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内外から疑問の声。「クルーズ船」問題を各紙はどう報じたのか?

2月19日から始まったクルーズ船からの下船。26日現在で、乗客・乗員のあわせて691人の感染が確認され、4人の死亡者が出ています。船内の感染対策や下船後に隔離しないことなど、内外から上がっていた疑問や不安が現実のものとなっています。ジャーナリストの内田誠さんは、メルマガ『uttiiの電子版ウォッチ DELUXE』で、下船開始翌日の各紙の論調を詳しく解説。常に政府寄りの読売すらも「船内の状況を甘く見ていた」と批判的で、クルーズ船対応のさまざまな問題点が浮き彫りになっています。

新型肺炎で揺れる「クルーズ船」問題を各紙はどう報じているか?

ラインナップ

◆1面トップの見出しから……。

《朝日》…クルーズ船 443人下船
《読売》…訪日客減 4カ月連続
《毎日》…クルーズ客443人下船
《東京》…乗客感染 隔離前に集中

◆解説面の見出しから……。

《朝日》…船内感染対策 疑念の目
《読売》…船内隔離 誤算続き
《毎日》…クルーズ船 政府苦慮
《東京》…船内隔離策 割れる評価

【プロフィール】

クルーズ船で下船が始まり、各紙、様々な議論をしています。専門家の意見の紹介を含め、「クルーズ船を巡るあれこれ」について、ザザッとみていきましょう。

■船内「感染対策」の現実■《朝日》
■個室待機要請後の感染拡大は?■《読売》
■医学史に残る不祥事■《毎日》
■全員検査をすべきだった■《東京》

船内「感染対策」の現実

【朝日】は1面トップと2面の解説記事に注目する。1面記事。本記とは別に、下船した人がタクシーに乗り込むところから、「同乗取材」が行われたようだ。埼玉県狭山市の男性は運転手に「さっき船を下りてきたんですけど、心配じゃないですか?」と問いかけたという。船内では不安から逃れられず、妻と毎日5、6回体温を測ったとも。帰宅しても、周囲から白い目で見られるのではないかと心配し、しばらくは買い物や散歩も極力控えるという。

2面記事は、船内の感染対策について深刻な疑問を提示する。マスクや手袋といった基本的な対策さえ、当初は不徹底であったこと、特に乗員は寝泊まりも相部屋で、救急搬送される人も出始めていたなど、船内の状況について乗員や乗客などへの取材成果が書き連ねられている。

また、国内外の専門家の見方、とりわけYouTubeで動画を公開し、感染対策の不備を強く批判した感染症専門の岩田健太郎教授(神戸大)が紹介されており、岩田氏は、「安全な区域」と「そうでない区域」の区別ができていない点を強く批判。安全な区域では本来、防護服を着て入ってはならないのに、防護服姿の人が両区域を行き来していたと問題にしている。

海外からの批判も多く、WHOの緊急対策責任者は、船内待機を決めた当初は「人々が拡散するより明らかに望ましい判断だった」としながら、その後の対応を問題視する見方、また、米国の疾病対策センター(CDC)も日本政府の検疫は「公衆衛生上の効果はあったが、船内で感染を防ぐには不十分だった」として、下船したすべての乗員乗客につき、少なくとも14日間は入国を認めないとしている。

uttiiの眼

感染管理が十分でなかったことは、621人(19日時点)もの感染者が出てしまったことで明確だ。そのことは、後から乗船した厚労省の検疫官や職員、DMATの看護師まで感染していることでいっそう明瞭だと思われる(看護師の感染は船内でなかった可能性もあるが…)。ところが政府の専門家会議では「感染管理は十分にできていたと会議で判断された」と感染研の勝田所長は述べている。何が起こっても、政府が失敗したという結論だけは避けたいのだろうか。

CDCの姿勢は当然と言える。船内隔離が始まった後に感染した可能性が捨てきれない以上、無症状で検査が陰性であっても、潜伏期間内にある感染者がいるかもしれないからだ。2月5日の隔離開始から後に感染した人はいないという日本政府の立場は、全く受け入れられていないということになる。

個室待機要請後の感染拡大は?

