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優雅で危険な「安倍のなつやすみ」臨時国会から逃げツケは国民に?

通常国会が6月18日に閉会して、約50日が経過しました。その間に、第2波ともいえる、新型コロナウイルスの感染拡大が止まらなくなっています。野党が臨時国会の召集を要求するものの、安倍首相は全くその気がないようで、官邸に閉じこもったままです。なぜ安倍首相はここまで頑ななのでしょうか。元全国紙社会部記者で、メルマガ『国家権力&メディア一刀両断』の著者・新 恭さんがその疑問に言及。片山前鳥取県知事vs田崎史郎&八代弁護士が、テレビ番組内で激しいバトル繰り広げた様子を紹介しながら、国会を開きたがらない安倍首相の心の内を説いていきます。

解散で頭が一杯?逃げる安倍首相に新型コロナの現場混乱

解散・総選挙が頭にあるのか、それとも、ただ単に野党の追及から逃れたいだけなのか。安倍首相は今のところ、臨時国会を開く気がまったくないようだ。

野党は憲法53条にもとづいて臨時国会の召集を内閣に求め、7月31日、要求書を衆院に提出したが、与党側は「審議する法案がない」と言って取り合わない。「10月以降に召集する方向で調整」(朝日新聞デジタル)という報道もあるが、なぜそうなるのか、さっぱりわからない。

国会は法案を通す場で、議論する場ではないというのが、安倍政権の奇妙な信念であるらしく、いくら東京都医師会の尾崎治夫会長が「コロナウイルスに夏休みはない、一刻も早く国会を開いて」と切羽詰まった声で訴えようが、全国知事会から知事権限強化のための法改正を求める声が出ようが、おかまいなしなのである。

そもそも、審議する法案がないからといって国会を開かない道理があるだろうか。国会は法を定める機関であり、そのためにはしっかり議論をしなければならない。コロナ禍で国が未曾有の危機に瀕しているときに、国会が閉じていることこそ異常であり、最低である。内閣総理大臣たるもの、言われなくとも、「おーい、みんな集まれ」と、召集をかけるのがあたりまえだ。

新型コロナウイルスに適用している新型インフルエンザ特措法がすこぶる評判が悪く、手直しを求める声が強い。

知事会は「休業要請に罰則と補償の規定を加えるべき」と政府に要請し、都医師会の尾崎会長も「このままお願いするかたちでは感染の火だるまに陥る。法的な拘束力のある対策を」と訴える。

現場でコロナ対応にあたる人たちの声には重みがある。営業の自由などの観点から、全く問題なしとはいえないにしても、国民の生命と健康にかかわることであり、特措法改正についての議論は急務であろう。自民党が憲法改正草案に盛り込んだ緊急事態条項のように拡大解釈で人権が脅かされる恐れはないのではないか。

「GoTo」に「アベノマスク」…忘れてほしい失敗だらけ

4月の緊急事態宣言の発令直後から内閣官房や厚生労働省が、特措法改正にむけて内閣法制局と協議に入った旨の報道もあったが、今はどうやら改正に後ろ向きのようである。

というのもやはり、安倍首相が国会開催を嫌がっているからに違いない。特措法の改正となれば国会を開かないわけにはいかないが、「Go To トラベル」キャンペーンとか、今や誰もが欲しがらぬ「アベノマスク」配布など、巨費を投じたズッコケ大事業をやってのけた安倍首相としては、野党が手ぐすね引いている場に出て、批判のマトになりたくないのであろう。

しかし、それで済ませてもらっては困るのだ。このままでは、感染拡大防止と経済活動の両立どころか、共倒れになる恐れさえある。この国は、国民は、いったいどうなるのか。

なぜコロナ対応の法改正できぬ? アベ友が苦しい言い訳

その意味から言うと、7月31日のTBS「ひるおび!」における、片山善博早大教授(元自治官僚、元鳥取県知事)の政府に対する怒りの声はうなずけるものであったが、これにジャーナリスト・田崎史郎氏や、タレント弁護士・八代英輝氏が日頃の与党的な視点を堅持して激しく反論した。しばし、この一幕を振り返ってみよう。

それは、片山氏が「特別措置法はちょっと粗いところがあり、改正しなきゃいけないのに、国会を開かないための理屈ばかりこねている」と発言したのをきっかけにはじまった。

八代氏がこう反応した。「国会の本会議を開くと1日に3億円ずつかかる。その資金を別の用途にまわしたほうがいい。特措法の改正をするとしたら、まず法案をつくって、法制局にかけて、委員会にかけて本会議ですよね。いま本会議だけ開いても何もやることがないんですよ」

すかさず片山氏がつぶやいた。「やりたくない人はみなそう言うんですよ」。

「別に僕、国会議員じゃないんで」とわめく八代氏を横目に片山氏は続ける。

「私はかつて霞が関で法律の改正を何回もやってきましたけども、この種の法律改正はあっという間にできます。やりたくないときに、時間かかる、法制局がどうしたこうしたと言うんです。そんなことウソです。信じちゃいけません」

