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感染者も死亡者も桁違い。何が日本の新型コロナ被害を抑えたのか

欧米諸国に比べ、新型コロナウイルスの感染者・死亡者ともに圧倒的に少ない日本。しかしながらその理由については未だ謎に包まれたままであり、解明が急務となっていることもまた事実です。今回のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』では米国在住作家の冷泉彰彦さんが、山中伸弥教授が「ファクターX」と呼ぶ、日本を新型コロナによる甚大な被害から救った要因の「本命」を考察しています。

日本の奇跡(?)、ファクターXは掛け算の結果

ノーベル賞を受賞したiPS細胞の研究者、山中伸弥氏が「ファクターX」を探せということをおっしゃっています。つまり、日本の場合は、

「PCR検査数は少なく、中国や韓国のようにスマートフォンのGPS機能を用いた感染者の監視を行うこともなく、さらには社会全体の活動自粛も、ロックダウンを行った欧米諸国より緩やか」

であったにもかかわらず、「感染者や死亡者の数は、欧米より少なくて済んで」いるということで、これに対して、

「何故でしょうか??私は、何か理由があるはずと考えており、それをファクターXと呼んでいます。ファクターXを明らかにできれば、今後の対策戦略に活かすことが出来るはずです」

として、次のような候補を列挙しています。

  1. クラスター対策班や保健所職員等による献身的なクラスター対策
  2. マラソンなど大規模イベント休止、休校要請により国民が早期(2月後半)から危機感を共有
  3. マスク着用や毎日の入浴などの高い衛生意識
  4. ハグや握手、大声での会話などが少ない生活文化
  5. 日本人の遺伝的要因
  6. BCG接種など、何らかの公衆衛生政策の影響
  7. 2020年1月までの、何らかのウイルス感染の影響
  8. ウイルスの遺伝子変異の影響

    などが考えられるとしています。この問題ですが、他にも考えられると思います。

  9. 感染イコール悪であり、これを忌避し、当事者は謝罪させられるほどの強いタブー感
  10. 島国特有の「水際」へのこだわり、幕藩体制の名残である「他県への拒否感」など平時ではマイナスになる文化が奏功
  11. 80代後半でも人工肺や希少薬剤で救命するという高い倫理性
  12. 高い救命率を実現した高度医療体制、国民皆保険

では、その中で「ファクターX」の本命は何なのでしょう?それは、この中の少数に絞れる問題ではないと思います。そうではなくて、例えば死亡率を20%向上させるファクターが5つあれば、0.8の5乗が0.32768になるように、またファクターが8つあれば、0.8の8乗が約0.1677になるように、一つ一つの効果は限定的でも、それが複合して行くことで累乗的に作用したということは考えられるかもしれません。

ですが、この中でいくつかの問題は、ある閾値を越えると一気に悪化する性質(11とか12)がありますし、「第二波」が発生した際に通用するか分からない問題も(8など)もあります。

いずれにしても、この「ファクターズ(複数形)Xn」について、科学的に究明することは非常に重要と思います。

バイデンの副大統領候補、下馬評リストをチェックする」

突如全米で沸き起こった「人種差別反対デモ」の輪は、民主党の統一候補であるジョー・バイデン氏を揺さぶっています。短期的には、非常に攻勢に出ていると言って良いと思います。バイデン氏は、長い間、コロナ危機への対応として自宅のベースメント(地下室)におけるリモート演説を主体としていたのですが、殺害されたフロイド氏の葬儀がテキサス州ヒューストンで行われると、現地へ飛んでフロイド氏の遺族を弔問、葬儀にも参列して存在感を示しています。

そんなわけで、バイデン氏としては、どうやら、この事件を契機に一気にリアルな世界での選挙運動を再開する構えのようで、タイミング的にもそれでいいと思います。一方で、6月6日には、そのバイデン氏は、予備選における獲得代議員数がマジックナンバーの1991を超えたことで、正式に民主党の統一大統領候補としての地位が確定したのも事実です。

