欧米に比べ、日本における新型コロナウイルスによる感染症の死者数の圧倒的な少なさが各国で驚きを持って伝えられています。しかし、「おそらく政府発表よりかなり多くの死者がいる」とするのは、元国税調査官で作家の大村大次郎さん。大村さんは自身のメルマガ『大村大次郎の本音で役に立つ税金情報』で今回、東京の2月から3月の死者数について、そう判断せざるを得ない「証拠」を列挙するとともに、現時点の日本の新型コロナ対策を讃える人を「本当の愛国心のない人」としてその理由を記しています。
※本記事は有料メルマガ『大村大次郎の本音で役に立つ税金情報』2020年5月16日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め初月無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:大村大次郎(おおむら・おおじろう)
大阪府出身。10年間の国税局勤務の後、経理事務所などを経て経営コンサルタント、フリーライターに。主な著書に「あらゆる領収書は経費で落とせる」(中央公論新社)「悪の会計学」(双葉社)がある。
新型コロナ本当の死者数
改めて言いますが筆者は、元国税調査官です。国税調査官というのは、税金の申告が正しいかどうかをチェックする仕事です。具体的に言えば、企業の出してくる「データ」や「申告書の数字」を間違いを指摘する仕事です。職業病のようにとして世の中の様々な「データ」や「数字」をチェックするくせがついています。
また筆者は、元官僚でもあり、官庁が数字を微妙にごまかして、世間を欺く構造も非常によく知っております。
そういう元国税調査官の目で、現在の日本の新型コロナに関する発表データを見たとき、「デタラメだらけ」ということになってしまいます。
今回のそのデタラメだらけのデータの中でも、特に「死者数」をターゲットにして、ご説明したいと思います。
「日本は新型コロナにおいて死者数が欧米よりはるかに少ないので対策が成功している」などと主張する評論家なども多数います。
が、この主張は的をはずしていると思われます。日本だけじゃなくアジア諸国はおおむね欧米よりも死者数が少ないのです。人口比にして二けたくらい違います。
また日本の国民はそもそも感染症対策が世界でもっとも進んでいるのです。花粉症の影響もあり、日本人は冬から春にかけてマスクを常用している人がかなりいます。手洗い、うがいなどの衛生に関する観念も発達しています。
欧米のような挨拶時にハグや握手、キスなどをする文化もありません。そして、おそらく日本人は世界でもっとも「大声で話すことが少ない人種」です。
つまり日本というのは、もともと感染症が流行しにくいといえるのです。
さらにまだ明確に解明されているわけではありませんが、アジア諸国に感染者や死亡者が少ないのはBCG接種の影響があるという説も唱えられています。
だから、欧米の死者数と比べて日本は成功しているなどとは決して言えないはずです。
比べるのであれば条件が似ている台湾や韓国と比較するべきでしょう。
そして、日本人としては悔しい限りですが、台湾や韓国と、新型コロナ対策を比較すれば、日本の新型コロナ対策のお粗末さは明白です。
台湾や韓国では、早くからPCR検査を大々的に行い、感染者を隔離し、大幅な経済活動の自粛やロックダウンなどの厳しい処置を講ずることなく、新型コロナ対策に成功しています。
台湾や韓国は中国との人や物の往来も激しいので、日本よりも不利だったにもかかわらず、です。
台湾や韓国の感染者の少なさは、きちんとPCR検査を行なった上での少なさであり、国際的にも評価されています。しかし、日本の感染者の少なさは、先進国としては最低レベルのPCR検査によるものであり、国際的にも厳しく非難されています。
新型コロナの死者は2月終わりから激増していた?
「それでも日本では死者が少ないからいいじゃないか」と思う人もいるでしょう。しかし、日本の新型コロナの死者数には、疑問となるようなデータが多々あるのです。
たとえば、新型コロナでは志村けんさん、岡江久美子さんなど有名人の死者が相次いでいます。志村けんさん、岡江久美子さんは、お二人とも「国民的」と冠せられるほどの超有名人です。こんな超有名人が複数も亡くなられるというのは、異常だとは思いませんか?これは欧米では時々見られますが、台湾、韓国では見られないことです。そして、この異常さの割に日本全体の死者は少なすぎると思いませんか?
