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大事な何かを捉えてくる。和歌山発のアート作品が面白いワケ

東京代々木のカフェヌックで8月8日まで開催されている個展「サインポストメモランダム」。和歌山県粉河町にある就労継続支援B型事業所で支援員として働く「ポングリさん」こと、奥野亮平さんによるアート作品が展示されています。個展の声掛けをしたメルマガ『ジャーナリスティックなやさしい未来』著者の引地達也さんが、ポングリさんの和歌山での活動や作品の魅力を紹介。垣根のないスタイルがこの社会に「インクルーシブ」の形を示しているとオススメしています。

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幾何学的で自由なポングリさんアートが東京にやってきた

幾何学的で自由、へんてこだけど整然、文字だけと絵、線だけど円、色だけど模様─。そんな言葉が次々と浮かんできそうなのが和歌山在住のアーティスト、奥野亮平さん、通称ポングリさんのアート作品だ。東京・代々木のカフェヌックで個展「サインポストメモランダム」が7月20日から8月8日まで開催されているから、是非間近でその世界観を味わってほしい。

描かれた絵だけではなく、描かれている紙も日焼けしたスケッチブックや年季の入った和紙で、額装も捨てられた木製のドア枠等から作られており、すべてが懐かしく、作品の世界に深みを与えている。そして、その描かれた世界は「はんこ」と形と線で組み合わされた世界で、ハンコで押された文字もあるのだが、それが「文字」という意味ある記号であることから解放された印象もあって、そこに自由が演出されている。ポングリさんのアートは懐かしい親近感を覚えながら、グイと私の大事な何かを捉えてくるから、やはり、面白い。

ポングリさんは以前、このコラムでも紹介した和歌山県粉河町にある就労継続支援B型事業所で働く支援員でもあり、事業所の生業は利用者による絵画などをモチーフにした作品の販売とチンドン屋である。ポングリさんが廃材から作った楽器と小道具を駆使しカラフルないで立ちの利用者と支援者が音楽を奏でながら、出し物で人を惹きつけ、笑わせて町を練り歩く。

それは動く広告としての役割を超え、利用者も支援者も一体となって「人を喜ばそう」という確かなモチベーションの形として発出された究極の芸能であり、その垣根のないスタイルはダイバーシティ社会そのもの。この社会に「インクルーシブ」の形をも示してくれる。

それは、世の中に突き付けた社会の在り方へのテーマ設定でもある、などと私が力んで考え、話をするのだが、ポングリさんはいたって冷静にチンドンを楽しんでいる。私の理屈に「そうですねえ」と言いながら、飄々と面白くチンドン屋をしているからうらやましい。

そしてこのアート。使わなくなったハンコや自作のハンコを押して、色付けやハンコの組み合わせで、ポングリさんの気持ちを表現していくものだから、いきなり筆を取って色を作るところから始まるわけではないので、一般の人にとっても非常にハードルが低いアートだ。

私もポングリさんにお願いし、関係する障がい者支援事業所で利用者にハンコでのアートを体験してもらったが、ハンコを組み合わせ完成させた利用者がそこから色をイメージし、そして仕上げていく過程は、どんどん感性が前に出てくるような印象だ。気持ちが表に出て、それを言葉にしながら、他者と交われる、ワークショップでポングリさんが言うように「うまい下手はない」のが、このアートの優しさである。

この優しいアートで表現する世界だから、作品は私の大事なテーマである「ケア」に結び付いてくる。どんなアートであれ、斬新であっても革新的であっても、ほんのわずかでも「ケア」がなければ、私の中には響いてこないから、ポングリさんのアートはケアの中に芸術がある、などと勝手に見立てている。もちろん、これはまったくの私見であるが。

カフェヌックは私自身、毎年東日本大震災の時期に「気仙沼線写真展」と題して震災で鉄路での復旧が見込めない気仙沼線のかつての姿を写真で展示し震災を感じてもらう企画を7回にわたって行っている会場である。立地の良さもあって、是非ポングリさんのアートを東京の人にも見てもらいたいとの思いでお声がけして個展が実現した。

作品のエネルギーは、ポングリさんがアーティストとして「はじけている」ところが重要で、これは自分をふりかえると、私自身いろいろと社会活動しつつも、私はそんなに「はじけている」人間ではないし、どうしても気持ちが内省的に向き、行動を自制するほうが優先してしまい「はじけられない」のである。だから、「はじける」エネルギーを持つポングリさんはとてもうらやましい。

といっても、私の性分はどうしようもないので、はじめる人を応援することで楽しんでいる。「はじける」「はじけない」の組み合わせで、今後もやさしい言葉で語らいながら、この世に向けて何かメッセージを発していければと思う。

image by: 奥野亮平(ポングリ)さんTwitter

引地達也この著者の記事一覧

特別支援教育が必要な方への学びの場である「法定外シャローム大学」や就労移行支援事業所を舞台にしながら、社会にケアの概念を広めるメディアの再定義を目指す思いで、世の中をやさしい視点で描きます。誰もが気持よくなれるやさしいジャーナリスムを模索します。

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