そのバイデン氏ですが、同時に大きな岐路に立たされているのも事実だと思います。問題は副大統領候補を誰にするかです。

まず、77歳と高齢のバイデン氏にとっては、「万が一」の際には大統領職に耐えうるだけの人物を副大統領候補に指名する必要があります。これはもう絶対条件とでも言うべきものです。また、万が一、8月の党大会までに状況の変化があれば、一旦副大統領候補に指名した人物に大統領候補の座を譲るということも可能性としてはゼロではありません。例えばコロナ第二波が深刻化した場合には、やはり若い世代のリーダー、少なくともトランプより若い60代以下の人物でないと話にならないからです。

それはともかく、バイデン氏は、TV討論の席上で「副大統領候補は女性」にすると明言しています。公式にそうした確認がされているかどうかはハッキリしないのですが、明らかに言質を取られたのは事実で、その後3ヶ月以上訂正していないので、こうこれも条件として固まっていると思います。

では、誰にするか…これは大きな問題です。そこで、今回は下馬評に上がっている候補について着眼点を確認していこうと思います。

1.エイミー・クロブチャー上院議員

恐らくは大本命だったのだと思います。ミネソタという左右に揺れるスイング州で、保守票を抑えて勝ってきた上院議員、しかも大統領候補としてTV討論でも善戦、更には穏健中道派で、中西部の中道票を取るのには絶好の立ち位置ということで玄人筋の評価も高かったのです。

ですが、そんな中で、今回のフロイド氏の事件が発生してしまいました。まず、この事件が、ミネソタ州で発生したことで、彼女の立場は苦しくなりました。とにかく、ミネソタの白人というだけで、地元はともかく、全国的には「差別している側」というイメージを持たれてしまうのは仕方がありません。

それどころか、かつて同州の郡検事であった時期に、今回の主犯格の警官が過去に起こした暴力事件を彼女自身が不起訴にしているという「爆弾材料」も抱えているのです。となると、ミネソタ州警察の問題について責任の一端を担っていると言われてもおかしくありません。彼女の「目」は限りなく消えたと考えられます。

2.グレッチェン・ホイットマー知事

ミシガン州の知事です。この人もクロブチャー氏と同じく、スイングする中西部の中で、保守票を抑えて勝ってきているわけで、バイデンと選挙戦の戦術的には補完関係にあります。また、ミシガンというのは、2016年も、そして20年も勝敗を決する天王山ですから、そこで民主党の知事を張っている彼女への期待感はあるわけです。

問題は、それゆえにトランプ派の絶好のターゲットになってしまっていることです。特に4月中旬に起きたデトロイトでの「アンチ・ロックダウン」デモ、では、徹底的に挑発され、その挑発を受けてデモへの規制を行う中で、すっかり保守派からは「悪人」のレッテルを貼られてしまっています。可哀想ではあるのですが、もう少し巧妙な立ち回りはできなかったのかということは言えると思います。彼女の可能性も、ちょっと疑問があります。

3.エリザベス・ウォーレン上院議員

ということで、仮に中西部の白人票を狙い、スイング州での勝利を確実にという作戦で行く場合の、白人女性のコマとしては、この人になるのかもしれません。問題は、左なのか中道なのかが不明確な立ち位置ですが、そこに目をつぶれば、一対一に持ち込んだ際の弁舌バトルでは火のような温度感で、瞬時に鋭い攻撃ができる技は魅力的です。ミレニアル世代など若者への受けも良いし、今回、人種問題が争点として続く中での白人女性候補としては、この人の存在は計算しておいたほうが良さそうです。

4.ステイシー・エブラムズ元ジョージア州議会議員

一方で、バイデン氏には、BLM運動への連帯を示すために「黒人女性を副大統領候補に」というプレッシャーが強まっているわけです。確かにバイデン氏は「黒人票に強い」ということをアピールしてスーパーチューズデーに勝利しており、その政治的な勢いを保つためには黒人女性を指名するのは自然な流れとも言えます。

