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都内勤務の医師2人に聞いた「医療現場にはまだ余裕がある」の嘘

首都圏では新型コロナウイルスの感染者数が減少する気配がありません。しかし、政府は「医療現場は逼迫していない」として、7月の4連休からの「Go To キャンペーン」を予定どおり実施するとしています。医療体制が脆弱な地方からは悲鳴も上がっていますが、「東京の余裕」も真実とは言えないと、メルマガ『8人ばなし』著者の山崎勝義さんは、都内医師に聞いた現状を伝えます。山崎さんは緊急事態宣言解除後に感じる頑ななまでのスケジュール至上主義に疑問を呈し、状況に応じた危機管理の必要性を訴えています。

『Risk Management』と『Damage Control』のこと

大規模感染症対策の基本は「Risk Management」と「Damage Control」である。前者は損失を如何に回避・低減するかという事前予測、後者は受けてしまった被害を如何に最小限にとどめるかという事後処理のことである。この2つがバランスよく機能しない限り感染の収束あるいは終息は望めない。

現下の問題は感染症である。当然リスクマネージメントの中心は医学者を含む科学者であり、ダメージコントロールの中心は医療関係者という構えになる。これら2つのプロセスは、むろん両方重要なのだが、優先度ということに関して言うなら完全に同じという訳ではない。

第一に優先されるべきは医療従事者なのである。彼らは最前線に布陣し文字通りその生命を懸けて感染症に対峙しなければならないからである。また医療体制そのものが崩壊してしまえば救える命も救えなくなってしまう。その意味において医療現場は最前線であると同時に最終防衛線であるとも言える。

国と都の発表によれば、医療現場にはまだまだ余裕があると言う。しかし、これは間違っている。良くて勘違い、悪ければ嘘である。実際、都内のコロナ患者受け入れ病院に勤務する知り合いの医者2人と電話で話をしたところ両院ともに概ね状況は同じであった。要はこうである。

確かに重症患者用のベッドは丸々空いている。とは言え、高度な集中治療を要する重症者用病床はもとより7、8床しかなく、それ以外の感染者用病床は軽症患者と感染が疑われる人でいっぱいである。正直、これ以上受け容れる余裕はない。

ここに無視できない事実がある。臨床的に症状があれば、検査においては陰性でも医者としては当然コロナ感染症を疑わざるを得ない。実際PCR検査の感度の問題でかなりの割合(あるデータによれば約30%)で偽陰性が出ることが分かっている。感染症においては、灰色は白と分かるまでは当面黒と扱わざるを得ないのである。国や都は、この臨床的コロナ感染者(検査においては陰性の患者)をちゃんと勘定に入れた上で物を言っているのか甚だ疑問なのである。

それからコロナ感染者用の増床を病院に要請しているとのことだが、人員はどうする。ベッドだけなら買って並べれば済むが、医療従事者は突然降って湧いては来ない。まさか今の2倍、3倍働けとでも言うのか。

加えて言う。これまで都は患者数急増の理由を積極検査による母数の増加として来た。ところが直近の3日間(7月10、11、12日)のデータで言えば、陽性率は都の算出法でも6%を超えている。これは3月初め、5月初めとほぼ同じ数値である。いや、事態はもっと深刻であろう。というのも3月当初とは違い、既に民間レベルではとれるだけの対策はとっているにもかかわらずの数値であるからだ。

リスクマネージメントは一体どこへ行った。この現実をどうするつもりなのか。時々刻々と変化する現状を一切無視して遙か以前に決めたスケジュール通りになんでもかんでも無理押しにするつもりなのか。そもそも4月に緊急事態宣言を全国規模で出さざるを得なくなったのは、春の人事異動や進入学に伴う引っ越し、春休み中の学生の帰省といった人の移動をほったらかしにしておいたことが招いた結果でもある。

今、夏休みが間近に迫っている。学校によっては事実上もう始まっているところもあるかもしれない。学生は、東京で最も危険とされている群の1つである20代に該当する。もし、無自覚にして無症状の彼らが大挙地方へ移動をすれば感染はたちまち列島全土に拡がることになる。田舎になればなるほど医療体制は脆弱であろうし、高齢者も多い。

過去の反省を活かすなら、こういった人の移動に何らかの制限を設けても良さそうなものだが、実際の政策は「Go To キャンペーン」である。正気か!観光需要喚起なら「地元再発見」をテーマにして自分の住んでいる都道府県内で楽しめばいい。一番いいのは感染者数の実態に即した「Go To マップ」のようなものを作って、旅行可能領域を明示することである。患者数のほとんど出ていない隣県同士なら人の移動によって生じるリスクも少ない。

5月の緊急事態宣言解除以来、頑ななまでのスケジュール至上主義のようなものを感じているのは自分だけか。これは憶測であると断った上での発言だが、オリンピックをやるためには何としてもこのスケジュールで、といったような大圧力でも掛かっているのではないか。

いずれにしろ相手はウイルスである。スケジュールもロードマップも通用しない。状況に応じたリスクマネージメントこそが重要なのである。このまま行けば、全てのしわ寄せは第1波(通算で言えば第2波)で疲弊した医療従事者に回されることになる。こうなれば最早ダメージはコントロール外であろう。何事も選択肢があるうちである。このまま事態が進み、選択肢が無くなってしまってから臍を噛んでも、その時はもう遅いのである。

image by: Shutterstock.com

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ここにあるエッセイが『8人ばなし』である以上、時にその内容は、右にも寄れば、左にも寄る、またその表現は、上に昇ることもあれば、下に折れることもある。そんな覚束ない足下での危うい歩みの中に、何かしらの面白味を見つけて頂けたらと思う。

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