【読売】は3面の解説記事「スキャナー」で、クルーズ船について書いている。見出しから紹介しよう。
船内隔離 誤算続き
政府、水際重視→感染増 対応後手に
海外報道 「危険な監獄」「人権侵害」

《朝日》同様、下船した人に話を聞いていて、簡単に紹介している。《読売》は「政府の対応は当初、感染者の入国を阻止する水際対策重視で、船内の感染状況を甘く見た感は否めない」と珍しく政府に対して批判的なことを書いている。感染者が10人出たとの情報が伝えられ、政府は急遽、乗客に個室での2週間待機を求めることを決める。しかし、感染者は用意した専門病院のベッド数を上回る勢いで増え、政府は常に後手に回ることに。

この船内隔離は米政府からも「最良の方法」と評価され、もしすぐに下船させていたら国内でパニックが起きていたと政府高官は話しているらしい。誤算は乗員への対応で、「船長の判断任せで、感染防止策が徹底されなかったこと。トイレや浴室を共同使用していた」ことだと。

《読売》は検証の論点をうまくまとめている。すなわち「船内で感染が拡がった時期が、個室待機を要請した2月5日の前か後か」が重要であり、専門家会議の座長は「乗客の発症が7日をピークに減っていた」ことから、多くは個室待機の前に感染していたと結論付けているのに対し、《朝日》も紹介していた岩田健太郎教授は「船内はものすごい悲惨な状況で怖いと感じました」と言っている。また船内に入った別の医師は「発熱や咳などの症状がある乗員が多かった。相部屋で隔離はされていない様子だった」と語っているという。

《読売》は最後に、外国メディアによる批判を紹介している。米国では、ニューヨークタイムズ紙は「「こうしてはいけない」と教科書に載る見本」という専門家の意見、USAトゥデイ紙は国立感染症研究所長の「感染を防ぐという意味ではまったく効果はなかった」との発言を、それぞれ紹介している。ロシア国営テレビでは司会者がクルーズ船のことを「監獄」と表現した。

uttiiの眼

発症のピークから類推できることはどこからどこまでか、キチンと議論して欲しいと思う。岩田氏の船内観察は、直ちに2月5日以降の船内感染拡大を意味するものではないかもしれないが、それでも、ある重要な示唆を与えてくれている。「安全ゾーン」と「危険ゾーン」の区別が曖昧だったというのは決定的ですらある。

最も重大なのは、私自身は「検疫官の感染」という事実だと思っている。防護のプロでもあるはずの検疫官が船内で感染したのは、「危険」なエリアを「安全」と間違えたからではなかったのか。検疫官が間違えるほどであれば、乗員は勿論、乗客が正しい区分に従って行動したとは思えない。

医学史に残る不祥事

【毎日】は2面で、問題点を整理し、識者3人のコメントを「ミニ論点」の形で掲載している。まず時系列的な整理から。1月25日に香港で下船した男性以外に船内に感染者がいると分かったのは2月5日。この日までは乗客はそれまでと同じ行動を取り、バーティーなども開かれていた。そして、感染はこの間に広まり、5日以降はコントロールができていたというのが政府見解。

しかし、《朝日》《読売》の紹介していた岩田健太郎教授の指摘。あるいは、「乗員の新たな感染が分かった時点で、各国政府と協力して下船させる方針に転換すべきだった」という医師の批判などがある。

識者3人のうち、医療ガバナンス研究所理事長、上昌広(かみ・まさひろ)氏の批判を紹介する。まず上氏は「乗客らを一律にクルーズ船内で隔離することには意味がない」と断言。「到着後はすぐに下船させ、症状に応じて個別に対応すべきだった」とも。こうしたケースで感染拡大を防ぐには下船が必要だという論文がたくさんあるという。