黒人女性として、まず出てくるのがエブラムズ氏で、彼女はジョージアの知事選で共和党のケンプというトランプ派候補と接戦を演じて有名になりました。極貧の中から苦学して政治家になったキャリア、小説も書く才人、庶民的な風貌など魅力的なキャラですが、いかんせん国政経験ゼロということでは、中西部の白人票にはソッポを向かれる可能性があります。

5.ヴァル・デミングス下院議員

彼女も、黒人女性政治家として待望論があります。確かに、トランプの弾劾裁判の際には、下院を代表して活躍したのですが、その点についても民主党内の評価であって、中道票への浸透は難しそうです。

6.ケイシャ・ランス・ボトムス・アトランタ市長

人気市長ですし、アトランタで「ロックダウン反対派」の知事の下で闘ったとか、今回のBLM運動でも存在感を示しています。ですが、やはり国政経験はゼロで、白人票への浸透は難しそうです。

7.スーザン・ライス元安保補佐官

オバマ政権下で国連大使、安保補佐官を努めたライス氏にも待望論がありますが、共和党の右派からは「ベンガジ事件の戦犯」だと思われているし、一方でミレニアル世代の若者からは「ヒラリー同様のリベラルホーク(リベラルなタカ派)」だとして嫌われている面が否定できません。民意を掴むスキルもイマイチという感じがします。

8.カマラ・ハリス上院議員

各メディアは一斉にこの種の「副大統領候補指名予想」をやっていますが、ダントツに人気があるのがカマラ・ハリス上院議員です。ハリス氏は、ジャマイカ系の父と、インド系の母を持つ黒人女性で、サンフランシスコ市の検事からカリフォルニア州の司法長官になった叩き上げの法律家です。同州の司法長官としては高い支持率を背景に、更に2016年には連邦上院議員に転じています。

そのハリス氏は、2018年に大統領選への出馬を意識した中で、自伝『私たちが守っている真実(原題は”The Truths We Hold”)』というのを出しています。この本ですが、リベラルな価値観で貫かれているのは言うまでもありません。例えば、冒頭から「トランプ当選」に驚いて泣き出した幼い甥っ子に対して「悪役が勝つことがあっても、必ずスーパーヒーローが退治してくれる」と諭したなど、トランプ政権に対して妥協ゼロの挑戦姿勢が示されているわけです。

その自伝の内容ですが、同性婚の実現などLGBTの権利確保に尽力した記録、微罪で収監されそうになった貧困層を救済すべく奔走する姿など、イデオロギー色が強いのはまあ仕方がないにしても、同氏の行動力をアピールする内容にはなかなか説得力があります。大統領選候補者の自伝としては、結構販売面でも好調でした。

そのハリス氏ですが、バイデン氏とは政策的にも近いですし、何よりも大統領に取って代わるだけのカリスマ性もあります。カリフォルニアでの人気は圧倒的ですし、燃えるような攻撃の弁舌はウォーレン以上、そして立ち居振る舞いを含めたルックスは非常に現在のトレンドに「はまる」感じです。

日本で言えば、さしずめ小池百合子の風見鶏と、辻元清美の突破力、扇千景のサバイバル術あたりを合わせた感じで、しかもトップ女優並のインスタ映えと押し出しがあるということで、なかなかの人材ではあります。

問題は、予備選の初期にバイデン氏に激しい批判を浴びせたという「しこり」です。かなり激しく「やっちゃって」いますので、それを乗り越えて、両者が手を組めるかは注目ポイントです。また、これは微妙な問題になりますが、黒人といってもジャマイカとインドの移民2世ということになると「アメリカ黒人=奴隷の末裔」にはならないわけです。オバマがそうであったように、そこは多少問題になるかもしれません。

image by: StreetVJ / Shutterstock.com

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東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1~第4火曜日配信。

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