ決済のYモバイルとLINEペイ、ポイントではTポイントとLINEポイント、ニュースでは、Yahoo!ニュースとLINEニュース、Eコマースでは、Yahoo!ショッピングや、この前買収したZOZOとLINEショッピングなどなど、じつはいくつかの分野ではライバル関係にあったのです。
その意味でも、最初聞いた時には、「あれ、大物どうしだし、しかもライバルだし、経営のところを統合して、合理化を目指すのかな?」と、感じたものです。しかしよく考えてみると、それぞれの親会社は、ソフトバンクと韓国のネイバーですよね。
日本経済新聞(11月14日)の記事に、それぞれのサービスの一覧表が載っていました。とても見やすい一覧表だったので見てみるといいですよ。
ソフトバンクとLINEのすべてのサービスの中で、もし統合が実現したら、ヤフーにはないSNSのサービスや宅配サービス、逆にLINEにはない、UBERのような配車サービスが加わるため、インターネット関連での、今あるサービスのほとんどを網羅できるようになります。
そしてもし、ソフトバンクとLINEの、消費者向けのサービスの全てが使えるような、「スーパーアプリ」ができたら、ユーザーはワンストップで、生活における様々なことを、そのアプリで行えるようになります。
ユーザーにとっては、統合されたサービスが1つの入り口で、SNSもキャッシュレス支払いも、全てがワンストップでできれば利便性が高まります。これで今よりも多くのユーザーを囲い込むことができる、という判断が働いたのでしょう。
ヤフーとLINEが、このような経営統合をしようとなった背景には、米アマゾン、グーグルなど、「GAFA」と呼ばれる巨大IT企業が、ますます大きくなっていくという状況があります。さらに、中国でも、WeChatやWeiboといった、SNS、Eコマースの大企業が続々生まれ、規模を大きくしつつ、アジアにも進出しています。
ちなみに私は、関西学院大学のビジネススクールで教えています。MBAのための大学院ですが、全ての講義を英語でやっているため、留学生が大半です。なかでも最近多いのは、中国からの留学生で、彼らが普段使っているアプリが、WeChatやWeiboなのですが、これらはもうすでにワンストップで、SNS、バンキング、電子マネーやショッピングなど全てできる、というアプリです。
便利なのでユーザーとして離れられないのですよね。この辺を、ヤフーとLINEの統合による、スーパーアプリ化で目指しているのではないかと思われます。
ヤフーもLINEも単体で巨大企業ですが、ここを目指す上で、GAFAやマイクロソフトなどの、米国企業や中国の巨大企業との競争に、単独では勝てないため統合し、お互いの相乗効果を出していこう、と考えたのでしょう。
さらに、このスーパーアプリで、これから海外にも進出していくとしたら、タイやインドネシアなど、アジアの国で知名度がある、LINEのブランド名を活用していくこともできます。
これからさらに成長していくためには、今のままでは限界があるとの判断ですが、ヤフーにしてもLINEにしても、すでに巨大な企業でありながら統合して、より一層の上を目指そうという姿勢は、見習うべき点です。
もちろん、経営統合をしていくということになると、これから先には、どうやって業績を伸ばしていくのか、新しいサービスを生み出すことはできるのかなど、多くの課題があることは事実でしょう。このように、企業として現状に満足せずに、常に次のステージを目指す姿勢は大いに見習いたいところです。
企業の大小に関わらず、自社を取り巻く環境は、つねに大きく変わるし、それに対してライバルも頑張ります。その中で現状維持は敗北なのです。今、順調であっても将来に備えるべきですよね。
ヤフーとLINEは、自社に足りないところは何か?を突き詰め、その点をしっかりと把握したので統合の案が出たのでしょう。このように、自社の商品ラインアップを常に見直して、顧客に対し「もっとできることはないか?」と、考え抜くことが大事です。
この点は、企業の大小関係なく、見習うことができるポイントですよね。ぜひいちど、自社の商品やサービスを見直してみてください。
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