検疫は本来、政治とは一線を画し、「検疫所長が旅行者の健康と人権を考えて隔離の判断をする」もの。今回、「東京五輪の開催や支持率などの雑念が入った政治家が、超法規的に事実上の隔離を判断した。法に基づかない身体拘束をしているとも言え、医学史に残る不祥事となった」と言い切り、この「政治家の介入」に疑問を挟まなかったメディアにも責任の一端があるという。

uttiiの眼

上先生には新型インフルの折、取材で何度もお世話になった。当時も今も、その峻厳な批判の舌鋒は鋭い。大型船の感染管理は非常に難しく、感染拡大を防ぐためにはまず何よりも下船させることが必要なのだという指摘は重要。

政府関係者は「物理的に無理」と答えるかもしれないが、とにかく下船させる方向で受け入れ施設を確保するよう努力をすべきだったのではないかと私も思う。まさしく、これから検証の最重要論点である「船内隔離後に感染は拡がったのか」という点とも関わって、あり得る選択肢だったのか、そうではなかったのか、今からでも吟味されるべきだろう。

全員検査をすべきだった

【東京】は2面の解説記事「核心」。見出しから見てみよう。
船内隔離策 割れる評価
「早く帰宅、各国対応すべきだった」
「適切。検疫終わるまでは上陸無理」

《東京》の記事はリードで「2週間にわたる「船内隔離」は正しかったのか」と、率直な問題提起をしている。紹介されているのは、船内隔離は適切だったという岩手医大の桜井滋教授と、むしろ批判する国立病院機構・三重病院の谷口清洲医師、さらに乗客有志で作る「船内隔離者緊急ネットワーク」(千田忠代表)、そして、《毎日》がスペースを取って紹介していた医療ガバナンス研究所の上昌広理事長。

谷口医師は「客船内部の感染が危惧されれば、症状のない日本人は自宅で健康観察、外国人は施設滞在やチャーター機などでの帰国という選択肢もあった」という立場。船内の乗客で作るネットワークは国の対策を、「感染拡大を防げていないばかりか、感染していない健康な乗客の感染や疾病のリスクを高めている」(「緊急要請書」より)と痛烈に批判。そして上氏は、ようやく全員に検査を実施することを決めた政府の対応の遅れを批判し、「みんなが自分が感染しているかどうか不安。乗客の立場に立ち、希望者に早い段階で検査をやるべきだった」と指摘している。

uttiiの眼

船内の乗客がネットワークを組織し、政府に批判的な緊急要請書を出していることには驚いた。《毎日》のところでは触れていなかったが、上氏の検査に関する指摘は、この問題を考える際に誰もが逢着する点だ。なんとしても検査しきるという立場を確立し、そこに注力すべきだったことは間違いない。その結果を見れば、次に何をしなければならないか、ハッキリとした答えが出ていたはずだ。

【あとがき】

以上、いかがでしたでしょうか。乗客のうち、2人の方が亡くなったと速報が入ってきました。80代の男女だそうで、これで、日本で亡くなった日本人は3人ということに。国内での蔓延を阻止するために、もう一度基本に立ち返って手洗いや咳エチケットを徹底しなければなりませんね。

image by:Joel_420 / shutterstock

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ニュースステーションを皮切りにテレビの世界に入って34年。サンデープロジェクト(テレビ朝日)で数々の取材とリポートに携わり、スーパーニュース・アンカー(関西テレビ)や吉田照美ソコダイジナトコ(文化放送)でコメンテーター、J-WAVEのジャム・ザ・ワールドではナビゲーターを務めた。ネット上のメディア、『デモクラTV』の創立メンバーで、自身が司会を務める「デモくらジオ」(金曜夜8時から10時。「ヴィンテージ・ジャズをアナログ・プレーヤーで聴きながら、リラックスして一週間を振り返る名物プログラム」)は番組開始以来、放送300回を超えた。

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【著者】 内田誠 【月額】 月額330円(税込) 【発行周期】 週1回程度

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