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国民年金と厚生年金の統合案に不安を抱く人へ伝えたいプラス面

先日掲載の記事「『国民年金と厚生年金の統合検討』報道にネット不満と不安の声」でもお伝えした通り、厚労省による「両年金の積立金統合の検討」が波紋を呼んでいます。その多くがサラリーマンなど厚生年金加入者からの不公平感を訴えるものですが、果たして積立金統合は、彼らにとって「損」になるのでしょうか。今回の無料メルマガ『年金アドバイザーが教える!楽しく学ぶ公的年金講座』では著者で年金アドバイザーのhirokiさんが、「国民年金にプラスになる事は全国民にプラスになるという事」として、年金制度を丁寧に紹介しながらその根拠を解説しています。

政府が統合を検討。国民年金と厚生年金は別物と思ってはいけない

最近だったか、厚生年金の積立金と国民年金の積立金を統合するというニュースがありました。これにより、国民年金加入の人の将来の年金を助けると。それがなんというか、サラリーマンや公務員が保険料納めて積み立ててきたものを積立金が圧倒的に少ない国民年金加入者に使われるのが気に食わない!という流れになってますよね。なんで厚生年金と国民年金で、まるで民族間の争いみたいな事してるんだ…。

年金の主要な財源ではないのであまり積立金を重要視していないですが、なぜ統合という案が不満の的になってるのか。どうも…厚生年金加入者と国民年金加入者がなんだか別物のようなイメージを持たせてるのでしょう。厚生年金と国民年金が別の独立したものという考え方自体がもう違和感ありまくりなんですけどね(笑)。これを独立した別物と考えてしまったら今の年金制度は理解できない

例えるならA子さんがいて、A子さんの脳が国民年金でA子さんの心臓が厚生年金という、どちらもA子さんに属するものと考えられる。だって、どんな職業であれ日本人は20歳から60歳までは国民年金に加入してるから。これがお互い別の年金制度として存在していたのは約30年以上前の昭和61年3月までの話。当時は国民年金と厚生年金は別制度だったから、例えるならA子さんとB子さんというようなものだった。昭和61年4月からはみんな国民年金の加入者になってしまった。そして65歳になればみんな国民年金から、共通の給付として老齢基礎年金を受ける事になる。

たとえば、20歳から50歳までの30年間は平均給与50万円で厚生年金に加入して、50歳から55歳までは5年間国民年金に加入したとします。そうすると30年分の厚生年金が支給されて、5年分の国民年金が出るのでしょうか。そうじゃなくて、この場合は30年分の厚生年金と35年分の国民年金基礎年金)が出る。

老齢厚生年金は平均給与50万×5.481(厚生年金給付乗率)÷1,000×360ヵ月=986,580円、老齢基礎年金は780,100円(令和元年度満額)÷480ヵ月×420ヵ月=682,587円の合計1,669,167円となる。


※ お知らせ

国民年金の基礎年金額は満額780,100円ですが、令和2年1月8日の有料メルマガの119号でなぜその金額になってるのかの歴史をお話しします。

● 事例と仕組みから学ぶ公的年金講座


ずーっと厚生年金や公務員だった人も、結局65歳になると国民年金から老齢基礎年金が支給される。国民年金に加入してきたから。国民年金加入者に厚生年金の積立金を渡して、積立金の少ない国民年金加入者を助けるなんて許さん!っていう話が、一体誰を攻撃してるのかなって思う。

ちなみに昭和61年3月までは国民年金と厚生年金は独立したものでありましたが、確かにその頃は国民年金は財政の危機に瀕していた。国民年金の主な加入者である自営業や農業の人などが、会社に雇用されて厚生年金に加入して働くという方向に流れていったから。それで国民年金保険料を支払う人の数が減って、国民年金の財政が悪化していった。

ところがこれは昭和61年4月からの基礎年金導入で国民全員が国民年金に加入する事になってすべての被保険者で支える制度になったため、業種によって国民年金財政が影響を受ける事が無くなった。この時の昭和60年改正は国民年金を救うための大掛かりな改正だった。

ところで国民年金の積立金は年金特別会計の国民年金勘定に、厚生年金の積立金は年金特別会計の厚生年金勘定に積み立てられています。そもそも国民年金は全員加入してるものだし、全員が共通の年金として受けるものだからこの積立金だけ分けてるというのも、管理費用もかかるだろうし複雑にもなるので統一できるものは統一したほうがいい気もしますけどね。平成27年10月に共済もやっと厚生年金に統合された事ですし。

