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今後注目される東京大学の「発達障がい者支援」に対する取り組み

さまざまな福祉活動に関わるジャーナリストの引地達也さんが、その活動の中で感じた課題や、得られた気づきについて伝えてくれる、メルマガ『ジャーナリスティックなやさしい未来』。今回は、日本LD学会の機関誌が特集した大学における発達障がいのある学生への支援活動に関する報告の中から東大の取り組みを紹介。その取り組みの背景などを解説しながら、引地さんが惹かれ期待する理由と、少しの心配事について綴っています。

高等教育機機関の発達障がいの対応からインクルーシブの在り方を探る

日本LD学会は2019年11月25日発行の『LD研究第28巻第4号』で「大学における発達障害者支援の展開─最前線の現場から─」を特集した。東京大、京都大、筑波大、早稲田大、関西学院大からそれぞれ発達障がいのある学生への支援活動が紹介され、その効果や課題が示されており、同時に上記の大学以外でも多くの大学で同様の支援方策及び活動が展開されているが、最適な活動形態は模索中の段階であることも浮き彫りにしている。

この中で東京大の報告は「障害学生支援スタンダードの構築に向けて─東京大学『障害と高等教育に関するプラットフォーム形成事業(PHED)』の活動から─」と題され、ほかの高等教育機関のモデルになりそうで面白い。

この取り組みは東大の障がい学生だけではなく増加する留学生も含めて「国際的な共通理解に基づく『障害学生支援』が求められている」との前提を掲げ「目指すべきは、特定少数の大学が充実した支援を行う状況ではなく、全国のどの大学においても、大学の社会的役割として、障害のある学生への支援の取り組みを充実させ、その取り組みが特別なことではない状態にしていくこと」とする。

日本の高等教育機関におけるスタンダードの構築を念頭に置かれたPHED(Platform of Higher Education and Disability)は文部科学省が2017年度の「社会で活躍する障害学生支援プラットフォーム形成事業」の予算的補助を受けたものであり、国の政策と合致し普及型の開発が待たれる分野である。

今後の展望は?

PHEDでは、社会的要請の多いテーマの知識・経験の集約を構造化するためにテーマ別検討部会「Special Interest Group(SIG)」として、「アクセシビリティ保障」「支援技術活動」「キャンパス・ソーシャルワーク」「根拠資料と判断ガイドライン」「防災・災害時等緊急対策」「キャリア・就労移行支援」「法的根拠の理解・遵守」「実習および専門職養成課程での配慮」の8つに分けて、それぞれ3~9人の構成メンバーで検討し2020年度の事業終了までに「クオリティーインディケーター」(QI)を作成する計画という。

QIは医療分野での指標として作成されるものであるが、東京大学では米国での高等教育機関で用いられている例に倣い、支援体制の構築に向けた資源の確保、啓発の推進、活動の方法を示すこととし、2019年度に示されている内容としては「選択肢や可能性についての情報提供は必要だが、本人の進路について過度な方向づけを行っていないかを常に振り返る必要がある。障がい者向けとされる画一的な就労支援に陥ってはならない」等が上げられている。

東京大の取組みはインクルーシブ教育の保障を切り口にして、学内のコミュニケーション環境を整え、問題を抽出し課題化した上で解決を目指していくプラットフォーム形成というプロセスで行われている。上からの目線で物事を考える、決める、のではなく、ボトムアップに問題を抽出しながら水平型に議論し展開する雰囲気があるから、誰でも入りやすそう。

ただ、これは多くのプロジェクトがそうであるように、「最初だけ」の水平型になる可能性もある。組織の多くがヒエラルキーを作りたがるのだ。運用も同じようにインクルーシブな状態を「当たり前」にするために、どのようなコミュニケーション行為をしていくのか、東京大のQI作成と作成に至るプロセスを今後も注目したい。

image by: Shutterstock

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特別支援教育が必要な方への学びの場である「法定外シャローム大学」や就労移行支援事業所を舞台にしながら、社会にケアの概念を広めるメディアの再定義を目指す思いで、世の中をやさしい視点で描きます。誰もが気持よくなれるやさしいジャーナリスムを模索します。

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