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「有言不実行」に愛想を尽かした米国民たちがトランプを捨てる日

経済を優先したことで感染拡大が止まらなくなっているアメリカの新型コロナ対策ですが、その「失敗」でトランプ大統領の支持率が低下しています。このままでは11月の大統領選での再選も厳しいと見るのは、日本国際戦略問題研究所長の津田慶治さん。津田さんは自身のメルマガ『国際戦略コラム有料版』で、トランプ外交が「言うだけで実行しない」失政の数々を指摘し、新型コロナの対応を誤ったことと、ある一部勢力がトランプ氏を見限ったことでバイデン氏の有利を導いたのではないか、と持論を展開しています。

トランプ外交交渉の失敗

トランプ大統領は、対中強硬策で米国民の期待をつなごうとしたが、中国が米国からの農産物輸入を止めたことで、突如、対中強硬策を中止した。豪州は米国の勧めで中国非難の共同声明を出したが、米国に裏切られている。

トランプ大統領の中国非難は、いろいろ想定をしたシミュレーション結果から中国非難をしたわけではなく、検討もなしで言ってみるという底の浅い対中強硬策であったようだ。

これでは、中国の官僚たちが準備万端の検討をしている対抗策で手玉に取られることになる。そのため、コロナ発生源調査もうやむやにされてしまった。WHOの脱退もうやむやで、言うこととやることが別である。「感覚外交」が限界に来ている。

この指摘を受け、ポンペイオ国務長官は香港への国家安全法適用にかかわった中国共産党当局者に対して、ビザの発給停止の制裁を行うとしたが、中国政府は、一線を越えたら第1弾合意の米農産物輸入を止めると言い、これもうやむやになる確率が高い。言うだけで実行しない政権になっている。

覇権国になってからの米国の指導者で、このような人はいなかったように感じる。私もマティス元国防長官と同じ感想を持つ。

タルサでの演説で、トランプ大統領は「PCR検査を少なくする」と言ったが、米国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)のファウチ所長は「聞いていない」と否定した。大統領は、その場の雰囲気で発言しているので、発言の実現性は低いことになる。対外政策でも、このようなことが多く、トランプ大統領の発言を真に受けない方が良い。

次の米国民の期待をつなぐ策として、技術者の入国制限策に舵を切った。しかし、大手IT企業のエンジニアの多くがインド人や中国人であり、インド・中国から技術者を止めると、米国の優位にあるIT企業の技術力は失われることになる。よって、これも「しないはず」と見る。

対中強硬政策もダメ、技術者入国制限も限定的であり、次に、EUからの輸入品に対する関税を上げると言い、日本に対しても貿易協議第2弾を行うとした。ドイツから9000人の米軍を撤退するとも言い、同盟国に対して手あたり次第に強硬政策を打ち出している。しかし、交渉を開始するだけであり、大統領選のある11月までに結論が出るとは思えない。

それに、新型コロナ感染対策でトランプ大統領は経済を制限することを嫌い、それに同調した共和党知事の州の感染者数が大幅に増加して、トランプ大統領の支持率が低下してきた。

前述のファウチ所長が危険性を指摘していた、タルサでのトランプ大統領の選挙集会では、当初10万人が来ると言っていたが、6000人程度の参加となり、空席が目立っていた。このように、コロナ対応の失敗でトランプ大統領の勢いがなくなってきている。

フロリダ州では、バイデン候補がトランプ大統領を抑えて、支持率を逆転したし、テキサス州でも支持率が拮抗している。共和党が強い南部州でもバイデン候補が勝つと、トランプ大統領の勝つ州は非常に少ないということになる。勿論、ラストベルトの6つの激戦州も、今の所はバイデン候補が優勢になっている。

このままいくと、トランプ大統領の歴史的な敗北になりそうである。勝つためには、絶対に経済復活が必要であり、かつ国民が望む政策を口だけではなく実行することが必要になっている。