仮に国民年金の積立金を厚生年金の積立金と統合するにしても、結局は今まで年金に加入してきた人全体の利益として老齢基礎年金を受けるわけなので何を損するのかって話。

国民年金というのは年金給付としては「基礎年金」と呼びます。で、この基礎年金の財源は誰が払うのか

まず、主に自営業者のように国民年金だけに加入してる人達(今は1,500万人)を国民年金第一号被保険者。そして厚生年金に加入してるサラリーマンや公務員の人達(約4,400万人)である国民年金第二号被保険者がいます。他に厚生年金加入者に扶養されてる国民年金第三号被保険者という人達がいます(約850万人)。

被保険者の用語にはみんな国民年金の用語が付いてますよね。それはみんな結局は国民年金加入者だから。仮に自営業者がどっかの会社に就職したら厚生年金に加入しますけど、国民年金の加入者である事には変わらない。で、みんな国民年金の加入者だから、みんな将来は共通の基礎給付である老齢基礎年金を受ける。その財源はどうやって負担するのか。

もちろんみんな将来貰う事になる共通の年金だから、その被保険者の頭数に応じて基礎年金拠出金というものを被保険者全体で出し合って公平に負担し合っている。厚生年金保険料だけ支払っていても、その中には国民年金分が含まれているような形になる。つまり、国民年金加入者だろうが厚生年金加入者だろうが、保険料から頭数に応じた基礎年金拠出金を出し合って、共通給付の基礎年金としてみんなに支払う。支払うといってもみんな一緒の金額ではなく、加入した月数に応じて人によって金額はバラバラ

なお、基礎年金には拠出金と同じ規模の国庫負担税金が投入されている。基礎年金の額には半分の税金が使われている。基礎年金の財源は毎年20兆円くらいだから、その半分の10兆円が税金という事ですね。社会保障関係費30数兆円のうちの10兆円ほどが年金。

そういえばこういう積立金関係の話が出るたびに、「俺たちの年金が無くなる」とか「運用失敗でもう将来の年金は崩壊」だとかそういう無駄に不安を煽るだけの話になる。何回も言ってきた事ではありますが、そもそも年金の主な財源は積立金じゃない。だから積立金(現在約160兆円)が枯渇しようと年金が0になる事は無い。あくまで毎月支払われてる年金保険料から年金は支払われている

160兆円もあるとはいえ、この積立金額であればせいぜい1年間の年金額(約60兆円弱)の3年分くらい。え?じゃあ積立金はどうしてるの?というと、給付には充てています。保険料と税金で足りない分を積立金で補助したりする事もあるという状態。そして、この積立金は給付に充てながら将来的には1年分くらいまで縮小して減らしていく。

積立金を減らすなんてどうしてそんな危険な事するの!?と言われそうですが、そもそも今の年金制度は積立金から主に支払ってるわけではなく、その年の現役世代が納めた保険料をその年の受給者に送るという賦課方式で支払われています。世界のほとんどの先進国が賦課方式であり、またヨーロッパあたりなんかは積立金は2~3ヵ月とかその程度しか持ってない。だからと言って破綻という話は全く無い

ちなみに、保険料だけでなく巨額の税金を投入したり、積立金も財源として給付に充てながら毎年の年金を支払っているので、修正積立方式ともいう。税金を投入するとその分、保険料負担の軽減になるからですね。

さて、年金というのは昭和17年の戦時中にできて以来(昭和16年3月に公布された)、保険料を積み立てて将来は積立金とその運用収入を年金として受け取るというものでした。元々は年金は完全積立方式から始まった。戦後の日本は焦土と化し、更にハイパーインフレで一旦は年金制度は崩壊の危機に瀕し、昭和29年に再建された。

ところがその後も積み立てとしていきましたが、昭和30年代からの経済成長期のスピードが速すぎて、年金給付と現役世代の賃金との差が大きくなるばかりだった。当時の現役世代の賃金は増加の一途を辿る中で、年金額があまりにも低い水準として取り残されていった。

現役時代と老後の収入の差が大きすぎると、それでは生活保障としての年金の役割が果たせなくなるから、次第に現役世代の保険料をその年の年金受給者に支払うという賦課方式に転換していくようになった。

