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元マイクロソフト社員だから分かる、TikTok電撃買収の真の狙い

様々な憶測が飛び交っている、マイクロソフトによるTikTokの買収。そもそもなぜマイクロソフトは、中国の企業が開発し運営する動画共有サービスの買い取りに乗り出したのでしょうか。今回のメルマガ『週刊 Life is beautiful』では世界的エンジニアで元マイクロソフトの社員でもある中島聡さんが、改めて一連の動きを振り返るとともに、同社の狙いを予測・解説しています。

プロフィール中島聡なかじま・さとし
ブロガー/起業家/ソフトウェア・エンジニア、工学修士(早稲田大学)/MBA(ワシントン大学)。NTT通信研究所/マイクロソフト日本法人/マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。現在は neu.Pen LLCでiPhone/iPadアプリの開発。

MicrosoftによるTikTok買収、本当の狙いとは

ここ2週間ほど、TikTokがメディアを賑わせています。TikTokは中国初の動画共有サービスです。音楽に合わせてダンスを踊る映像などを共有するアプリで、全世界に8億人のアクティブ・ユーザーがいると言われています。私自身も、2000年代の終わり頃にPhotoShareという写真共有サービスを提供していたことがあるので、とても親近感を感じるサービスです。

米国にも8,000万人のアクティブ・ユーザーがいるそうですが、最近、やたらと中国を目の敵にしているトランプ大統領が、「TikTokのような中国企業が運営するサービスを米国で運営されると、個人情報が中国共産党に筒抜けになる」という発言が発端となって、一連のイベントが起こりました。

最初は、「MicrosoftがTikTokとの買収交渉をしているらしい」という報道でしたが、この時点では「噂」でしかありませんでした。私から見れば、せっかくエンタープライズ・ビジネス向けのSaaSビジネスへの転換に成功しつつあるMicrosoftにとって、TikTokの買収は、戦略的に意味がないし、やるべきではないと感じていました。

しかし、8月1日にReutersが「TikTok’s Chinese owner offers to forego stake to clinch U.S. deal」というスッパ抜き記事を書き、ここで一気に信憑性が増しました。この報道は、まずはMicrosoftが米国内のTikTokユーザーのデータ管理をすることにより、米国政府の懸念を払拭し、その後に売却先を探すというトーンで書かれています。

Under ByteDance’s new proposal, Microsoft, which also owns professional social media network LinkedIn, will be in charge of protecting all of TikTok’s U.S. user data, the sources said. The plan allows for a U.S. company other than Microsoft to take over TikTok in the United States, the sources added.

翌日(8月2日)には、Microsoftから公式ブログを使って「Microsoft to continue discussions on potential TikTok purchase in the United States」との発表があり、そこにはMicrosoftが(TikTokの親会社である)ByteDanceとだけでなく、米国政府ともこの件を話あっていると書かれています。

Reutersの記事とは異なり、Microsoft自身がTikTokを買収するとブログには書いてありますが、「外部からも投資家を募る可能性がある(Microsoft may invite other American investors to participate on a minority basis in this purchase.)」と書いてあるので、Microsoft本体に取り込むというよりは、別会社として運営する計画のようです。

トランプファン大喜びの「ディール」発言

それとほぼ平行して、トランプ大統領が、8月2日の記者会見で、TikTokに関して発言をしました(「Trump calls TikTok a hot brand, demands a chunk of its sale price」)。要約すると、

となります。特に最後の部分は、いかにもディール好きのトランプ大統領が思いつきそうな話で、このディールが成立すれば、トランプファンは大喜びし、大統領選にもプラスになると考えているのだと思います。

買収金額に関しては、通常の状況であれば米国のオペレーションだけで$20~$40 billion(2,000~4,000億円)の値段がついても不思議はありませんが、「9月15日までに売却しなければならない」という厳しい条件がある上に、Facebook、Google、Appleは独禁法の観点から買収先として相応しくないため、Microsoft側は圧倒的に有利な条件で交渉を進めることが可能です。

Microsoftの狙いはキャピタルゲイン

私が予想するに、これはMicrosoftにとって戦略的な買収ではなく、買収後も独立した会社として運営し、1~2年以内に、売却もしくは上場させるという、キャピタルゲイン狙いの買収でしかないと思います。そう考えれば、出来るだけ安く買い叩いた方が良いし、「キャピタルゲインを得た後に、その一部を渡す」という形でリスクを減らすことさえ可能です。(具体的には、「$5 billionで買収し、2年以内にキャピタルゲインを得た場合には、そのゲインの30%を渡す」などの契約です)。

Microsoftは以前にも、戦略的ではないサービスとしてExpediaを別会社として切り離して上場させたことがあるので、TikTokに関しても同じようなことをする可能性が大きいと私は思います。

ちなみに、買収後にTikTokのサービスをMicrosoft Azure上のサーバーに乗り換えておくことは当然やると思います。エンタープライズ向けのクラウドサービスでは健闘をしているMicrosoftですが、コンシューマー向けではAmazonに大きく離されています。TikTokの規模のサービスをAzureで運営することは、実績としても重要だし、別会社として切り離した際には、重要な顧客になってもらえます。

image by: Ascannio / Shutterstock.com

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