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徳田安春医師が新型コロナ「第一波」PCR検査基準を検証する

新型コロナウイルスの第2波とも言える感染拡大が続く日本。重症患者も徐々に増えており、医療体制が維持できるのか心配が募ります。メルマガ『ドクター徳田安春の最新健康医学』の著者で沖縄在住医師の徳田先生は、緊急事態宣言が発出された第1波時の検査体制を検証。問題点を洗い出して、第2波を乗り切るための検査と隔離のあり方について提言を行なっています。

新型コロナ診断の検査適応に対する検証。第1波での検査体制

2020年に入り、新型コロナウイルスが日本に入ってきた。新たなシリーズとして、第1波での検査体制について検証し今後のあるべき体制について提言する。今回はまず、医療機関での診断検査の適応基準に焦点を当てて述べたい。まず日本では、基本的に症状の強い人か、症状が長期間続く人にPCR検査が事実上制限されていたため、実際の感染者数はかなり過小に評価されてしまった。検査されない症状の軽い感染者はかなりの数おり、保護・待機(隔離のこと)がなされずに感染が拡大した。結果、感染者が増え、その中から重症者が出てきたのだ。

当初の「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き」には、検査の適応を絞るように書かれていた。曝露歴があり(感染者に濃厚接触した人)、発熱や呼吸器症状がある人。原因不明または増悪する肺炎の人。そうでなければ、発熱や呼吸器症状が4日以上続く人などにPCR検査を行うべき、などだ。その後、この手引きには、「医師が総合的に判断した結果、新型コロナウイルス感染症を疑う」という要件が追加されたが、「実施に関しては保健所へ相談すること」となっており、検査への壁は厚いままだった。

「診療の手引き」の検査の適応を厳格に守り、医療機関からのPCR検査の相談ケースを断わった保健所に罪はなかった。それでも、なかなか保健所に電話がつながらない、つながっても検査は断られるという実態が、一般の診療所ではあたりまえの話となった。現場の医師は、自身の判断で診断検査が出来ず、多くの医師は「軽症では検査はやらない」と決めてしまった。発熱のない軽い咳、4日未満で自然に下がった発熱、そして嗅覚や味覚低下などの症状の人は検査されない流れとなってしまった。

目詰まり

新型コロナ第1波で、PCR検査を事実上制限した日本。「医師が総合的に判断した結果、新型コロナウイルス感染症を疑う」となっているにもかかわらず、医師の判断を「患者を診ていない」保健所の職員が最終決定していた。海外では積極的にPCR検査を行っているのに、日本ではなぜ検査を受けることができないのか?と社会問題にもなった。

その後、第1波が収束しつつあったときに行われた「振り返り」で、総理や政府の専門家会議の尾身茂氏は、検査の拡充をしたかったが「目詰まり」があった、と述べた。簡単ではないかもしれないが、民間、大学、海外への応援要請など、検体運搬にかかる費用などに国が予算をつけて総動員体制でやれば、検査の拡充はできるはずであり、現在はその方向に進んでいる。

2020年4月、厚労省とLINEが行ったオンライン調査では、軽症を中心に新型コロナウイルスを疑いうる症状を持つ人は約7%いた。東京の人口の1200万人中では約80万人いることになる。キャパシティーが増えて検査が可能になってきた現在、このような症状がある80万人を対象に、医師による問診や検査を行うとどうなるかを考えてみる。

まず、日本の場合、感染者は社会から悪者扱いされるような文化があると指摘されている。大阪大の調査で、「感染は自業自得だと思う」と答えた日本人の割合は米国人の10倍もいた。よほど思い当たることがないと自ら検査を希望することは無いだろう。また、家族に高齢者がおり、感染が伝播することを心配して受診する人もいるだろう。いずれにしても、患者の軽微な自覚症状を過小評価してはいけないのだ。

症状が弱くても感染確率によって検査をすべき

80万人のなかに感染者が1万人いるとすると、検査前確率は1.25%となる。これでも確率としてはまだ低い。しかし、医師が問診をして感染の疑いが強いと診断した人を対象に検査をすれば、検査前確率が上がり、診断確率が上がる。逆に、検査前確率を問診によって低下させることができれば、診断検査そのものが不要になる。

このような推論で条件付き確率を変化させ、診断確率を調整し、診断パワーがアップする。オンライン診療で可能な問診だけでも、検査前確率をかなり上げることができる。新型コロナウイルス感染症の診断確率を高くする症状には、咳、発熱、呼吸困難、下痢、筋肉痛、嗅覚異常などがある。PCR検査は、症状の強さではなく、検査前確率の高さで判断しておこなうべきなのだ。

現場の医師の判断を有効活用し、検査前確率を絞りこんでから、新型コロナウイルスのPCR検査のように特異度(非感染者を陰性と正しく診断する確率)の高い検査で陽性となれば、検査後確率が高くなる。医師の問診によって検査前確率の高い人を拾い上げ、その人たちを対象に検査をたくさん行うことによって、できるだけ多くの感染者を見つけ出す。ホテルや施設に保護・待機していただく。その人々の濃厚接触者を追跡する。それが、感染拡大防止につながる。

病院での急性期ケアが済んだ軽症者は、医療管理が可能な専用施設に移すとよい。その方が患者さんのQOLも良くなる。患者の爆発的増加に対応するため、ホテルやイベント会場を改造し、専用施設に変換すればよいのだ。海外で成功した専用施設には「鍵と機能」があった。3つの鍵は、迅速設置、巨大スケール、低コスト。5つの機能は、待機、トリアージ、基本的医療、頻回モニタリングと迅速な患者搬送、基本的な社会生活の環境設置だ。

image by: Shutterstock.com

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