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戦略コンサルも驚く、『獺祭』の旭酒造が達成した戦略的到達点

現代の企業は情報化社会、第三次産業革命の渦中にあります。かつてのような理念や考え方では、到底生き抜いていくことはできません。どんなに大きな企業、世界的な企業でも、それを見誤ってしまうと取り返しのつかないことになってしまうのです。無料メルマガ『戦略経営の「よもやま話」』の著者である浅井良一さんは、「戦略的到達点」を考え抜き見極められるかがポイントであると解説。浅井さんはトヨタや旭酒造などの例を挙げ、ドラッカーの論も踏まえて論じています。

変化する成長局面

社会が“変化”する中で「生活者により大きな満足を提供できる要件また条件は自ずから“変化”する」のは自明の摂理で、社会への貢献が使命であり目的でありかつ存続の必須条件である企業にとっては“変化”を活かすことは基本中の基本の原則と言えます。ITが質・量ともに変化しており“変革”のスピードは増しています。

トヨタの豊田章男社長は、こんなことをコメントしています。

「100年に一度」と言われる大変革の時代に直面し、全世界におけるトヨタグループの新車販売台数が1,000万台を超えた今、私たちには、既存のビジネスを維持・発展させながら「モビリティカンパニー」への“変革”に挑戦することが求められております。

第2次産業のトヨタが、これほどまでに“革新”を表に出して“危機感”を持っていることに、さすがだと感心させられます。生き残るには成長するには、変化のなかで“リスク”を“チャンス”とするのが正攻法なマネジメントのあり方で、皆が戸惑っている最中であるから“機会”は増幅されるというものです。

多くの優良企業の成長過程を見ていると、まずもって大きな“機会”の中で“戦略的到達点”を見定めて、あたふたと死に物狂いで考え抜いて実行し抜いて、やっと“成果”を獲得しているのが実態のようです。これは古今東西のすべての優良企業でのことで、秀でる経営者ならば、何が“戦略的到達点”であるかを考え抜き見極めます。

その意味で、豊田章男社長の「100年に一度」宣言は、トップ・マネジメントの行わなければ役割を果たしていると言えます。AI(人工知能)が、囲碁や将棋で人間の能力を凌駕している現実があるなかで、これをうまく取り込むことは通常の対応であって。自社の強みを核に、他との連携を強化するのは当然の判断となります。

トヨタは自社の強みである「TPS(トヨタ生産方式)」でお金を貯めて、その余剰で「CASE(Connected(コネクテッド)Autonomous(自動運転)Shared & Services(カーシェアリングとサービス、シェアリング)Electric(電気自動車))」やコネクティッド・シティ「Woven City(ウーブンシティ)」を“戦略的到達点”と見定め始めています。

最近は評判がよくないカルロス・ゴーンさんも“戦略的到達点”の 定めにより、ニッサンの“V字回復”を実現させたと言えます。その凄さは、懐が豊でなかったなかで大幅なコストカットを行いつつそこで得た余剰資金で“戦略的到達点”を見定めて、内部に埋もれていた有能な革新できる人財を掘り起こして実行させたことでした。

ただ残念なのは、ゴーンさんはドラッカーが言う「マネジャーが後天的に獲得できない資質“真摯さ”」には欠けていたようです。最終意思決定者であるトップ・マネジメントに“真摯さ”を持つ者がいたならば、マネジメントの“知識専門家(労働者)”として、ストック・オプションでもって遇しさらに活躍の場があったでしょう。

ここで少し脱線するのですが、トップ・マネジメントは必ずしも、最高の“知識専門家”である必要はなく、必要な人材“知識専門家(労働者)”を必要に応じて集めて、報酬と環境を整えて支援して貢献してもらうのです。ただ、トップ・マネジメントの欠かせない資質要件は“真摯さ”です。

いつもいつも企業は、その時々の環境変化のスピードに違いはあるものの変革しなければ存続ははかれません。けれど、人は常に安定と安全を志向する性を持つので、経営者の役割は、その時々の変化の核心を見極めてリスクをかけて“戦略的到達点”を焦点にしすべての資源を集中させることにあります。

その時にトップマネジメントが行わなければならない“責務”は、社会、顧客、従業員への貢献を、それを適える組織のあり方を“真摯さ”をもって考え抜き“戦略的到達点”を見極めることです。これが組織を最高に強くする要件となるのですが、とりあえずは存続を適える“戦略的到達点”を定めることから始めます。

現在の変化の核心は「情報化それも第三次産業革命」と認識されるもので、もはやそのさ中にあっては周りを見ながらの対応では、グローバルを相手にしての競合に周回遅れの敗北になりかねません。自身の「使命や目的や存続の条件」を見極め“戦略的到達点”を定めこの“変革の環境”を“機会”にしなければならないというものです。