5月16日現在、新型コロナでの日本の死者は、700人ちょっとです。700人の中に、超有名人が二人もいるというのは、統計学的には異常な数値なのです。
志村けんさんや岡江久美子さんは、控えめに言っても1万人に一人いるかいないかというほどの超有名人です。だから統計学的に言えば、日本人を1万人抽出したときにようやく一人入っているかどうかということになるのです。
つまり、志村けんさんや岡江久美子さんほどの有名人は、日本人が1万人死亡したときに1人はいっているかどうかの確率なのです。しかし700人しかいない死者の中に、お二人が入っているのです。これは明らかに異常値なのです。
これは隣国の韓国と比較すれば、わかりやすいです。人口当たりの死者数というのは、現在のところ日本と韓国はほぼ同じ程度です。
が、韓国では、有名人が死亡したという話は皆無です。それどころか感染者自体、芸能人などにはほとんどいません。SUPERNOVAというグループのユナクの感染が確認された程度で、ほかにはほとんど聞かれません。
一方、日本では、芸能人の感染者が相次いで確認されています。宮藤官九郎さん、石田純一さん、森三中の黒沢かずこさん、速水けんたろうさんなど誰もが知っている有名人が何人も感染しています。
有名人の場合、新型コロナの疑いがあるのにそれを放置し後で大事になれば、国や自治体は世間から厳しい非難を浴びることになるので、優先的にPCR検査をしているはずなのです。だから、有名人の新型コロナ感染や新型コロナでの死亡が多いと思われます。
ということは、有名人じゃない市井の人の場合は、新型コロナの疑いがあってもなかなか検査されず、死亡した人もいちいち確認はされていないということが考えられるのです。もしかしたら、数倍の死者がいる可能性もあるのです。
インフルエンザ患者は激減しているのに肺炎の死者が激増の謎
また別のデータもからもそれを示すものもあります。厚生労働省(国立感染症研究所)のサイトでは、「インフルエンザ関連死亡迅速把握システム」というものがあり、大都市のインフルエンザや肺炎で死亡した人の数値を毎週、発表しています。
● インフルエンザ関連死亡迅速把握システム(国立感染症研究所HP)
それによると、東京は2月の終わりから3月いっぱいにかけて肺炎で死亡した人が非常に多くなっています。閾値と呼ばれる「通常値の上限」を30~40人も超える週が、5週間も続いているのです。この5週間では、例年の平均値よりも300人程度死者が多く、閾値よりも150人程度も死者が多いのです。
本来、今年は肺炎の死亡者は例年よりも少なくなっていないとならないのです。というのも、今年はインフルエンザ感染者は例年よりもかなり少なくなっており、去年よりも30%程度も減っているのです。今年は新型コロナの影響により、マスクなどの感染症対策を施す人が多く、その影響でインフルエンザにかかる人が激減しているのです。
にもかかわらず、東京では2月終わりから3月にかけて肺炎の死亡者が通常値を大きく超えて激増していたのです。
そして3月中旬の週になって急に肺炎死亡者が減っているのです。このデータから推測されることは、2月から3月にかけての数値というのは、新型コロナで死亡した人が相当数含まれているのではないか、ということです。
3月中旬から急に肺炎死亡者が少なくなったのは、3月中旬から日本では新型コロナの検査を本格的に行うようになっており、「新型コロナでの死者が新型コロナでの死者としてカウントされるようになった」からではないか、ということです。
実際に3月中旬以降、東京都の新型コロナでの死者数は激増しています。
政府は、「本当は新型コロナでの死者はもっと多いのではないか」という指摘に対し「死亡した人で新型コロナが疑われる場合は、CTで確認している」と回答しました。
が、新型コロナかどうかというのは、CTだけでは確認できず、PCR検査も必要です。生きている人のPCR検査さえまともにやっていない国で、死者のPCR検査がきちんと行われているはずはないのです。おそらく、政府の発表よりもかなり多くの死者がいるはずなのです。
韓国のデータとの矛盾
またこの数値は韓国の死者数の数値と比較した場合、信ぴょう性が増します。
韓国では、日本と違って当初からPCR検査を大規模に行ってきました。だから2月から3月にかけて韓国の感染者数は激増し、死者数も増えました。韓国がそういう状態になっているとき、日本ではそれほど感染者数も増えず、死者もあまりいませんでした。
が、3月の終わりから日本が本格的にPCR検査を開始すると、日本の感染者は激増し、死者の数も増えました。つまり、日本では韓国よりも1か月半ほど遅れて感染拡大が始まったのです。そして5月の初頭には、人口当たりの死者の数が、日本と韓国で逆転したのです。
しかし、ここで大きな疑問が生じるはずです。日本と韓国の感染の条件を比較した場合、それほど大きな違いはありませんでした。なので韓国が先に感染拡大し1か月半遅れて日本で感染拡大が始まるというのは、不可思議なことです。
これはどういうことかというと
- 本当は日本でも韓国と同時期に感染拡大が起こっていたけれど、日本はPCR検査をしてこなかったので、最初の1か月半ほどの感染者数は漏れている人が多い
- それに連動して感染後に死亡した人の把握も漏れている
- だから日本では当初、韓国よりも死者が大幅に少なかった
と見るのが妥当だと思われます。つまり、インフルエンザ迅速把握システムで公表されている死者の異常値は、新型コロナでの死者である可能性が高いということです。
また政府が公表している死者数だけで見ても、人口比にすれば台湾、韓国に後れをとっていることは明白です。おそらく最終的には、人口比で韓国の数倍、台湾の数十倍の死者となるでしょう。
筆者はこのことをもって、「日本は台湾や韓国よりも劣っている」と短絡的に述べるつもりはありません。
が、この世界的な歴史的な災厄に際し、その処し方において明らかに台湾、韓国に劣っていたことは間違いないことです。台湾や韓国は、世界標準の感染症対策を迅速に行っただけであり、それがアジア人の有利条件と合わさって、好結果につながったといえます。
逆に言えば、日本は世界標準の感染症対策を行っていないということです。そのことは日本人として謙虚に受け止めないと、日本に未来はないと思われます。今、日本の新型コロナ対策をたたえている人は、「本当の愛国心がない人」「現実を見る勇気がなく虚勢を張りたいだけの人」だと筆者は思います。
(メルマガ『大村大次郎の本音で役に立つ税金情報』より一部抜粋)
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