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これでも安倍首相は無関係か。森友学園文書から消された「記述」

先日掲載の「メディアは死んだ。森友問題で自殺した職員の訴えを無視する愚行」でもお伝えしたとおり、文書改ざんを巡り自殺に追い込まれた財務省職員・赤木俊夫氏の遺書と手記が公開され、大きな話題となっています。赤木氏の妻は改ざんを指示したとされる佐川元理財局長と国を提訴しましたが、これを「個人的な怨念」と受け止めてはいけないとするのは、元全国紙社会部記者の新 恭さん。新さんは自身のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』で、「ことは国家的犯罪の問題」とし、そう判断せざるを得ない理由を詳述しています。

真実を求め森友改ざん犠牲者の妻が提訴

近畿財務局職員だった赤木俊夫氏(享年54)を自殺に追い込んだ森友文書改ざん事件の真相を求めて、その妻、A子さんは3月18日、国と、財務省元理財局長、佐川宣寿氏に、計1億1,000万円余りの損害賠償を求める訴えを、大阪地方裁判所に起こした。

赤木氏は財務省の近畿財務局で上席国有財産管理官をつとめていたが、安倍首相夫妻の関与をうかがわせる公文書の改ざんを本省に強要され、自責の念と心身の疲労がもとで自殺した。

なぜ夫が、国家公務員にあるまじき違法行為を押しつけられて犠牲にならなければならなかったのか。一方で、改ざんの首謀者たちは、なぜ今も、のうのうとしていられるのか。

A子さんは提訴と同時に、俊夫さんが自宅のパソコンに保存していた「手記」と、自筆の遺書を公開した。俊夫さんの苦悩とともに、公文書改ざんを現場の職員に迫る財務省本省の動きが克明に書き込まれている重要資料だ。

提訴の手続きを終えて記者会見した代理人弁護士は、A子さんのコメントを読み上げた。

「夫が亡くなって2年…心のつかえがとれないままで夫が死を決意した本当のところを知りたいと思っています。夫が死を選ぶ原因となった改ざんは誰が何のためにやったのか。…今でも近畿財務局の中には、話す機会を奪われ、苦しんでいる人がいます。…佐川さん、どうか改ざんの経緯を、ほんとうのことを話してください」

A子さんは代理人を通じて佐川氏本人に手紙を送り、誠実な回答を望んだが、なしのつぶてだった。麻生財務大臣に墓参りに来ていただきたいと財務省職員を通じて頼んだが、麻生大臣は国会で「遺族の方が来てほしくないと言っているから伺っていない」と、なぜか事実と違う発言をして素知らぬ顔を決め込んだ。

訴訟に至った決め手となったのは、夫の自殺を人事院が公務上災害と認定したにもかかわらず、その認定理由などが記された資料の情報開示が適正に行われていないことだった。出てきた資料のほとんどは黒塗りにされていたのだ。

人事院は、A子さんから提出された「手記」と遺書、関係者からの聞き取りによって、事実認定を行ったとみられる。

「手記」には、当時の財務省理財局長、佐川宣寿氏から公文書改ざんの指示があったと、はっきり書かれている。その内容を認めたからこそ、人事院が公務上災害に認定したのではないのだろうか。「手記」の内容に目を凝らしてみよう。

赤木氏は、森友学園が「神道の小学校」を計画した大阪・豊中市の国有地を、2016年6月に国が払い下げたさいの契約にはかかわっていない。だが、豊中市議が売り渡し価格の公表を求めて提訴し朝日新聞などがスクープした2017年2月には、この問題の担当になっていた。

問題発覚から半年間。「その対応に連日の深夜残業や休日出勤を余儀なくされ、その結果、強度なストレスが蓄積し、心身に支障が生じ、平成29年7月から病気休暇(休職)に至りました」(手記より)

赤木氏が抵抗しながらも逆らいきれず、ついに手を染めてしまったのが決裁文書の改ざんだった。

「佐川理財局長の指示を受けた、財務本省理財局幹部、補佐が過剰に修正箇所を決め、補佐の修正した文書を近畿局で差し替えしました」(同)

初めて改ざん作業をしたのは2017年2月26日のことだ。日曜日を家族と過ごしていたところに、近畿財務局の池田靖統括官から「本省から指示された修正作業が多いので手伝ってほしい」との電話連絡を受け、午後4時半ごろ、登庁した。

その9日前の2月17日、衆議院予算委員会で安倍首相が繰り出したのが今や有名になったこの答弁。「私や妻はこの認可あるいは国有地払い下げに一切かかわっていない。もし、かかわっていたのであれば総理大臣をやめる」

2月24日には佐川理財局長が「(森友学園との)交渉記録はない」と答弁し、それに合わせるように2日後に始まったのが、赤木氏を巻き込んだ決裁文書の改ざん作業だ。

その後も修正の指示があるたびに、他の職員とともに抵抗したが、所詮、逆らい切れるものではない。

本省理財局の中村総務課長や田村国有財産審理室長からの電話を財務局管財部長経由で受けた美並近畿財務局長は「本件に関して私が全責任を負う」と言って、本省指示に従うよう促した。

改ざんされた決裁文書からは、以下のような記述が削除されている。

平成26年4月28日 (森友学園との)打ち合わせの際、「本年4月25日、安倍昭恵総理夫人を現地に案内し、夫人からは『いい土地ですから、前に進めてください。』とのお言葉をいただいた。」との発言あり。

産経新聞社のインターネット記事に森友学園が小学校運営に乗り出している旨の記事が掲載。記事の中で、安倍首相夫人が森友学園に訪問した際に、学園の教育方針に感涙した旨が記載される。

