どれだけ批判されてもなくなる気配のない、キャリア官僚の天下り。彼らが手にする報酬は数億円にも上ると言われています。何がこのような構図の元となっているのでしょうか。今回のメルマガ『大村大次郎の本音で役に立つ税金情報』では元国税調査官で作家の大村大次郎さんが、その元凶として「闇の早期退職制度」の存在を指摘しています。
※本記事は有料メルマガ『大村大次郎の本音で役に立つ税金情報』2020年7月1日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め初月無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:大村大次郎(おおむら・おおじろう)
大阪府出身。10年間の国税局勤務の後、経理事務所などを経て経営コンサルタント、フリーライターに。主な著書に「あらゆる領収書は経費で落とせる」(中央公論新社)「悪の会計学」(双葉社)がある。
新型コロナ対策を遅らせた官僚の天下り
前回(6月15日号「元国税が暴露。電通『中抜き』問題と官僚天下り問題との深い関係」)、持続化給付金の「幽霊法人かませ疑惑」やアビガンの承認がなかなかおりない事などは、官僚の天下りが大きく関係しているということご説明しました。
持続化給付金の本来の受注企業である電通やパソナは天下り官僚の巣窟、それを隠すために「サービスデザイン協議会」という実態のない法人を一枚かませた。アビガンがなかなか承認されないのも、厚生労働省が自分たちの権威を守り、天下り先を確保するため、新参企業の「新薬承認」をなかなか認めないのだ、と。
今回は、その官僚たちの歪んだ権力について追及したいと思います。
実は官僚のすべてが天下りなどの利権を持っているわけではありません。ごく一部の官僚のみがこの利権を享受しているのです。その一部の官僚というのは、キャリア官僚の事です。
日本の官僚組織が悪辣な組織になっている最大の要因は「キャリア官僚制度」なのです。キャリア官僚というと、時々ニュースに取り上げられるのでご存じの方も多いかと思われます。そして、このキャリア官僚の弊害は、厚生労働省だけではなく、日本官僚制度全体を蝕み、ひいては日本の社会に大きな厄災をもたらしているのです。
このキャリア官僚とはどういう人たちなのでしょうか?そのことについて簡単に説明したいと思います。
日本で官僚組織に入るには、大まかに言って3種類のルートがありました。
- 高卒程度の学力試験で入るルート
- 短大卒程度の学力試験で入るルート
- 大卒程度の学力試験で入るルート
です。この中で「大卒ルート」で入るのが、キャリア官僚です。この試験は非常に狭き門であり、大卒程度の学力試験とは言うものの、競争率が高いので超一流大卒程度の学力を必要とするのです。だから東大出身者の割合が異常に高いのです。
キャリア官僚というのは、国家公務員全体で1%ちょっとしかいません。キャリア官僚は、本省勤務、海外留学、地方勤務、他省庁への出向などを経て、ほぼ全員が本省課長クラスまでは横並びで出世します。一方、ノンキャリアは、どんなに頑張っても定年までに課長補佐になれるかどうかというところです。
そして、このキャリア官僚たちは、各省庁の事務方トップを務め、総理の秘書官などのポストも占めるので、事実上、日本を動かすということになるのです。20歳そこそこのときに難しい試験に受かったというだけで、将来、日本を動かす地位が約束されるのです。こんな、前時代的なシステムは、先進国はどこも採っていません。日本の官僚システムは、相当に遅れたものであり、欠陥だらけなのです。そのため、マスコミなどの批判をたびたび受けてきました。
それを受けて、国家公務員試験の制度は、2012年から改正され、これまで国家1種とされていたものが「総合職試験」、2種、3種とされていたものが「一般職試験」ということになっています。また「総合職試験」には、大学院卒を対象とした「院卒者試験」なども導入しています。採用試験には、政策企画立案能力、プレゼンテーション能力を検証する「政策課題討議試験」なども導入されています。
人事院は、「キャリアシステムと慣行的に連関している採用試験体系を見直し、能力、実績にもとづく人事管理への転換をはかる」としています。が、現在のところ、本質的にはそれほど変わっていないといえるのです。なぜなら現在の各省庁のトップは相変わらずキャリア官僚たちであり、トップどころか上層部の大半を占めているからです。
莫大な富を手にするキャリア官僚
このキャリア官僚には、国民の社会経済において非常に迷惑な欠陥を持っています。キャリア官僚の「退職システム」と「その後の再就職に関するシステム」は、巨額の税金を浪費しているのです。その仕組みを説明しましょう。キャリア官僚というのは、その報酬自体はそれほど高いものではありません。最高のポストである事務次官でも、年収は3,000万円程度です。一流企業であれば、年収3,000万円程度はざらにいます。それに比べれば、それほど高いとは言えないでしょう。
が、キャリア官僚の場合は、やめてからがスゴイのです。彼らは、退職した後、様々な企業や団体の顧問になります。その報酬が桁外れなのですこの退職後の報酬により、10年足らずで、10億円近く稼ぐ人もいるのです。
