森友学園を巡る文書改ざん問題で自殺に追い込まれた財務省職員の妻が、夫が残した手記を公開し事件の再調査を求めていましたが、安倍総理、麻生大臣がともに拒否し、その是非が話題となっています。両氏の対応を非難すると同時に、メディアの姿勢についても問題視するのは、健康社会学者の河合薫さん。河合さんはメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』に、そう思わざるを得ない理由を記しています。
※本記事は有料メルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』2020年3月25日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:河合薫(かわい・かおる)
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。
報道機関の使命は「権力の監視」というのなら
「財務省が真実に反する虚偽の答弁を貫いている」
「最後は下部がしっぽを切られる」――。
2年前の3月7日、命を絶った近畿財務局職員の男性の手記とメモが、先日公表されました。A4で7枚。全文読みましたが、そこには公表に踏み切るまでの奥さまの心情も書かれていて、読んでいるだけで苦しくなりました。
と同時に、文書改ざんに至るまでの経緯、その時々の権力者たちの言動、男性が追い詰められていく状況が詳細に綴られていて、“権力”というものへの怒りと絶望、胸をかきむしられるような感覚を覚えました。
記事を書いたのは元NHKの記者の男性です。彼はNHKで森友事件を取材していたところ、記者を外されたことからNHKを辞職。財務局職員の男性の手記を初めて目にしたのは、男性が亡くなって半年あまりがたった11月27日のことだったといいます。
詳細は記事をご覧いただきたいのですが、論点だけまとめると以下のとおり
です。
- 元記者に会った日、奥さまは「手記を元記者に託して夫の後を追おう」と考えていたが元記者の男性があまりに興奮して応じたため、「これは記事にしないでください」と言い残して、手記を持ち帰った
- それから1年4カ月。「夫の職場だから大切にしたい」という奥さんの気持ちを踏みにじるような態度を財務省と近畿財務局は繰り返した
- 「麻生大臣が墓参りに来たいと言っているがどうするか?」という財務省職員からの連絡に、「来て欲しい」と答えたにも関わらず、一方的に「マスコミ対応が大変だから断る」告げられた。
- 国会(当時)では麻生大臣が、「遺族が来て欲しくないということだったので(墓参りに)伺っていない」と答弁しつづけた
…これはごく一部ですが、その他にも多くの誠意のない言動が「当たり前」のように繰り返され、奥さんの気持ちも変化していきます。そして、「真相を知るには裁判しかない」という気持ちが芽生えていったのです。
つまり、「真相を知りたい」という一縷の望みをかけて手記を公表し、裁判を起こすことを決意したのです。
ところが、国会では、安倍総理大臣らは再調査はしない意向を示し続けました。「調査は行わない」「自分の発言が問題ではない」などと発言を繰り返しました。
こういった状況に対し奥さんが、以下のメッセージを元記者に送り、マスコミに公表されたのはご承知のとおりです。
安倍首相は2017年2月17日の国会の発言で改ざんが始まる原因をつくりました。麻生大臣は墓参にきてほしいと伝えたのに国会で私の言葉をねじ曲げました。この2人は調査される側で、再調査しないと発言する立場にないと思います。
命を絶った男性の手記は実に丁寧かつ詳細にまとめれており、自筆のメモにはその時々の苦悩と怒りと絶望が描かれています。これを読んで「自分には関係ない」と言える人間が、もしこの世にいるとしたら…、それは「人」としてどうなのか?そんな「人」を許していいのか?
ただただ真面目に職務に向き合ってきた人が、追い詰められ、恐怖に震え、怯え、本当は生きたいのに、生きる力が萎える。そんな理不尽が見過ごされていいわけがない。そんな思いから、今回、メルマガで取り上げました。