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記録したがらない安倍政権。どうなる?新型コロナの公文書管理

政府は10日の閣議で、新型コロナウイルスの感染拡大を「歴史的緊急事態」に指定することを決定。これにより、この件に関わる会議の議事録作成などが義務付けられることになりました。公文書の改ざんやずさんな管理が続いた安倍政権を考えれば進歩ですが、読売を除く各紙からは注文も多く出ています。ジャーナリストの内田誠さんが、メルマガ『uttiiの電子版ウォッチ DELUXE』で、各紙の論調を詳しく解説。何が記録され、何が記録されないのか、しっかりと注視していく必要があるようです。

新型コロナの公文書管理について各紙はどう報じたか?

ラインナップ

◆1面トップの見出しから……。

《朝日》…ダウ急落 一時2000ドル安
《読売》…NY株一時2000ドル安
《毎日》…NY株一時2000ドル安
《東京》…自粛 19日まで継続を

◆解説面の見出しから……。

《朝日》…金融市場 大揺れ
《読売》…世界株安が加速
《毎日》…市場 リスク回避一色
《東京》…連日の閣僚会合 議事録なし

【プロフィール】

■詳細な記録を残せ■《朝日》
■「意趣返し」?■《読売》
■「独断専行」の安倍首相■《毎日》
■新型コロナ関連の公文書廃棄を停止せよ■《東京》

詳細な記録を残せ

【朝日】は4面に記事、14面に社説。見出しから。

(4面) 新型コロナ 議事録義務に
「歴史的緊急事態」に指定へ
判断に余地 抜け道も

(14面・社説)
新型コロナ対応 検証に堪える記録残せ

uttiiの眼

これは、安倍首相が参院予算委で表明したもので、公文書管理ガイドラインに基づいて、新型コロナウイルスの感染拡大の事態を、「歴史的緊急事態」に指定するというもの。指定されると、関連会議の議事録作成などが義務づけられるが、「最終決定前にある実質的協議の議事がどこまで記録されるかが焦点」だと、《朝日》は早速具体的な注文を出している。

もともとは4日の党首会談で立憲民主党の枝野代表から提案されていたもので、政権サイドから積極的に表明したのではなく、同党の蓮舫議員が「いつ指示するのか」と質問したことに答えたもの。東日本大震災で、旧民主党政権が決定過程の記録をしていなかったことの反省からガイドラインに盛り込まれたもので、「国民の生命、進退、財産に大規模かつ重大な被害が生じ、また生じるおそれがある緊急事態」に政府が指定することとしている。

しかし、政府が「途中経過」だと判断すれば議事録の作成義務はないということになり、これが「抜け道」になっているという。例えば、実質的な意思決定をした首相と関係閣僚による非公式の「連絡会議」が議事録に残されるかどうかが重要なのは明らかだが、首相は国会で詳細な議事録の作成は対策本部のものに留める考えを滲ませているという。

「情報公開クリアリングハウス」の三木由希子理事長は、この「抜け道」を指摘しつつ、「公文書ガイドラインには、閣僚が参加する会議は、議事録を作らなければならない義務がある」とも指摘。「連絡会議」に首相や官房長官が出席している以上、決定や了解がなくても記録を作るべきだ」としている。

《朝日》の社説は、こうした政府の姿勢について、「森友・加計学園や桜を見る会を巡る問題など、この政権で公文書の改ざんやずさんな管理が続いてきたことを思えば、一定の前進」としながら、新型コロナウイルスの感染拡大への対策の中で開催された3回の専門家会議について「速記録をつくったのは1回だけで、残りの2回は休日だったため速記者の手配ができなかったという。録音もしていないとは、にわかに信じ難いが、事実なら怠慢である」と強く批判。

確かに、安倍政権が本気で記録を残そうとしているようには見えない。それどころか政治判断そのものが、必要な手続きを経ず、独断によって行われている懸念さえ強い。なかでもこの間、首相自身の口から出てきた三つの「要請」。イベントやスポーツ大会の自粛、全国一律の休校措置、そして中韓からの入国規制強化については、《朝日》も指摘するように「科学的な根拠を示すことなく」、また関係部署への周知・了解さえないまま行われている。「独断」が「独裁」になる前に、何とかしなければならない問題だろう。

「意趣返し」?

