長引く超低金利やセブン銀行など振興銀行の攻勢に多くの地方銀行が喘いでいます。そんな中、「地域の人が欲しているのは何か?」「地域活性化のために何ができるか」の原点に戻り、さまざまな工夫を始めた地銀があるようです。メルマガ『理央 周 の 売れる仕組み創造ラボ 【Marketing Report】』発行人の理央周さんが、3つの地銀の取り組みを紹介し、企業が生き抜くために必要な価値の付け方を伝えます。
地方銀行のチャレンジに学ぶデジタル時代の価値の付け方
ここのところ、銀行が「苦戦」しているという話題を聞くようになりました。特に、地方銀行が業績の低迷、収益構造の悪化などに悩んでいるという話をよく聞きます。この背景には、人口が減っていたり、低金利が続いていたりという経営環境の変化があるのも事実です。
また、去年の消費税増税からキャッシュレス化も進み、セブン銀行はじめ、コンビニでも現金を引き落とせるようになりました。さらにネットバンキングも普及してきたので、銀行に行ってサービスを利用する機会も減っています。
実際に私の家の最寄駅にある銀行の出張所も、もう一駅離れた支店に統合されるという案内が来ていました。銀行としては、店舗を持つことで地代・賃料と人件費がかかるので、間接部門を統合することで効率的な経営をしたい、と考えているのでしょう。
このような状況の中で、なんとか自店舗に集客をして、収益を好転させていこうという取り組みをしている銀行の事例が、1月21日の日本経済新聞で紹介されていました。
阿波銀行が昨年12月開業した「本店営業部」のビルは、徳島市内でかつて、にぎわいの中心だった、東新町商店街の玄関口に建てられたそうです。そのうちの、なんと約6割を市民ギャラリーや、コワーキングスペースなどの“共用空間”に割いているとのことです。
通常、銀行というと広い窓口が並び、その前には待合いのスペースとATMがあり、その背後に仕事をしているオフィススペースがある、というイメージです。阿波銀行としては「市中心街のにぎわいの創出や、地域の活性化につなげたい」とのこと。店内には、「フロアアテンダント」と呼ばれる案内役を11人配置し、銀行に用事が無い人も含めて、1日1500人程度の来店を見込んでいるとのことです。
富山第一銀行でも、店舗の約半分をフリースペースにした新型店舗を開設したそうです。なんでも、コンビニ跡を改装した中川支店・大野支店に、商談だけではなく、“自習”に使える「NomuLab─のむラボ─」を設けた。なんだか、図書館みたいですよね。
ここには、スーツではなく“パーカー姿”の行員が常駐するのと、リラックスした雰囲気で「接点のなかった人と関わる場」を狙っているとのことです。勉強する高校生もいるので、迎えに来店した親が、積み立て型の少額投資非課税制度(つみたてNISA)や個人型確定拠出年金「iDeCo(イデコ)」の口座を申し込むこともあるとのことです。
山口銀行ではスペインバル併設店舗があるそうです。周辺は過疎化が進んで、飲食店も少ないことから、人が集まる飲食店を併設したとのこと。2階には地域の会合に使えるスペースを設けたので、銀行以外の用事で支店を訪れる地元客が大幅に増え、「これまで接点が乏しかった人とも関係を持ちやすくなった」とのことです。
ギャラリー、図書館に、バルと、どれも一見、銀行とはまったく関係のなさそうなことばかりです。しかし、どれも店舗に来てもらうには、地域の人たちに何を提供すればいいのか?を考えた上での取り組みですよね。どうしても、業績が落ちてくると「キャンペーンをやろう」とか「特別金利を用意しよう」と、小手先の施策に走りがちです。
もともと、地方銀行は「地域に密着して、活性化していく」ための銀行でした。その原点に戻ってみると、「地域の人が欲しているのは何か?」をしっかりと考えた上での取り組みですよね。
銀行に限らず、お客様がジリ貧になることはどの業界でもありうることですその際に、焦って値引きやキャンペーンをする前に、もう一度自社が何のために仕事をしているのか?を見つめ直してみると、このようなアイディアが生まれてくるのです。
image by: shuttersyock