そして、大統領選挙後は「米中冷戦時代」、分断の時代になる。バイデンが勝てば軍産学複合体の時代に戻り、トランプが勝てば経済を気にしないで対中強硬策を打ち、国民の期待をつなぎとめるはずである。

そして、ここで共和党保守本流陣営は「リンカーン・プロジェクト」と称して、バイデン候補を応援することにしたようである。

米国の政治は、長らく軍産学複合体が共和党も民主党も支配して成り立っていたが、トランプ大統領は軍産学複合体の言うことを聞かない。このため、軍産学複合体は一本化して反トランプになり、バイデン候補を応援することにしたようだ。

米国の大統領選挙後は「覇権移行期」になり、米中対決に世界が巻き込まれることになる。100年に1度の激動の時代が始まる。

中印紛争

ヒマラヤ山脈西部カシミールのガルワン渓谷で起きた中国とインドの軍事紛争では死傷者が両軍に出たが、中国が両国の停戦合意した線より、インド側に新しい施設を作ったことで、今回起きたことが衛星写真で確認できた。

中国は、国境紛争地域の全体で自国の主張を押し通す方向のようである。南シナ海での成功で、強引な軍事侵略がどこでも通じると見ているようだ。

日本の尖閣列島、台湾本土、南シナ海の端のインドネシア領であるナトナ諸島にも中国は手を出し始めている。中国国内での不満がたまり、愛国心を喚起するために、紛争全地域で攻勢に出ているようにも見える。

しかし、それは中国の「孤立化」を引き起こすことになる。ロシアの軍事産業の最大のお得意先はインドであり、インドとロシアは、最新兵器の共同開発も行うほどで、印露の友好関係は固い。そのインドと中国が戦争を起こすことになったら、ロシアはインドに味方することになる。

インドは、ロシア兵器体系で軍備が整備されているので、米国兵器体系にはすぐにはできない。その点、中国は自国兵器体系にして、ロシア兵器体系ではない。ロシアはインド軍とは共同作戦が簡単に取れるが、中国とは密接的な共同作戦は難しい。

日本は米国兵器体系であり、米軍との共同作戦を前提にしている。

中国は、コロナ感染と揚子江の洪水、バッタの農業被害で国内に不満が溜まっているので、領土拡張で民衆の目を海外に持っていきたいのであろう。また、中国はパキスタンとの友好関係からインドとは上海機構加盟国ではあるが、それほどには重要視していないし、パキスタンとインドの紛争ではパキスタンを支援することになる。

しかし、それでもインドとの不仲は、戦略的な損害が大き過ぎるように感じる。インドもコロナ感染拡大で、国内で不満が溜まり、中国軍の侵略を放置できない。インドは、ロシアだけではなく米国や豪州、日本などとも手を結び、中国に対峙するしかない。

一方、ロシアもインドがロシアから離れて米国兵器体系になったら、最大の兵器の売り先がなくなる。

米国は、インドがロシア兵器体系だったので、パキスタンとの関係を構築してアルカイダを駆逐するために援助していた。しかし、パキスタンは、中国との関係を重要視してからは援助をしなくなっている。

結果、米国とインドの友好関係と、パキスタンと中国の同盟関係という形になった。この2つのペアが対立関係になってきた。ロシアはインドにつくか、中国につくかの選択になる。

このため、ロシアも中国との関係を見直すことになると私は見る。ロシアは中立ではなく、インドとの関係優先から中国との関係を悪化させても仕方がないとなるだろう。

このため、米国、日本、ロシア、インド、豪州、ヨーロッパ諸国の「中国包囲網」が完成することになる。

この包囲網は、中国にとっては脅威になるはず。インドとの関係悪化は、中国にとって最大の戦略的ミスとなるような気がするが、どうであろうか?

日本は、中印紛争が「繁栄と自由の弧」戦略にとって、完成を促進させることになる。

さあ、どうなりますか?

image by: Gints Ivuskans / Shutterstock.com

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【著者】 津田慶治 【月額】 初月無料!月額660円(税込) 【発行周期】 毎月 第1〜4月曜日 発行予定

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