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「虐待しないと誓って」と文科省HPに書く萩生田大臣の想像力欠如

今月7日、3歳の娘を自宅に放置し餓死させたとして、24歳の母親が逮捕されました。なぜこのような悲劇は繰り返されるのでしょうか。今回のメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』では健康社会学者の河合薫さんが、その原因に「機会格差」を挙げるとともに、文科省のHPで「虐待はしないと誓ってください」と訴える萩生田大臣の想像力の欠如を批判的に記しています。

プロフィール:河合薫(かわい・かおる)
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。

「虐待をしない」と誓ってください?

またもや痛ましい事件が起きてしまいました。今月7日、3歳の長女に十分な食事を与えることもなく自宅に置き去りにして、餓死させたとして逮捕されていた24歳の母親が、本日(22日)、書類送検される見通しであることがわかりました。

母親は6月13日までの8日間、自宅マンションに長女を残したまま、交際相手が住む鹿児島に滞在。帰宅したときには、すでに死後数日経っていたとみられ、脱水症状と飢餓状態で死亡させた疑いがもたれています。

報道によると、母親は2016年に長女を出産し、当時交際していた男性と入籍するもすぐに離婚。その後は、居酒屋で働きながらシングルマザーとして子育てをしてましたが、子供がいることは周囲には知らせていませんでした。

捜査関係者の話では、身体的虐待があったかはいまだ不明とのこと。一方、放置は常態化していたようで、これまでも長女を家に残したまま留守にすることが多く、5月にも鹿児島を訪れていたようです。

これまでも虐待などで子供が亡くなる事件や、シングルマザー問題は何度も取り上げてきました。そして、こういった悲しい事件は「社会問題」として考える必要があると一貫して訴えてきました。

もちろん、罪は罪として償うべきです。しかし、3歳になるまで大切に育て上げた子供を、なぜ、若いシングルマザーは放置してしまったのか?なぜ、かわいがっていた子供を一人きりにして、交際している男性のところに行ってしまったのか?

いったいなぜ、こういった悲しい事件が繰り返されてしまうのか?

…「子供を育てる資格がない」「身勝手すぎる」などと、自己責任論にしてしまうだけでは解決しないのではないでしょうか。

この事件に関しては、メルマガの読者の方たちからも、ご意見をいただきました(以下に一部掲載)。

どのご意見も全くそのとおりで、今の日本社会は「シングルマザー」が生き抜くには極めて厳しい社会です。子供の貧困問題もかなり前から社会問題になっていますが、依然として子どもの約7人に1人が貧困状態にあり、国際的に高い水準が続いています。

いわゆる格差。そうです。格差は想像以上に広がっていて、おそらく今後はさらに深刻になっていくことが予想されます。

そして、この格差問題は健康社会学的に捉えれば、「リソース」の問題なのです。

リソースは世の中にあまねく存在するストレッサー(ストレスの原因)の回避、処理に役立つもののことで、お金や体力、知力や知識、学歴、住環境、社会的地位、サポートネットワークなどはすべてリソースです。

資本主義社会ではカネのある人ほど、さまざまなリソースの獲得が容易になる一方で、おカネがないと、その他のリソースも手に入らなくなります。

さらにリソースが欠けた家庭の子どもは、進学する機会、仕事に就く機会、結婚する機会など、すべてにおいて機会が奪われてしまう悪循環のスパイラルに入り込み、機会格差が生まれいくのです。

冒頭の事件の母親は、複雑な家庭環境に育ったとされています。大人になるまでにさまざまな機会が剥奪され、家族というリソースもなかったのではないでしょうか。

日本では児童虐待に対応する職員の数も欧米に比べると少なく、子供を保護する環境も足りていません。

詳しくは「世界から警告され続けた「大切な命」問題――Vol.111(「小4女児虐待死で浮き彫りになった、子どもの権利『後進国』日本」)に書きましたが、日本は世界から「国家レベルで児童虐待している」と批判されるほど、子供たちを守り、そして、その母親たちをサポートする仕組みが貧弱なのです。

萩生田文部科学大臣は、文科省のHPでこう訴えます。「大切なお子さまの健やかな成長のために、どうか虐待はしないと誓ってください」と。「子育てに悩みや不安があるときは、身近な人に相談したり、自治体の相談窓口を頼ったりしてください」と。

相談できる身近な人がいない=リソースの欠損、自治体に相談にいく時間も余裕もない=リソースの欠損、そういった人たちのことを一度でも想像したことがあるのでしょうか。

みなさんのご意見もお聞かせください。

image by: Shutterstock.com

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米国育ち、ANA国際線CA、「ニュースステーション」初代気象予報士、その後一念発起し、東大大学院に進学し博士号を取得(健康社会学者 Ph.D)という異色のキャリアを重ねたから書ける“とっておきの情報”をアナタだけにお教えします。
「自信はあるが、外からはどう見られているのか?」「自分の価値を上げたい」「心も体もコントロールしたい」「自己分析したい」「ニューストッピクスに反応できるスキルが欲しい」「とにかくモテたい」という方の参考になればと考えています。

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