中東もキレた勘違いトランプ。安倍外交「顔色伺い作戦」加速の訳

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自国のリーダーには損得勘定ができててほしい、と願うのはどの国民も持つ本音。しかし、損得勘定が過度になり他国に迷惑をかけてしまうと、リーダーによる自国のプレゼンス低下を憂慮し始めるのも、また国民心理でしょう。ジャーナリストの高野孟さんは自身のメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』の中で、今年始めに起きたイランの司令官爆殺事件を例に、トランプ大統領の政治力と、世界に対する日本の対応について警鐘を鳴らしています。

 

トランプ狂乱で幕開けの2020年─米国こそ世界の脅威

トランプ米大統領の脳髄の中で働いている、たぶんほとんど唯一の物事の判断基準は「損か得か」ということである。それが文字通りの《経済的な損得勘定》に留まっている限りは、彼はどちらかというと「戦争嫌い」で、それは何も思想的な平和志向ゆえではなく「戦争は割に合わない」という打算からのことであった。北朝鮮との対話路線、アフガンやイラクなど中東からの米軍撤退の方向性はその表れだし、中国と貿易面では厳しく対処しながらも、軍事面での圧力を含めて全面対決に突き進もうとする政権内の対中強硬派をむしろ抑える側に回っていた。イラン核合意からの離脱はイスラエル右派の挑発に乗った馬鹿げた行為ではあったけれども、それでもトランプは繰り返し「イランと戦争するつもりはない」と表明してきた。

しかし、2020年は大統領選挙の年で何としても再選を果たさなければならず、しかもその前にはウクライナ疑惑を巡る弾劾裁判という大きな試練が待ち構える。それで私が密かに懸念してきたのは、今年に入るとトランプの内政への埋没が酷くなり、再選成就のためには何が「損か得か」という《政治的な損得勘定》だけで割り切るようになりかねず、そうなると外交・軍事政策がハチャメチャになり世界が大迷惑を被ることになりはしないか、ということだった。

それが早くも1月2日、現実となった。米軍の無人機から発射された精密誘導ミサイルによって、イラン革命防衛隊の対外工作部門「コッズ部隊」を率いてきたソレイマニ司令官が爆殺されたのである。彼はイラン国内のみならずイラクやシリアやレバノンなどシーア派の影響圏で英雄視され、イランの次期大統領候補として名前が上がったこともあるトップ級の指導者で、それを問答無用で爆殺するなど、疑いもなく国際法的に違法な国家によるテロにほかならない。これでは、イランや各地のシーア派勢力が米国および米国人にいかなる報復行為に出たとしても、イランを非難する者はいなくなってしまうだろう。

去年までのトランプは、歴代米政権の戦争政策の後始末をつける役割を担う可能性を持っていた。しかし、これで彼は中東で新しい戦乱を引き起こし、他にもあちこちで紛争を巻き起こしかねない、全世界にとっての平和と安全の主敵という大迷惑の立場を確定してしまった。日本は、欧中露などと手を組んでこの狂乱的なトランプ政権の盲動が世界を破滅させることのないよう、立ち回らなければならない。

言うまでもないことだが、この状況で日本の海上自衛隊が中東海域に何やらを「調査・研究」するために出動するなどありえないことで、直ちに計画を中止すべきである。

image by: Evan El-Amin / Shutterstock.com

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早稲田大学文学部卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。現在は半農半ジャーナリストとしてとして活動中。メルマガを読めば日本の置かれている立場が一目瞭然、今なすべきことが見えてくる。

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