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輸入依存のジェネリック薬。有効成分「原薬」不足で課題浮き彫り

日本国内では、新型コロナウイルスの感染状況に落ち着きが見られ、新聞各紙の視点も一時に比べ独自色が出てきているのかもしれません。今回のメルマガ『uttiiの電子版ウォッチ DELUXE』では、ジャーナリストの内田誠さんが各紙が報じた「新型コロナの意外な影響」を抽出。朝日が報じたジェネリック薬品の原薬不足や、毎日が取り上げた妊婦へのPCR検査など、気になる問題を解説しています。

新聞各紙が報じた、新型コロナの「意外な影響」

◆1面トップの見出しから……。
《朝日》…電話勧誘 録音改ざん・捏造
《読売》…入国 1日最大250人
《毎日》…「持続化」未支給1万件
《東京》…「素人が大半 大丈夫か」

◆解説面の見出しから……。
《朝日》…専門家会議「役割」どこまで
《読売》…首相、中止封じ 都、経費を圧縮
《毎日》…五輪拠点 細心の展開
《東京》…首相答弁、説明尽くさず

プロフィール

■輸入に依存してきたジェネリック業界■《朝日》
■コロナ禍のサウジ■《読売》
■妊婦PCR■《毎日》
■IT産業の力■《東京》

輸入に依存してきたジェネリック業界

【朝日】は7面に、海外に依存している薬について書いている。見出しから。

(7面)
薬の供給 目詰まり
海外依存の原料 輸入に遅れ
在庫や代替薬でしのぐ

海外からの原料輸入が滞っていて国内メーカーが十分に生産できないため、一部の薬の病院への供給に問題が生じているという。海外では、都市が封鎖され、工場の操業が止まったりして日本への輸出が滞っているという。

ジェネリック医薬品の原薬(薬の有効成分)はその約6割を輸入に頼っており、1位の韓国が全体の21.8%、2位中国が18.6%、以下、イタリア、インド、スペインとなっている(記事中に一覧表あり)。5月には業界団体がインドまで特別に航空機を2往復させて緊急輸入を行い、急場をしのいでいる状態。幸い、今のところ、患者に深刻な影響は出ていないという。

政府は国内生産を増やそうと、補正予算で設備投資の補助を予算化しているが、薬価を上げなければ成り立たないとの指摘もある。

●uttiiの眼

医療経済学の専門家は「医療機関では今後、安定供給のために原薬の調達先を多様化させた製薬会社の薬を選ぶ動きが強まるだろう」と先読みしているようだ。製薬会社間の競争条件に新たな一要素が付け加わったことになり、一層グローバル化した企業が勝ち残っていくのだとしたら、以前にも増して国際的な企業買収などの動きが活発になるのかもしれない。

コロナ禍のサウジ

【読売】は7面にサウジアラビアの苦境について書いている。見出しから。

(7面)
サウジ財政 二重苦
コロナ歳出増■原油安
皇太子権力基盤 影響も

6月、サウジ政府は公務員への生活費手当(月約2万9千円)を撤廃。7月には付加価値税の税率を5%から15%に引き上げる。新型コロナウイルス感染対策費の高騰と原油安とで、今年第一四半期の財政収支は約9800億円の赤字となった。

新型コロナウイルス感染者は10万人を超え、治療費の無償化や民間部門の給与6割補助で、歳出増は避けられない。また歳入の6割以上を占める原油収入は、1バレル55ドルを想定していたにもかかわらず、実勢は40ドル前後。サウジの財政を均衡させるには、1バレル80ドルが必要とされる。3月、ロシアとの関係で増産に走ったことも影響しているという。

●uttiiの眼

サウジの統治者であるムハンマド皇太子については、ジャーナリストのカショギ氏がトルコのサウジアラビア領事館で政府職員らに殺害された事件で、殺害を指示したのではないかとの疑惑がずっと取り沙汰されている。国連の特別報告者は「皇太子と政府高官が関わっていた証拠がある」としているが、サウジ国内では5人に死刑判決、3人に禁固刑が科されて幕引きが為された。皇太子側近は無罪、犯行は皇太子や側近の指示によってではなく、勝手に行われたものとされている。

その皇太子が脱石油依存を掲げて打ち出した経済計画が、コロナ禍による歳出増と、やはりコロナ禍の影響による原油安で歳入が減ったことから、見直しを迫られているという。それでも、強権的な政治は続いており、「緊縮策が長期化すれば、国民に不満が広がり、皇太子の権力基盤が揺らぐ可能性がある」という。