契約交渉にあたった担当職員が、森友学園を特別扱いせざるを得なかった理由を決裁文書に残しておきたかったのかもしれない。佐川氏は決裁文書を読んで、そこまで書かれていることに驚愕し、抹消を命じたのだろう。

赤木氏の「手記」には、佐川氏への痛烈な批判が書き連ねられている。

「パワハラで有名な佐川局長の指示には誰も背けない…修正する箇所を事細かく指示したのかどうかはわかりませんが、補佐などが過剰反応して、修正範囲をどんどん拡大し、修正した回数は3回ないし4回程度と認識しています。…森友事案はすべて本省の指示…嘘に嘘を塗り重ねるという、通常ではあり得ない対応を本省(佐川)は引き起こしたのです」「野党議員からの様々な追求を避けるために原則として資料はできるだけ開示しないこと、開示するタイミングもできるだけ後送りとするよう指示があったと聞いています」

公僕たる国家公務員が、公文書に手をつける罪深さ。赤木氏の心の震えが伝わってくるようだ。

「手記」に安倍首相夫妻に言及している部分はない。しかし、安倍首相夫妻が森友学園の教育勅語を中心にした教育方針と小学校新設に興味を抱かなければ、森友学園の籠池理事長夫妻に小学校建設の野望が生まれることもなく、たとえ生まれたとしても、安倍首相夫妻が肩入れしている事実がなければ、財務省が、豊中市内の国有地を破格の条件で貸したり、売却したりすることはなかっただろう。

2018年6月4日に財務省が発表した「決裁文書改ざん調査報告書」にはこう書かれている。

17年2月17日の衆議院予算委員会で安倍首相が「私や妻がかかわっていたのであれば、総理大臣をやめる」と答弁したのがきっかけとなり、「本省理財局の総務課長から国有財産審理室長および近畿財務局の管財部長に対し、総理夫人の名前が入った書類の存否について確認がなされた。…理財局長はそうした記載のある文書を外に出すべきではなく、最低限の記載とすべきであると反応した。具体的な指示はなかったものの、総務課長と国有財産審理室長は決裁文書の公表を求められる場合に備えて記載を直す必要があると認識した。

「報告書」は佐川理財局長から「具体的な指示はなかった」としているのに対し、赤木氏の「手記」は、佐川氏の指示があったと断言している。野党はこのため財務省に、身内ではなく第三者による「再調査」を求め、佐川氏を再び証人喚問するよう与党に働きかけていくかまえだ。

事件の輪郭はすでに多くの国民の目に明らかである。

安倍首相夫妻が、教育勅語を園児に唱えさせる森友学園の教育方針に感激し、小学校の建設を支援するため昭恵夫人が名誉校長に就任したこと。

大きな後ろ盾の存在をちらつかされた財務省と近畿財務局は国有地の異例値下げに応じ、タダ同然で払い下げたこと。

その疑惑まみれの取引がメディアに報じられ、国会で追及されるにおよび、安倍首相は無関係を装って「私や妻がかかわっていたのなら総理大臣をやめる」と国会で答弁したこと…。

当時の佐川理財局長が「交渉記録はありません」とウソをついて時間を稼ぎ、公文書の削除、改ざんを指示したのは、すべて安倍首相と自らの保身のためではなかったか。

これを、あくまで他人事であるかのように発言できるのが安倍首相の特質である。A子さんが提訴した3月18日、官邸を出るさいに記者から感想を求められて、こう語った。

「大変痛ましい出来事であり、本当に胸が痛みます…改ざんは二度とあってはならない」

なんという白々しいコメントだろうか。誠意のかけらもない政府の姿勢がA子さんを訴訟に駆り立てた面もあるだろう。

麻生財務大臣は国会で「再調査はしない」と答弁、安倍首相は「財務大臣の言ったことが政府としての考え」と述べた。財務省がすでに調査報告書を出しており、新しい事実は出ていない、というのがその理由だ。

A子さんは「この二人は調査される側で、再調査しないと発言する立場ではないと思います」と怒りのコメントを発表した。

A子さんは夫の無念を訴訟という手段で晴らそうとしているように見える。しかし、われわれはそれを、個人的な怨念といったたぐいで、すませてはならないのではないか。公文書を改ざんしたことを財務省自ら認めているにもかかわらず、検察は誰一人として起訴しなかった。

その背後に、安倍官邸ベッタリの法務事務次官、黒川弘務氏の存在があった。いまは東京高検検事長である黒川氏が、法解釈の恣意的変更で定年を半年延長してもらい、次期検事総長の座をねらってるのは周知のとおりだ。

赤木氏が「手記」において、刑事罰、懲戒処分を受けるべき者として名指しした本省の佐川理財局長、中村総務課長、田村国有財産審理室長、担当窓口の杉田補佐のうち、マスコミの取材を逃れたい一心であろう佐川氏を除く面々はいずれも出世している。ちなみに中村総務課長、すなわち中村稔氏は現在、駐英公使だ。

もとはといえば、安倍首相夫妻の個人的教育観がもたらした問題である。それをなかったことにするために、国有財産を管理する部門のトップが部下に公文書の改ざんという犯罪的行為を命じ、実際にそれをやらされた地方の現場職員は良心の呵責から心を病み、自殺にまで追い込まれた。

幹部官僚人事を握る安倍官邸と、忖度に余念のない高級官僚、そして違法行為を押しつけられ、しっぽ切りの憂き目にあう現場の職員たち。この不条理な組織体質と政治の退廃は、目を覆うばかりだ。けっして、赤木夫妻の無念だけに矮小化してはならない。ことは国家的犯罪の問題である。

image by: htomari, CC BY-SA 2.0, via Wikimedia Commons

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