賦課方式はその年の現役世代が、その年の年金受給者に送るというやり方だから、少子高齢化が進行する日本では将来の後世代の負担を増大させてしまう危険性があった。保険料支払う現役世代が少なくなって、受給者は増える一方だったら年金額の水準を変えないと一人当たりの保険料負担が増大してしまいますよね(賦課方式はそういう人口変動に弱いと言われますが、時間を使って改正しながら対応していけば必ずしも人口変動に弱いというわけでもない)。

とはいえ、高齢化率は今後も止まる事無く、将来は今の28%が40%ピークになるという見通しになっている。このままでは現役世代の保険料の負担にも限界がある。そこで平成16年の年金改正で、現役世代が負担する厚生年金保険料の上限を18.3%(これを事業主と従業員で半分して負担)、さらに国民年金保険料は平成31年4月で法定額上限17,000円に決めた。

保険料という一番の年金財源の上限が決められてしまった。今後も受給者が増え続けるのに毎年の収入が固定されてしまった。経費がこれからも増えるのに収入はずっと一定といような感じですね。だから、この範囲で年金を支給しないといけない。この収入の範囲で年金支出を抑えれば年金は破綻しないですよね。

でも年金受給者は今後も増え続けて受給者がとどまる事無く増え続けるから、支出は増えていく。じゃあどうするか…という事でその平成16年改正で導入されたのが、年金の価値を引き落としていくやり方。

年金100年安心改革の本来の意味と、国が2100年の間に目指さなければならない事(2019年7月有料メルマガバックナンバー)

年金というのは毎年の物価や賃金変動率によって金額が左右されます。基本的には物価が上がれば年金も上がり、物価が下がれば年金も下がる。この年金が経済変動で上がる時に、年金をそんなに上げない。上がる時に、そのまま上げない。たとえば物価が1%上がって、年金額が101万円になるものとします。でもこれを0.3%しか上げないという操作をする。そうすると、年金額の上げ幅は1,003,000円と価値が下がる。

何を要因で下げるのかというと、「高齢化で受給者増による年金負担増」という要因、「少子化で年金受給者を支える現役世代が減る」という要因を数値化した日本経済全体のマクロ的なものを、さっきの物価や賃金の伸びから差し引く

何十年かけて差し引いて年金価値を引き下げていくと、現役世代が納める保険料収入と年金支給が一致する時が来る。つまり負担(保険料)と給付(年金)が均衡して、財政が安定する時が来る。現役世代の平均賃金に対して年金の価値が今までの60%程度から50%ちょいで均衡するまで価値を引き落としていく。

なお、年金の価値を下げるから見た目の年金額を引き下げるという事はしない。あくまで年金額が上がったり下がったりするのは物価や賃金の変動があった時。それが均衡するまでは、積立金の運用益や元本も取り崩しながら給付に充てて年金給付に影響が無いように配慮されている。

今国がやっているのは、平成16年年金改正時に決めた年金の価値を落としながら、年金給付の支出と保険料収入が一致するところまで持っていき、一致するまでは積立金も給付に充てながら年金の支払いの影響が出ないように使っているわけです。いきなり、一致するところまで年金を突然下げたら世の中が混乱しますからね^^;

まあ、ちょっと話は長くなりましたが、厚生年金の我々が積立金の少ない国民年金野郎をどうして助けなければならんのか!と早まる前に、そもそもみんな国民年金を共通して貰う事は同じなので、国民年金にプラスになる事はみんなにプラスになるという事です。

ちょうどEUから離脱したイギリスのように、財政の悪い他のEU加盟国とどうして手を組まなきゃいけないんだって話と同じように考えてはいけない。

image by: Shutterstock.com

年金アドバイザーhirokiこの著者の記事一覧

佐賀県出身。1979年生まれ。佐賀大学経済学部卒業。民間企業に勤務しながら、2009年社会保険労務士試験合格。
その翌年に民間企業を退職してから年金相談の現場にて年金相談員を経て統括者を務め、相談員の指導教育に携わってきました。
年金は国民全員に直結するテーマにもかかわらず、とても難解でわかりにくい制度のためその内容や仕組みを一般の方々が学ぶ機会や知る機会がなかなかありません。
私のメルマガの場合、よく事例や数字を多用します。
なぜなら年金の用語は非常に難しく、用語や条文を並べ立ててもイメージが掴みづらいからです。
このメルマガを読んでいれば年金制度の全体の流れが掴めると同時に、事例による年金計算や考え方、年金の歴史や背景なども盛り込みますので気軽に楽しみながら読んでいただけたらと思います。

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