【読売】は4面の政治面で取り上げている。見出しから。

新型コロナ議事録 要求
震災時は自公側が批判
参院予算委 野党追及
首相「速やかに作成したい」

uttiiの眼

《読売》の取り上げ方の特徴は、飽くまで国会でのやり取りとして、与野党の攻防という次元でのみ、取り上げているところにある。そのことが見出しにも現れていて、4行のうち、上から3つは「野党」が主語ないし隠れた主体になっている。リードにも「与党は、東日本大震災で民主党政権が議事録を作っていなかったことを追及した経緯もあり、攻守が入れ替わった格好となった」と書いていて、与党対野党の図式の中に問題を落とし込もうとしているのがアリアリだ。

こうした取り上げ方の中から生まれてくる印象は、精々、「どっちもどっち」、「政争」といったものであり、ことが行政文書の管理という、民主主義の死命を制するような大問題だという認識は生まれてこない。与野党間の争いは勿論その通りだが、それだけではゴシップと大差ない。

その最たるものが次の記述。「立民、国民両党が議事録に焦点を当てたのは、「過去の意趣返し」(自民党中堅)との見方もある」という《読売》の書き方。これだけでは、メディアとしてどうなのか。

「独断専行」の安倍首相

【毎日】は5面。見出しから。

新型コロナ 歴史的緊急事態 指定へ
政策決定 議事録義務化
入国制限根拠 例外の恐れ

uttiiの眼

《毎日》の基調は、「歴史的緊急事態」に指定されたとしても、結局は政策決定の根拠は明らかにされないのではないかという懸念だ。この日の国会審議でも、質問者は中韓からの入国制限強化の判断根拠を明らかにするよう首相に再三求めたにもかかわらず、首相の答弁は「政治判断」とするだけで、一向に説明しようとしなかった。

考えてみれば、中韓からの入国規制強化だけでなく、イベントやスポーツ大会の自粛要請に全国一律の休校措置要請と、首相が専門家の意見も聞かず、関係部署に報せもせずに決めてしまうことがあいついだ。こうした状況を是認しながら、ただ公文書管理ガイドライン上の「歴史的緊急事態」指定を行ったからといって、後に十分な検証が可能となるような、政策決定経緯の記録が残されることは期待できない。そう考えるのが自然だろう。

最後段は、その「歴史的緊急事態」に指定されても、記録が義務づけられるのは「政策の決定を行う会議」だけで、実質的な議論が行われる「連絡会議」は記録しなくてもよいことになりそうだという点についての記述。

新型コロナ関連の公文書廃棄を停止せよ

【東京】は2面の解説記事「核心」。見出しから。

連日の閣僚会合 議事録なし
「歴史的緊急事態」でも詳細残らぬ恐れ

uttiiの眼

《東京》はまず、政府が新型コロナウイルスの感染拡大に対応するなか、中国・武漢市の邦人をチャーター機で帰国させると表明した1月26日以降ほぼ毎日開かれてきた「連絡会議」について、その議事録を作成していないことを認めた点を指摘。また、政府は新型コロナウイルスの感染拡大を「歴史的緊急事態」に指定するとしながら、「連絡会議」の議事録作成と公表の時期について明示しなかったことから、「作られる記録が、詳細な内容を明らかにするものではない可能性もある」と訝(いぶか)っている。

実際、新型コロナを巡る重要な決定は対策本部の少人数の会議や「首相の独断」(立憲の福山哲郎幹事長)で決まっているとみられていると。

森友・加計問題や桜を見る会を巡り、「公文書を積極的に残そうとしてこなかった」安倍政権に対して、公文書管理に詳しい研究者は「新型コロナ関係のすべての公文書の廃棄を停止してほしい。招来の感染症対策にも生かせるよう、議事録を正確に残すべきだ」(成城大の瀬畑源非常勤講師)と言っているという。

研究者でなくても、この問題に関する公文書が作られず、貴重な資料さえ次々廃棄されているのだとしたら、それだけで暗い気持ちになる。

【あとがき】

以上、いかがでしたでしょうか。最初、「歴史的緊急事態」とは随分大仰なネーミングだなあと思いましたが、このところ、毎年のように「歴史的」災厄に襲われていることから考えれば大袈裟でも何でもなく、とりあえず記録に残せるものはすべて残す、新型コロナ関連だけでなく、あらゆる政府内の動きについて記録を残していくことが必要だし、テクノロジー的にも問題なく、可能なのではないかと思います。そのための行政組織を一つ新設してもよいくらいだと思いますが、いかがでしょう。

image by: Drop of Light / shutterstock

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ニュースステーションを皮切りにテレビの世界に入って34年。サンデープロジェクト(テレビ朝日)で数々の取材とリポートに携わり、スーパーニュース・アンカー(関西テレビ)や吉田照美ソコダイジナトコ(文化放送)でコメンテーター、J-WAVEのジャム・ザ・ワールドではナビゲーターを務めた。ネット上のメディア、『デモクラTV』の創立メンバーで、自身が司会を務める「デモくらジオ」(金曜夜8時から10時。「ヴィンテージ・ジャズをアナログ・プレーヤーで聴きながら、リラックスして一週間を振り返る名物プログラム」)は番組開始以来、放送300回を超えた。

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【著者】 内田誠 【月額】 月額330円(税込) 【発行周期】 週1回程度

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