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自粛警察は差別主義者。「あいつはコロナだ」の烙印が日本を破壊する

新型コロナウイルスの感染拡大により、感染者を出したお店や会社、学校などに対する風当たりが強くなっています。なぜ「自粛警察」や「帰省警察」がこれほどまでに幅をきかせるのでしょうか?精神科医の西多昌規さんは自身のメルマガ『精神科医・西多昌規が明かすメンタルヘルスの深層』の中で、そのメカニズムを解説。差別や偏見(=スティグマ)によって、日本全体が「差別する側」と「差別される側」に分断される危険性を指摘しています。

新型コロナ差別で、日本社会は分断寸前

COVID-19が与える影響は、皆が一様に受けるわけではない。自宅でのリモートワークで収入は安定している業種がいる一方で、レジャー産業や飲食業、フリーランスのように、非常に苦しい状況に置かれている人たちもいる。

既に病気をもつ人、障害者、失業者、妊婦、小児・高齢者など弱者は、そうでない人と比較して、メンタルヘルスの悪化を来しやすく、サポートへのアクセスも良くない。COVID-19によって被るダメージは、平等ではない。

さらにCOVID-19は、わたしたちを着々と「分断」してきている。分断は、差別や偏見、対立や敵意、憎悪を生み出す。スケープゴートや攻撃対象を見いだして、そこにやり場のない怒りをぶつける現象もみられる。

政策や報道の「分断」も、人々に不安を与えている。感染拡大制御と経済推進はトレードオフであり難しい問題であることはわかるが、GO TOキャンペーンを推進する一方で、時短営業や帰省の自粛要請があるようでは、一貫性があるとはとても思えない。報道も然りで、PCR推進派とPCR抑制派とで主張が「分断」されており、何を信じていいのかわかならくなっている。

COVID-19の第二波と長期化は、分断や差別を助長し、ますます人々を混乱させる。自然、怒りや絶望といった、強いエネルギーの感情が生じやすくなる。

スティグマという用語がある。元々は汚名・烙印という意味であり、LGBT、精神疾患など社会において、何らかの属性を持つことから差別や偏見の対象として扱われてしまうことを指す。

COVID-19も、スティグマである。感染者を出した機関の職員やその家族が、保育園利用や入店など各種サービスの利用を拒絶される、感染者の家に中傷の張り紙や投石をするなどは、スティグマの最たる例である。スティグマによって、わたしたちは差別する側と差別される側に分断される。

スティグマと分断は関連が深く、憎悪と敵意とを生み出し、メンタルヘルスにとっては望ましい状況ではない。

「自粛警察」「帰省警察」に見られる偏った正義感という脅威が、マスク以上に息苦しい社会を作り、メンタルヘルスに陰ながら影響を与えているように思う。組織からCOVID-19陽性者が出た場合には、トップが謝罪するという行動に象徴されているように、COVID-19自体での病原性よりも、「感染したらアウト」と社会的に判断されるスティグマ(差別や偏見)のほうが、メンタルヘルスにとっては脅威である。

COVID-19陽性者がいったん出現すれば、自宅に張り紙や投石されるという蛮行が見られるのも事実である。行政がいくら個人情報を伏せたとしても、インターネットでの検索ももちろんだが、特に狭い社会の地方ではどうしても個人が特定されやすく、噂も広まりやすい。

大学教育の場で叫ばれている悲鳴

この社会的断罪の弊害を、わたしの携わる大学教育の場で考えてみる。今年の大学1年生は、入学式も含めて、一度もキャンパスに通学したことのない学生が多い。対面でのリアルなコミュニケーションがまったくなく、オンライン講義だけの弊害は、授業やゼミ選択など雑談的なやりとりから得られるリアルな情報の欠如、ずっとアパートや実家の自室にこもってパソコンを見つめてオンライン課題に取り組むだけで一日が終わってしまう不全感など、挙げれば切りがない。メンタルヘルスの問題も深刻化しつつある。

学生や保護者からは、対面授業の再開を熱望する声もある。しかしクラスターが発生した場合には、主にマスコミによる社会的断罪が執行され、学生や保護者のメンタルはズタズタになるだろう。3月の京都産業大学の事件を思い出してほしい。

image by : shutterstock

西多昌規(精神科医)この著者の記事一覧

精神科医の西多昌規です。一般書やブログ、SNSには書きづらい精神科医療とメンタルヘルスの裏の実情を紹介します。医学研究や医学部教育の問題点にも切り込みます。

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