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老害に居場所なし。日本の仕事場がコロナ禍で「強制進化」する理由

どれだけ組織改革の必要性を指摘されても、頑ななまでに旧態依然とした体制を変えようとしない日本企業。当然ながら国際競争力は落ちる一方で、国力は目も当てられない状況にまで低下しているのが我が国の現状です。そんな中にあって、「新型コロナ騒動が日本の企業に良い意味での進化圧を与えることになる」とするのは、世界的エンジニアで米国在住の中島聡さん。中島さんは自身のメルマガ『週刊 Life is beautiful』で今回、なぜそのように考えるのかを記した上で、乱暴とも取られかねない「日本企業再生法」を提示しています。

プロフィール中島聡なかじま・さとし
ブロガー/起業家/ソフトウェア・エンジニア、工学修士(早稲田大学)/MBA(ワシントン大学)。NTT通信研究所/マイクロソフト日本法人/マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。現在は neu.Pen LLCでiPhone/iPadアプリの開発。

コロナ後の世界:ピンチをチャンスに

先日、松井博氏の「なぜビジネスのIT化は永久に遅れ続けるのか?」という記事を読みました。要点は、以下の段落にまとまっています。

なぜそうなってしまっているかというと、詰まるところ意思決定者の年齢が高いからなのです。

 

例えばある企業の第一線で働いてる方がうちのオンラインサービスをすごく気に入ってくれて、会社で熱心に勧めてくれる、ということが多々あります。ところが、大抵途中で頓挫してしまうのです。その理由は「前例がないから」です。

米国で暮らしている私から見ると、日本企業の変化は信じがたいほど遅いのですが、その根底にはやはり、日本特有の終身雇用と雇用規制があるとつくづく思います。

米国の場合、そもそも成功した人はさっさと引退してしまいます(先日も、Microsoftで42歳まで働いて、その後は遊んで暮らしている人に会いました)。また、時代の変化に乗り遅れた人、会社に価値をもたらさない人たちは、どんなに上の立場にいても解雇されてしまうのも米国の特徴です。

日本の大企業の平均年齢はどこも40歳以上ですが(ソニー:42.4歳、パナソニック:45.7歳)、それは、50歳前後の「デジタル・ネイティブ」とは言い難い人たちが、高い給料をもらって会社の主要なポストを占めていることを意味しています。

そんな人たちに、「大きな失敗さえしなければ、定年まで給料は上がり続け、天下り先も紹介してもらえる」という文化の中で冒険が出来るはずがないのです。特に「自分が使いこなせるとは思えないもの」を導入することは、自分自身が「不要な存在である」ことを顕在化することでもあり、到底、賛成など出来ないのです。

このままでは日本企業は(そして日本社会は)沈む一方ですが、今回の新型コロナ騒動は、良い意味での進化圧を与えることになると私は期待しています。

リモートワークを強いられたことにより、判子や定例会議のような無駄なものが排除され、「会社にいる時間だけは長いけど生産性が低い人や、価値を提供していない中間管理職」が炙り出されることになる可能性があるからです。

大会社で働き続けるのであれば、遠慮せずに自分の意見を主張すべきだし、無駄は(たとえ上司であっても)排除すべきなのです。本当に会社のためになる事であれば、まともな経営者は耳を傾けてくれます。そんな(会社のための)行動を会社が拒否するのであれば、そんな会社は辞めてしまえば良いのです。

そして、これは少数精鋭の小さな会社にとっても大きなチャンスだと思います。デジタル・トランスフォーメーション(DX)を、既存のプレーヤーが起こすことは稀で、ほとんどの場合、それは外からやってくるのです。

それを強く意識し、パソコンやスマホを自在に使いこなせるデジタル・ネイティブな人だけを集めたベンチャー企業を作り、ソフトウェアやサービスを最大限に活用した結果のスピードや低コストで、旧態依然とした業界に殴り込みをかけるのです。

「そんな乱暴なことは出来ない」と感じる日本人が大半だと思いますが、そうでもしなければ、日本企業の再生はありえないところにまで来ていると私は思います。

コロナ後の世界:資本主義の危機

先週紹介したBusiness Casualが結構面白いインタビューをしているので、過去に遡って聞いているのですが、そのうちの一つで、NASDAQのCEO、Adena Friedman氏が「資本主義の最大の敵は貧富の差だ」と主張しているのがとても印象に残りました(参照:Business Casual)。

NASDAQは、AppleやTeslaなどのIT企業が上場している市場ですが、今や株価が(失業者が20%以上もいる)実体経済とかけ離れて高騰しているため、ただでさえ広かった貧富の差が、さらに広がると言う状況を作り出している張本人でもあります。

米国では、警官による黒人男性の殺害事件以来、“Black Lives Mater”と言うスローガンのものに大規模なデモ行進が各地で行われ、その混乱に便乗した破壊行動や強奪が起こっています。

前にも説明しましたが、この手の破壊活動は、地元ギャング団がSNSで便乗者たちを大量に集めて計画的にカオスを作り出しているため、取り締まるのが簡単ではないのです。

そんなことが起こってしまう一番の理由が「貧富の差」なのです。社会の底辺で辛うじて最低賃金の仕事をして稼いでいた人たちが、ロックダウンのために解雇され、社会に対する不満と暇の両方を持て余しているから、こんなことが起こってしまうのです。

政府は、新型コロナによって引き起こされた不景気が、リーマンショックのような金融危機に発展しないように大量のお金をばら撒いていますが、それが株式市場に流れ込んで、「資産バブル」を作り出しているのです。

そして、それが結果として、貧富の差をさらに広げることになっているのは、大きな問題です。このままの状況が進むと、全米各都市のダウンタウンは危険すぎて普通の人が近づけない危険地帯になってしまいます。

私がもっと心配しているのは、こんな状況に便乗して、極右や極左の政権が誕生してしまうことです。トランプ大統領は、その前座のようなもので、その先にはヒットラーのような人が待ち構えていると覚悟した方が良いと思います。

その意味では、トランプ大統領の対抗馬である民主党のバイデン氏は、左翼中道なので、安心して政治を任せられる人ではありますが、オバマ大統領のようなカリスマ性がないのが大きな欠点です。世論調査では「バイデン有利」ではありますが、それで安心して投票率が低くなると、熱烈なファンが多いトランプ氏に有利に働くので、それが心配です。

日本は日本で、安倍政権をここまで長期政権にしてしまったツケが大量に溜まっていますが、野党が分裂したままでは、まともな戦いも出来ないという情けない状況になっています。

何れにせよ、どの国も富の再分配の方法を根本から変える必要があると私は考えています。そしてそれと同時に、グローバルにビジネスをする企業からどうやって各国が課税するか、という「グローバル化された世界に相応しい税制」も必要です。

その意味でも、そろそろ「負の税制」とも呼ばれるユニバーサル・ベーシック・インカムの導入を各国が真剣に考慮しても良い時期に来ているように思えます。

image by: Ned Snowman / Shutterstock.com

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