MAG2 NEWS MENU

新型コロナの会見が分かりにくい。障がい者への配慮がヒントに

知事など自治体の首長が、新型コロナウイルスの感染の状況や対策を伝える会見を連日開き、その様子をメディアが伝えています。この会見に知的障がい者ら「情報弱者」への配慮がないと問題提起するのは、彼らへの支援に取り組むメルマガ『ジャーナリスティックなやさしい未来』の著者、引地達也さんです。引地さんは、支援者が支援の対象者といまの危機感を共有できない窮状を伝え、難しい言葉を使わず、図表や絵などの活用をもっともっと意識してほしいと訴えています。

記者会見をすべて障がい者にも「分かりやすく」しなければ

新型コロナウイルスによる非常事態宣言に伴い、東京都をはじめ宣言された府県は休業要請の業種を絞り公表している。感染拡大に向けては重要なポイントであり、私自身も一市民として協力が基本でありつつも、休業が難しい障がい者の福祉サービスにあっては、細心の注意を払って事業を継続しなければならない。

ここで気づくのは、知的障がい者らが新型コロナ関連のニュースに対して、正確な情報の取得や理解が出来ないことで、感染防止に向けた行動が出来ないケースがあることである。

感染拡大の防止に向けた行動を確実に促すには、情報発信者の徹底した「分かりやすさ」を追究する姿勢が必要であるが、国も地方自治体も毎日のように記者会見を開いているものの、現状を口頭で報告することに終始することが多く、その語り口には「情報弱者」への配慮は1つも感じられない。だから、記者会見を「分かりやすく化」することを提言したいと思う。

誰でもスマートフォンを利用する時代にあって、知的障がい者も同様にスマートフォンを自由に扱い、仲間とメッセージを交換し動画を見てゲームを楽しむ姿を「メディアに精通」しているように受け取るかもしれないが、これは正しく情報を取得し、理解し、自分の行動につなげる、つなげられるメディアリテラシーとは別問題である。

会見をスマートフォンで見ることは出来るが、分かったまでに至るかは会見のやり方次第だ。新型コロナウイルスで何が今起こっているのか、それを漏れなく誰もが分かるように伝えるミッションがメディアにあるのは当然で、国や自治体もその義務を負っているはずだが、その努力は手話通訳者を付けているかどうかの違いだけにとどまっている。

まずいけないのは、横文字の多さである。「オーバーシュート」「ロックダウン」、いきなり言われてどれだけの人が正確に理解できるだろうか。想像力の欠如といっていい。さらに行政発表文書を読むだけの首長。漢字が多い、その言葉を「誰もが」理解できると考えているのだろうか。

世界最大の死者を出している米国で最も被害の大きいニューヨーク州でも連日クオモ州知事が記者会見を開いているが、発表時には大きなスクリーンでグラフや会見のポイントを明示しており、テレビでも同様で発言者の姿だけではなく、明示した図等を放映している。

東京都の会見でも、見せることを意識した資料提示を行っており、NHKの首都圏ニュースではその会見をそのまま放映している部分もあり、行政の記者会見としては先駆的かもしれないが、「COVID-19」が大きく描かれた衝立ボードや専門的な言葉を言いたがる姿勢は、専門性への壁を見せつけているようで、庶民が理解しようとする隙を与えていない印象を残す。ここまで「見せる」ならば、もっと柔らかく、もっと分かりやすく、をお願いしたい。

大阪府では現状をタイムリーに伝えようと、囲み取材を記者会見のような形にしているのは、市民向けの姿勢ではあるが、メディア向けの対応に終始してしまっているようで、そのメディアを通じて市民に声が届くことをもう少し意識してもらいたい。多くの記者会見では知事の口元がマスクで覆われていることで感情が伝わりにくいし、聾唖の方にとっては「口元で読む」ことが出来なくなる。

だからこそ、ちょっとしたフリップでもよいし、小さなホワイトボードでもよいし、何かキーワードを示し、今重要なことを伝えることを心掛けるべきであろう。

障がい者支援に従事する人にとっては、新型コロナウイルスに伴う今の危機感を支援の対象者と共有できないまま、行動に制限をかけることほど、ストレスのかかる仕事はない。

先日、重度障害者施設の日課である散歩に遭遇したら、人と人との間隔を開けながら散歩をしているものの、「毎日の約束」である手をつなぐことは維持しなければパニックになってしまう、と言って消毒を入念にしていた。自治体の会見で何を注意しなければいけないのか、分かりやすい絵で描くなどで伝えられれば、現場の職員はありがたいはずである。

新型コロナウイルスに関する記者会見の目的は正確な情報を伝えて、市民一人ひとりに拡大防止を呼び掛けることの1点だ。その目的からすると、「伝えればよい」ようなこれまでの姿勢での記者会見は行政の怠慢で、行動に結び付けてもらう「分かりやすい」記者会見が必須だ。それには「障がい者にも伝わるように」を考えると、非常にシンプルにイメージできると思う。

image by: shutterstock

引地達也この著者の記事一覧

特別支援教育が必要な方への学びの場である「法定外シャローム大学」や就労移行支援事業所を舞台にしながら、社会にケアの概念を広めるメディアの再定義を目指す思いで、世の中をやさしい視点で描きます。誰もが気持よくなれるやさしいジャーナリスムを模索します。

有料メルマガ好評配信中

  初月無料で読んでみる  

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 ジャーナリスティックなやさしい未来 』

【著者】 引地達也 【月額】 ¥110/月(税込) 初月無料! 【発行周期】 毎週 水曜日 発行予定

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け