卓越性の追求

どのように“戦略的到達点”を定めて、どのように到達するのか。もちろん資金の潤沢な企業で、有能な人材がいるならば“鬼に金棒”なのですが、そうでなくとも“変身”は可能です。そこで、灘や京都の伏見といった酒処でない「獺祭」で有名な岩国市にある「旭酒造」の行ったことを追ってそれを見て行きます。

簡単に要点をお話しすると、以下のことに集約されます。“戦略的到達点”を、結果論になるのですが「世界中のすべての愛飲者が味わえる」最高級の「大吟醸酒」をつくりあげるとしたことです。

さて、最高級の「大吟醸酒」となると、通常思い描くのは経験豊かな杜氏と称される酒造りの名人の存在です。酒造りをしているかどうかさえ知られていない山口県の一地方にある岩国で、そんな名人など望むべきもありません。“戦略的到達点”を達成するために、そこにあったのは“意欲”です。

最初はお金も技術もないなかで「誰にも負けないモノを」ということで、思い至ったのが日本一の米磨き精米歩合「二割三分磨き」でした。あとは試行錯誤して、とにかく自分たちでやり通すだけでした。それも思い通りのものが完成してもさらに販売の問題があり、東京さらにニューヨークといった新市場への開拓をやり通すだけでした。

ここで補足して、なぜ東京さらにニューヨークかということですが、東京への販売は地元では相手にされないからで、またニューヨークで売り込みに成功すれば世界市場が可能になりそうだからです。東京では百貨店に販売をかけたのですが「山口の酒造メーカーです」と言ったところ「山形ではないのですか」と言われる始末でした。

それでも、一店一店と社長自らが巡り歩き説明し、試飲してもらい得意先を増やして行きました。この方式はニューヨークでも同じように行い続けたのでした。得意先の拡大の重要な要素は、徹底的なデータ管理でつくった「二割三分磨き」の大吟醸の初心者でも飲みやすい風味にありました。

「禍福は糾える縄の如し」と言う諺があります。関わりあった杜氏との関係も、最高品質を目指としていたのでうまくいかず、自身で酒造りを行わなければならなかったのです。経験や勘を働かせることに頼れないので、何度も失敗を繰り返し徹底的に数値化しデータ化し、思いの“風味”にたどり着けました。

この「データにより管理」が“幸いに転ずる切っ掛け”を与えます。製造管理の変革が、その後の空調と温度管理のために設備を導入となり、安定した品質で一年を通して酒造り可能にしたのです。その結果、生産能力が2倍以上になるという効果も生まれ、これで他に追随されない万人好みの大吟醸を量産できるようになったのです。

このおとぎ話のような成功事例をあげたのは、高い目標を設定してやり通すなら、固定観念に邪魔されず“革新的なノウハウ”を得ることもできるということ言いたかったからで、「自らの成長のために最も優先すべきは“卓越性の追求”である。そこから充実と自信が生れる。」はドラッカーの言です。

さらにドラッカーは「成果をあげることは習得できる。」と言い、「自らの強みを知り、得意とする仕事の仕方を知り、自らにとって価値あるものを知ればよい。これに加えて、成果をあげる原則を知ればよい。何に貢献すべきかを明らかにし、何に集中すべきかを定め、目標を上げればよい」。まずはそのように“思い”ましょう。

獺祭の旭酒造の“卓越性の追求”は、さらに進化し続けます。「富士通研究所」が開発した日本酒造りを支援する“AI予測モデル”を用いての共同実証実験を実施しています。ここでの旭酒造の“強み”は、データの蓄積とそして管理技術で、それに“AI技術”が加わるとさらなる品質改善が望めそうなのです。

少し付記しますと、現在のところディープ・ラーニングでは、データがなければ“AI予測モデル”など活用しようがありません。“強みのあるスキルのある企業”においては“AI”の活用は、確実に新たな成長のための能力を付加することになるでしょう。まず、企業の“戦略的目標”は“強みのあるスキル”づくりです。

ここで少し発想を拡げていただきたいのですが、この“AI予測モデル”のシステムが完成したならば、旭酒造にどのような展望が開かれていくのかということです。これについては一概に解答を出すことはできないと思いますが、要は今後の“戦略的到達点”をどのように見定めるかかかっています。

image by: Shutterstock.com

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戦略経営のためには、各業務部門のシステム化が必要です。またその各部門のシステムを、ミッションの実現のために有機的に結合させていかなければなりません。それと同時に正しい戦略経営の知識と知恵を身につけなければなりません。ここでは、よもやま話として基本的なマネジメントの話も併せて紹介します。

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【著者】 浅井良一 【発行周期】 ほぼ週刊

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