妊婦PCR

【毎日】は2面で、妊婦に対するPCR検査について書いている。見出しから。

(2面)
妊婦PCR 一長一短
「お産守る」全員検査
「偽陽性」なら負担強いられ

新型コロナウイルス感染の症状がない場合でも、出産前の妊婦に対するPCR検査を実施する動きが広がっているという。分娩時は呼吸が荒くなるなど、飛沫が飛びやすくなるとして、医療者側の感染リスクを減らし、妊婦の不安を取り除くのが目的だという。

出産時には助産師が長時間寄り添うほか、医師をはじめ多くの医療従事者が関わることになるので、院内のクラスター化を防ぐ意味でも検査が必要と判断する病院が出てきている。妊婦の中でも、症状のない感染者が一定数いるという米国の調査もあるという。病院側の要求で、京都府と京都市は既に5月1日、妊婦の検査費用を全額補助する制度の創設を決めたという。

●uttiiの眼

問題は陽性判定が出た後の対応。まず、病院は新たな妊婦の受け入れがしばらくできなくなる。さらに、患者となった妊婦を受け入れてくれる新たな病院を確保しなければならない。京都府の場合、感染者の妊婦については府立医大病院が受け入れ可能となり、また2カ月間に500人ほどの妊婦を検査した結果、陽性は1人だけだったという。こうした動きは他の自治体にも広がっているという。

もう1つ、PCR検査で「偽陽性」や「偽陰性」が出ることも問題だという。しかし、唾液を検体に採用できるようになるなど、検査の侵襲性は日々下がり、精度は上がっている。「偽陽性」や「偽陰性」のリスクは覚悟しながら、それでも院内感染の防止と妊婦の不安解消のために、基本的には公費による全額助成で検査を実施する必要があるのではないだろうか。

病院の中には、聖路加病院のように、「妊婦さんが感染していることを想定し、医療従事者が濃厚接触者扱いにならないようガウンやゴーゴル、マスク「N95」を装着するなど感染予防策を徹底している」というところもあるようだが、もし、相変わらず「PCR検査を極力避ける」マインドでそのような行動を取っているのだとしたら、本末転倒だろう。

IT産業の力

【東京】は7面で、米巨大IT産業の強さについて書いている。見出しから。

(7面)
米巨大IT 際立つ強さ
ネット会議・通販 需要増
不況下株価急伸 規制強化 最大のリスクか

9日、ハイテク株中心のナスダック総合指数が初めて1万の節目を超えたという。新型コロナウイルス感染拡大の影響で、世界は大恐慌以来の景気後退に見舞われているというのに、ナスダックは絶好調で、連日最高値を更新。米国ではこの間2千万人以上が職を失い、百貨店や医療品チェーンが相次いで経営破綻したのとは対照的な出来事。ただし、「株価のV字回復は、実体経済のV字回復とはほとんど関係がない」とも言われる。

フェイスブック、アップル、マイクロソフト、アルファベット、アマゾン・コムの5大ハイテク企業が持つ現預金は5千6百億ドル(約60兆円)で、5社がこの1~3月期に投じた研究開発費は約3兆円。米航空宇宙局(NASA)の年間予算よりも多額だという。

●uttiiの眼

記事末尾にはウォーレン上院議員が、コロナ禍の最中に大企業が新興企業を買収することを禁じる法案を検討していること。また司法省がグーグルを提訴する可能性が高いと報じていることなどを記している。ハイテク企業にとっては「規制が最大のリスク」と言っているが、はたして有効な規制策が成立するのか、疑問だ。

image by: Shutterstock.com

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ニュースステーションを皮切りにテレビの世界に入って34年。サンデープロジェクト(テレビ朝日)で数々の取材とリポートに携わり、スーパーニュース・アンカー(関西テレビ)や吉田照美ソコダイジナトコ(文化放送)でコメンテーター、J-WAVEのジャム・ザ・ワールドではナビゲーターを務めた。ネット上のメディア、『デモクラTV』の創立メンバーで、自身が司会を務める「デモくらジオ」(金曜夜8時から10時。「ヴィンテージ・ジャズをアナログ・プレーヤーで聴きながら、リラックスして一週間を振り返る名物プログラム」)は番組開始以来、放送300回を超えた。

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【著者】 内田誠 【月額】 月額330円(税込) 【発行周期】 週1回程度

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