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コロナ対策の専門家会議で議事録を残したくないのは誰なのか?

公文書に関するさまざまな問題を指摘されてきた安倍政権は、緊急事態宣言に関わるような重要会議でも議事録を残す気はなかったようで、野党やメディアが批判の声をあげています。メルマガ『NEWSを疑え!』を主宰する軍事アナリストの小川和久さんは、政府の「自由かつ率直な議論のため、発言者が特定されない形の議事概要を作成することに決めた」との説明について、発言の責任から逃れるような専門家はいないと一蹴。議事録を残したくない本当の理由を明らかにし、本音の議論のためにこそ、議事録が必要だと訴えています。

議事録を残さない本当の理由

また、議事録を残すか残さないかでモメています。

「菅義偉官房長官は29日の記者会見で、新型コロナウイルス感染症対策を検討する政府専門家会議の議事録を残していないと説明した。発言者が特定されない形の『議事概要』で十分だとし、発言者や発言内容を全て記録した議事録は作成していないとした。政府は今年3月、新型コロナウイルスを巡る事態を、行政文書の管理のガイドラインに基づく『歴史的緊急事態』に指定し、将来の教訓として通常より幅広い文書の作成を行うと決めていた」(5月30日付毎日新聞)

これについては、「政府が選んだ『都合のよい専門家』が大半だから、議事録が公表されるとまともなことを言っていなかったことがバレるからな」といった辛辣な声も聞こえてきます。

しかし、専門家会議のメンバーは次のように述べています。

「これに対し会議メンバーの岡部信彦・川崎市健康安全研究所長は『事務局が「議事概要を出す」と答えたので、ああそうですねということで終わった。(賛否の)手を挙げたわけじゃないから分からないが、全てではないが別に発言者名が出ても構わないというのが委員の意見だと思う』と記者団に語り、『僕は自分の発言に責任を持ちたいから発言は出ても構わない』と述べた。

 

会議座長の脇田隆字・国立感染症研究所長は29日夜の会見で『一番大事なのは我々がどのように議論し、考え、どのような提言を政府にしているかを(記者会見などで)しっかり伝えることだと思う。議事録に関しては政府がお決めになっていることだ』とした上で、公開について『個人的にはどちらでも構わない』と言及。尾身茂副座長は同日の会議でメンバーから政府に公開検討を求める声があったと説明し、『政府が決めて名前を出すということになれば私自身は全然問題ない』と述べた。」(5月30日付毎日新聞)

私も首相官邸の会議の議員や各種審議会の委員などを務めてきましたので、「都合のよい専門家」で構成されるという点は否定しません。私の場合は、「都合のよい専門家」ばかりだとマズいので、小川のような「奇岩怪石」も入れておこうと、選ばれたのだと思っています。

と言っても、かりに「都合のよい専門家」であっても、それなりのプライドはありますし、議事の内容がリークされることもあり得ますから、テレビのコメンテータのような言いっ放しにはならないというのが現実です。それなりに責任を意識した発言をするのです。

問題は、議事録を残さない政府側のメンタリティです。政府の姿勢は一貫して「最初に結論ありき」で、そちらの方向に着地させるうえでの「民主主義的なプロセス」として専門家会議を位置づけていますから、政府の方針に異を唱えるような「まともな発言」が議事録に残り、政策が失敗したときに野党やマスコミから追及されるときの証拠になることを避けようとするのです。

週刊誌の世界に、「初めにタイトルありき」という言葉があります。一番最初に結論を考え、その方針の大枠を補強するような材料を取材で集め、記事に組み立てるのです。もちろん、いつもタイトル通りの特集記事ができる訳ではなく、狙いが間違っていない場合でも、針小棒大と言われるような中身に乏しい記事になることは少なくありません。

そういう週刊誌の世界で惨めなのは、企画会議でインパクトのある「タイトル」をぶち上げたものの、それが見当外れの結果に終わったり、場合によっては狙い撃ちした相手から告訴され、敗訴になったりするケースです。これが続くと、その担当者はダメ編集者の烙印を押されることは言うまでもありません。

日本政府の政策担当者について、私は「ダメ編集者」だという印象を抱いています。だから、いかに「都合のよい専門家」であっても、政府の政策にダメ出しをせざるを得ないのです。担当者としては、それが記録として公表されるのは、どんなことをしても避けたいでしょうね。

どうすればよいのでしょうか。ここはひとつ、発想を逆転させ、ちゃんと議事録を残し、公表することによって、緊張感を持つことから始めるのが、遠回りのようでいて、結局は近道ではないかと思います。

記録することと公表が前提になれば、会議などを設置する前に専門家と本音ベースで議論を詰めておくのが普通になりますから、政策担当者がダメ編集者のレベルから脱出できるのは間違いないでしょう。(小川和久)

image by: 首相官邸

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地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

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