キャリア官僚が、生涯でどれくらいのお金を稼いでいるのか、統計調査などは行われておらず、正確な実態は明らかになっていません。が、あるキャリア官僚が、「自分の先輩がどのくらい稼いでいるのか」を調査し、記録した資料があるのです。週刊朝日の2012年8月3日号に載った次の記事を見てください。
元国税庁長官が極秘作成 幹部の「天下りリスト」と「生涯賃金10億円」の証拠
本誌が追及してきた元国税庁長官の記事が波紋を呼んでいる。元長官が極秘で歴代財務事務次官(25人)、国税庁長官(25人)の納税調査資料を作成し、財務省に衝撃を与えているのだ。
この元長官は、財務省主税局、国税庁で一貫して税制改革に携わり、“税のスペシャリスト”として、現在も永田町、霞が関、財界に強い影響力を持つ大武健一郎元国税庁長官(66)だ。週刊朝日に告発した妻(61)によると、大武氏は国税庁長官在任中(2004~05年)、「先輩の資産を辞めるまでに調べ上げてやる」と語っていたという。
その資料には、歴代国税庁長官、財務事務次官の01~04年の天下り先と、納めた所得税額が記されている。税理士に依頼し、その所得税額から、03、04年に得た給与収入を推計した。
推計年収は内部資料に記された所得税額が、すべて給与収入によるものと仮定し、算出した。不動産、株など、他の収入は考慮していない。たとえば、国税庁長官から公正取引委員会委員長に天下り、現在も在職中の竹島和彦氏は03年の推計年間給与収入が2,983万円。また、国税庁長官と大蔵事務次官の経験者で、天下り先が日本たばこ産業会長やイオン社外取締役であった小川是氏は、03年の推計年間収入が5,427万円だった。
事務次官、国税庁長官経験者らの退職金は約7,000万円で、「わたり」をうまくやれば、生涯で8億~10億円を稼げるとも言われる。大武氏の・極秘調査・のおかげで、その実態がリアルに明らかになった。
(「元国税庁長官が極秘作成 幹部の『天下りリスト』と『生涯賃金10億円』の証拠」2012年7月23日 週刊朝日配信)
この記事を見ると、最高幹部に登りつめて退職したキャリア官僚は、だいたい生涯で8億円から10億円の収入を得ているというのです。普通のサラリーマンの生涯収入の4~5倍です。しかも、彼らはこの金のほとんどは退職後の10年足らずのうちに稼ぐのです。
ここで言われている「わたり」というのは、天下り先を数年ごとに変えていき、いくつもわたり歩くということです。この「わたり」によって、彼らは短期間で巨額の荒稼ぎをするのです。
こういう美味しい制度があるために、官僚たちは一生懸命、天下りを受け入れてくれる企業に便宜をはかろうとします。電通やパソナが濡れ手に粟で、巨額の委託金をせしめるのもこのためなのです。
キャリア官僚たちの迷惑な錬金術
しかもキャリア官僚には、「闇の早期退職制度」という、国民にとっては「無駄で迷惑」としか言えない制度があります。これは「同期の一人が事務次官にまで上り詰めたら、他の同期は皆やめる」という制度です。別に、法律でそう定まっているわけではありませんが、慣習上そうなっているのです。
つまり、キャリア官僚のうちで、定年まで勤められるのは、同期の一人だけで、あとは皆、言ってみれば捨て駒のようなものなのです。たった一人の事務次官を出すために、数十年競争させ勝者が決まったら、後はみなお払い箱ということなのです。彼らの官僚生活というのは、まるで精子のようなものなのです。
50歳代で、役所から放り出される彼らは、必然的に再就職しなければなりません。そのため各省庁は天下りのポストを確保するために、許認可の権利を振りかざして民間企業と癒着したりするのです。
キャリア官僚たちも、昨今では国民の目を少し気にするようになっています。露骨に民間への天下りをすれば国民から批判されるために、様々なカモフラージュをしているのです。
その一つが、民間企業ではなく、「業界団体」に就職するという手です。日本の各業界では業界団体というものが存在します。製薬会社の場合も、日本製薬工業協会などの業界団体があります。そういう業界団体に役員や理事として入るのです。現在の日本製薬工業協会の理事長は、厚生労働省のキャリア官僚です。こういう業界団体は、各地域に支部もあり、そこにもキャリア官僚たちの天下り席が用意されているのです。
この「キャリア官僚絶対主義制度」は廃止すべきです。難関の入省試験に受かった者が自動的に幹部になることを約束されるような前時代的な制度は、もう世の中の害にしかなっていないのです。
勉強しかできない世間知らずの若造だけじゃなく、外部からも優秀な人材をどんどん招き入れ、ちゃんとその人の業績や人となりを評価する人事制度を構築すべきなのです。
そういうことは民間企業では当然のように行われているのです。もし入社試験の成績が良かったものだけを自動的に幹部にするような民間企業があれば、到底、時代の波に対応しきれず、あっという間につぶれてしまいます。
そして官僚たちの関係企業や上場企業などへの天下りを全面的に禁止する、彼らには定年まで官庁で働かせ、定年後は出身省庁とはまったく関係のない企業で一から一生懸命働くようにさせる。そういうシステムにしなければ、これから日本はどんどん腐敗していくばかりです。
image by: soraneko / Shutterstock.com
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