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ピンチはチャンス。アパレルは「デジタル化」の浸透で生き返る

コロナ禍をきっかけに、さまざまな業種、業界でデジタルトランスフォーメーション(DX、ITの浸透が人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させるという概念)を模索する動きが加速しています。前回、アパレルのDXはどうあるべきか?で、主に店舗業務でのデジタル化を論じたファッションビジネスコンサルタントの坂口昌章さん。今回のメルマガ『j-fashion journal』では、デジタルデータのやりとりにより広がりが見えてくる縫製工場やテキスタイル工場のビジネスについて論じています。

アパレルDX(デジタルトランスフォーメーション)について考える(下)

パターンデータベースの可能性

アパレル製品を生産するには、生地と付属とパターンと縫製仕様書が必要です。デザイン画は、パターンを引くための指図書であり、パターンは服を作るための設計図です。パターンを引く人をアメリカでは、「パターンメーカー」、ヨーロッパでは「モデリスト」、日本では「パターンナー」と言います。

ヨーロッパのアパレル企業の経営者は、「モデリストはレストランのシェフだ」「モデリストは企業の宝だ」と讃えます。それほど、重要な仕事であると認識されているということです。パターンはアパレル企業のノウハウの塊です。海外縫製する時にも、イタリアのアパレル企業は裁断してから送るそうです。パターンを送って、海外で裁断させると、簡単にコピーできるからです。

それほど大切なパターンですので、量産可能なパターンを販売したり、クラウド上で公開することはありません。しかし、日本にはパターンメーキング専門の会社があります。その会社がオリジナルのパターンを作成し、販売することは可能です。

それにより、何が起きるでしょうか。もし、タイムリーに新しいパターンが公開販売されるのであれば、デザイナーもパターンナーも必要なくなるかもしれません。縫製工場がファクトリーブランドを作って、製品を販売するのなら、とても便利です。あるいは、テキスタイルメーカーが、パターンを購入してアパレル製品に加工すれば、利益率の高いビジネスモデルができるかもしれません。

B2Bの展示会、B2Cの展示会

欧米のファッションビジネスは、年2回のコレクションがベースになっています。糸のコレクション、テキスタイルのコレクション、アパレルのコレクションが半年ずつずれて開催されます。展示会の期間を過ぎると、商談ができなかったのですが、ネット活用になって、次第に柔軟な運用が可能になりました。

例えば、受注が少なくて、生産中止になる場合の代替え品の提案や、着分の発注がオンラインでできるようになりました。それでも、オフラインの見本市が開かれるのは、色やタッチ、素材の表面等は見て触らないと分からないからです。また、知られざる見本市の目的は、業界のボス同士が会えるということです。これは、展示会期間中の夜がメインの舞台になります。

商取引、受発注であれば、ネットで行った方が合理的です。遠隔地からも受発注が可能であれば、出張経費も削減できるでしょう。更に、メーカーが小売店を対象に行うだけでなく、直接顧客に対して予約販売を行うこともできます。

現在のような自粛期間中であっても、予約制にして、会議室の鍵をスマホで管理できるソフトがあるので、バイヤーに暗証番号を送り、無人の部屋に入ってもらい、机の上のモニターを通じて、商談するというスタイルも考えられます。

あるいは、ファッションショーの観覧券と展示会の予約販売券をセットにして販売するのはいかがでしょうか。一定の料金を支払えば、会員限定のファッションショーがオンラインで見ることができて、ショーの後で割引価格で予約もできるという仕組みです。

店舗と工場をデジタルで直結する

日本の縫製工場は、生地を支給され、縫製工賃を受け取って、アパレル製品に加工します。数量も指図された通りに裁断し、縫製します。海外のOEM工場は、自社で生地を仕入れ、製品を販売する形態です。そのため、オーダーがあれば、期中で追加生産することも可能です。日本は、アパレル企業(商社)が生地を調達しない限り、追加生産はできません。

かつて米GAP社は、インドのOEM工場と店頭情報を交換し、売れ行きの良い商品は、追加生産する契約を結んでいたそうです。つまり、工場が世界の店頭を見ながら、追加生産の段取りを行うことができるというわけです。もし、追加生産ができなければ、次の企画の商品が展開されることになります。アパレル企業が全ての意思決定をするのではなく、情報データを結ぶことで、意志決定が分散されるということです。

例えば、パターンについても、縫製工場が作っても良いわけです。そうなると、アパレル企業はサンプルのアプルーバルをすれば良いことになります。これは、前述したパターン会社との連携も可能であるということです。

クリエイティブディレクター、デザイナーとのデジタル連携

デザイナーは都会にいることが多く、縫製工場、テキスタイル工場は地方にあることが多い。これら3者をオンラインでつなげば、ファクトリーブランドができるかもしれない。クラウドファンディングを活用して、ブランドのストーリーを紹介し、テキスタイルの特徴、縫製の技術をアピールし、それぞれの顔が見えれば、顧客にとっても魅力的ではないか。

あるいは、日本のテキスタイルメーカーが世界の10人のデザイナーにオファーしてコレクションを作ることも可能だ。テキスタイル、縫製、デザイナーが、フリーな立場でつながることで新しいクリエイションが生まれる可能性がある。

あるいは、クリエイティブディレクターがブランドのテーマや考え方を公開して、それに共感するメーカーを募集して、コレクションを作ることもできるかもしれない。

3Dデータとアバターによるデジタルクチュール

オートクチュールのメゾンでは、顧客全員のボディ、頭型を作り、服や帽子を立体裁断で作っていました。現在もシルクドソレイユのからだにフィットした衣裳や仮面はオートクチュールの手法で作られています。これをそのままデジタル化することができないでしょうか。

顧客の体型を3Dスキャナーで写し取り、コンピュータの中にボディを作ります。アパレルのパターンCADデータをボディに合わせて、自動的にグレーディングし、3Dシュミレーションすることで、実際に着用して歩いた時にどのように服が動くかをチェックすることができます。

レーザーによる一枚裁断をすれば、フルオーダーに近い形てオーダーメイドができるはずです。もちろん、現段階ではまだ不十分ですが、理論的にはオートクチュールをデジタル化することは可能だと思います。そして、2次元のアバターと3次元の自分が同じスタイルで登場することが可能になります。

これまでは2次元のキャラクターのコスチュームを3次元の人間がコピーしましたが、それを同時に作ることができるということです。そうすれば、ゲームの中でファッションショーをすることもできるでしょう。

編集後記「締めの都々逸」

「ゼロとイチとで デジタル化して 糸と針とで縫っていく」

やはり、デジタルは手段ですね。手段だから、使えるものは使った方がいい。でも、便利なものを追求していっても、幸せになれるわけではありません。結局、DXって「もっとデジタル投資してよ」というキャンペーンではないでしょうか。

繊維って元々デジタルの元祖のようなものです。織物の組織はまさにデジタルで表現できるし、ジャカードのパンチカードもデジタルです。でも、最終的には指先のタッチや全身で感じるフィット感が勝負です。(坂口昌章)

image by: Shutterstock.com

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