ここで、やおら田崎氏が口を開き、「僕は片山さん、自治大臣の秘書官から存じ上げていますが、優秀な自治省の官僚であった」ときた。なにやら不穏な空気である。

「でも、その当時とは今は若干違っていて、特措法の改正という場合、論点がいくつもあるんです。多省庁にわたる。もう改正作業は始まってるんですよ。でも、かなり時間がかかる」「法案をつくった後に国会に提出して審議していただくわけですね。いま国会開いても審議する法案がありませんよ

実務を知らない田崎氏が、実務を熟知する片山氏にお説教する。知らないから、「違う」とは言わず、「今は違う」と言って、条件付き否定するほか手がないのだ。

片山氏は笑う。「こんなのね、すぐできますよ。そんな大それた改正要らないんですよ。やる気がないからですよ、この期に及んでも時間がかかるのは。秋になって国会開いたとしても、これどうなりますか。それまで国会議員の皆さん、みんなステイホーム、ボーナスもらって、長期有給休暇ですよ

田崎氏「国会はいま週に一回やっている」

八代氏「片山さんのようにすぐできると言えば気持ちいいですよ。でも実際はそんな簡単なもんじゃないと思いますよ僕は」

片山氏「簡単です」

田崎氏「いや簡単じゃないと思いますよ」

今あえて「臨時国会を開かない」理由はどこにもない

子供の喧嘩みたいだが、冷笑する片山氏に他の二人が意地になって食ってかかるのが面白い。彼ら二人が臨時国会開催など無意味だと考える理由は、「法案がないから」。自民党の言い分と寸分違わない。

法案づくりが田崎氏の言うように難しいのなら、国会で与野党をこえて必要な修正点をまとめればいいではないか。しかも、先述したように、国会で審議すべきは、何も特措法改正だけではない。外交、防衛、環境、エネルギーなど多方面にわたって議論を要する課題が出てきている。コロナ対策だけでも、特措法のみならず、論点は山ほどあるはずだ。

過去にもあった国会拒否。安倍首相の夏休みは永遠に続く

安倍首相は、過去2回、野党の憲法53条にもとづく臨時国会開催要求を拒否した前歴がある。

2015年が1回目。閣僚のスキャンダルや日歯連の政治献金問題などで追及されるのを嫌がって、野党の臨時国会召集要求を蹴り、結局この年は通常国会しか開かれなかった。

2回目は2017年。森友学園・加計学園問題を追及するため、野党が6月に臨時国会開会を要求し、3か月以上を経た9月28日にようやく召集したかと思うと、その日のうちに解散した。国会論議は行われずじまいで、安倍自民党は10月の総選挙で大勝した。形式上は開会されたことになるが、これでは臨時国会開催要求に応じたとはいえないだろう。

安倍首相が早期の臨時国会を避ける背景として、取りざたされるのが、解散・総選挙をにらんだ動きだ。麻生財務相があからさまに「解散」をちらつかせているほか、安倍首相をめぐる風景も2017年と似通ってきた。

今年6月19日、安倍首相、麻生財務相、菅官房長官、甘利明氏らは都内で会食した。彼らは2017年の7月にも、夕食をともにしている。

すわ解散総選挙か、とマスコミが色めき立ったのも無理はない。麻生財務相は6月だけで8回も安倍首相に会って、なにごとか密談したといい、公明党の斉藤幹事長に「衆院解散は今秋が望ましい」と伝えたとされる。

安倍総裁の任期は来年9月いっぱい。来年は東京五輪や東京都議選が予定され、解散できるタイミングはほとんどないので、今秋に、ということだろうか。かつて首相をつとめた麻生氏には、任期切れが迫るまで解散できなかったため民主党に歴史的敗北を喫した苦い経験がある。

「コロナ重症者続出の冬は選挙に勝てぬ」から秋に解散?

7月になって新型コロナウイルスが再び猛威をふるいはじめたため、解散への動きも影をひそめつつあるように見える。ふつうなら解散など、とんでもない状況ではあるのだが、安倍政権に常識は通用しない。冬場には重症者が増えると見込めば、まだ重症者が少ないうちの解散チャンスを狙うだろう。焚きつけ役の麻生氏もあきらめてはいまい。

それこそ2017年のような、解散のための臨時国会召集ということも、求心力維持こそ最優先事項の安倍首相なら、やりかねない。議席がかなり減るのは覚悟のうえ、情勢調査で安定多数を確保できると見込めば、国民生活などそっちのけで、解散に踏み切れる首相なのだ。

ただし、相変わらず、安倍首相の健康不安説も飛び交っている。それなら、解散する元気もなければ、国会を開いて答弁に立つエネルギーもないかもしれず、解散以前に進退問題となってしまう。

さしあたり、安倍首相が野党の臨時国会召集要求を拒み続けるか、どこかで折り合うかが、今後の政局を占うカギといえるだろう。

image by : 首相官邸

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