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裏切りの菅義偉「安倍降ろし」への秘めた思惑とは?二階氏と急接近、TV出演で攻勢

首相の健康不安で「ポスト安倍」に世間の関心が高まる中、菅義偉官房長官が存在感をアピールするかのようにテレビ出演を重ねています。その「思惑」はどこにあるのでしょうか。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では元全国紙社会部記者の新 恭さんが、菅官房長官への急接近ぶりを見せつけている二階幹事長をキーパーソンに挙げつつ、この時期に菅氏がテレビ生出演を繰り返す理由を考察しています。

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8月、テレビに出まくる菅官房長官の胸の内

おそらくこの8月ほど、菅義偉官房長官が頻繁にテレビ番組に生出演したことはなかったのではないだろうか。筆者が知っているだけでもこれだけある。

1日:日本テレビ系列「ウェークアップ!ぷらす」
2日:NHK「日曜討論」
18日:BS日テレ「深層NEWS」
21日:テレビ朝日「報道ステーション」

いうまでもなく官房長官は内閣のスポークスマンである。「原則として月曜日から金曜日に、午前と午後の2回、定例会見をおこなっている」と、官邸のサイトに書いてある。その一場面がしばしばテレビで放映されるため、いつも飽きるほど見ている顔だ。

とはいえ、内閣ナンバー2の権力者のおでましとなると、スタジオの空気感も日頃とは違う。それに、ニュース用の断片映像よりも、生出演のほうがより正確で、はるかに多くの情報が伝わってくる。キャスターの力量や質問の仕方などによっては、会見では聞けない話が飛び出すことだってありうるだろう。

それにしても、この8月の生出演回数は、異例の多さだ。菅長官は自身のブログやツイッターなどで、テレビ番組出演の「お知らせ」を掲載しているが、それによると、この1年に8回ほど生出演しており、うち4回が今年の8月に集中している。

直近の4回、いずれもテーマはコロナがらみ。出演を依頼するテレビ局側にすれば、後手にまわりがちな感染防止対策や、アベノマスク、GoToトラベルキャンペーンなどズッコケ政策について官房長官の見解を聞くという狙いはもちろんあるだろう。だが、多分それだけではない。

テレビ局側の関心と、菅官房長官の秘めた思惑が、この時節、はからずも一致したということではないか。

メディアが今、最も関心を持っているのは「ポスト安倍」の動きだ。安倍首相の体調が芳しくないのは誰の目にも明らかで、しかも、内閣支持率はさまざまな疑惑、不祥事、失政が重なって急降下、いまや保守層からも見限る声が出てきつつある。

来年9月の総裁任期切れを待たず、安倍首相が自ら退陣するという観測が流れるのも仕方がない状況だし、たぶんそうなるだろう。あの顔色、目や声の力のなさ。解散総選挙などできそうもない。9月に予定される内閣改造も危ぶまれるほどだ。

退陣となると、誰が次の総理になるのか。石破か、岸田か、河野かと世評の高名前が出てくるが、いずれも毛並みのいい世襲政治家ばかり。コロナ禍がいつ終息するかも見通せず、健康不安と経済的打撃がこれからも長々と続くことを思えば、誰がトップになろうと、国民の不平、不満を背景にした激しい政権バッシングを覚悟しておかねばならない。たとえ堕落しきった現状より誠実であっても、ひ弱な政権になっては、とてもじゃないが、もたないだろう。

その観点からいくと、政治家秘書、地方議員から、のしあがってきた菅義偉氏が打たれ強い政治家ということになるのだろうか。二階俊博幹事長が自分と同じ“たたき上げ”の菅氏に目をつけたのは無理からぬことといえる。

むろん、二階氏が菅氏に惚れ込んでいるわけではない。彼の政治活動の眼目はご多分にもれず、利権であり、勢力拡大だ。おそらくは、次期政権でも幹事長の座について党内ににらみをきかせたいのだ。6月17日と7月1日に続き、8月20日にも、二階幹事長は菅官房長官と会食し、急接近ぶりを党内外に見せつけている。

だが、前の2回と、8月20日では話の流れが大きく変わったと推察する。

二階氏は、ほんの少し前まで石破茂氏との接近が取りざたされていた。石破氏も二階氏や菅氏の支援を得たいだろう。線が細いとか、影が薄いとか言われがちの岸田文雄氏だって、いぜん、ポスト安倍の有力候補である。対中姿勢をめぐる二階氏とのささやかな食い違いが響くとは思えない。

6月と7月の段階では、二階氏はそれこそ石破、岸田といった名前をあげながら、いつかはやってくる総裁選の絵を菅氏とともに描いていたはずだ。ところが、8月に入り、健康不安説が持ち上がって安倍首相の存在感が低下するや、ポスト安倍の思考回路を乱世モードに転換した気配がある。8月20日の席では、ズバリ「菅さん、あんたがやったらいい」と、菅氏をけしかけたかもしれない。

菅氏も、幹事長に背中を押されたら、まんざらでもないだろう。メディアに総理大臣になりたいかと聞かれれば、番頭とか女房役とかいう領分を超えないよう、「いやあ、私は秀吉より秀長が好きなんで」などとごまかすが、どうもここへきて、チャンス到来と踏んでいるように思える。

かたや二階氏が8月3日の記者会見で菅氏のことを「大いに敬意を表している」とほめれば、菅氏は同18日のBS日テレ「深層NEWS」で「もっとも頼りがいがある」と二階氏を持ち上げる。次期政権は菅総理・二階幹事長と二人してアピールしているかのようだ。

菅氏のテレビへの頻出は、そんな背景からとらえると興味深い。とりわけその“意欲”を感じたのが、報道ステーションへの生出演だ。

安倍官邸が毛嫌いしていた番組だったはずだが、宗旨替えでもしたのだろうか。いや、そうではあるまい。菅氏は、安倍首相や今井補佐官のように、好き嫌いとか、敵味方に分けて、出演メディアを選ぶのではなく、目的達成のためにプラス効果が大きいと思えば、オファーを喜び勇んで受け入れるだろう。ふつうはそうだ。

報道ステーションは視聴率が高いうえ、官邸や自民党本部の圧力によるコメンテーターの入れ替えなどで、かつてのような批判精神が影を潜め、菅氏にとっても与しやすい番組になっている。

今井補佐官や長谷川栄一内閣広報官が何と言おうと、菅官房長官には、首相の足らざるところを自分が補うのだという大義名分がある。

ちなみにその夜のコメンテーターは中央大学法科大学院教授、野村修也弁護士だった。

野村氏は福島第一原発事故の国会事故調委員として報告書をとりまとめたさい、経産省から電力会社への天下りの弊害に鋭く斬り込んでいたと記憶するが、その後、コメンテーターとして、あちこちのテレビ局からお呼びがかかるにつれてカドがとれ、昨今では政府側の立場を説明するだけの人のように見える。

その夜も、コロナ対策やGoToトラベルなどの質問に「国民の命と健康」「社会経済活動」「両立」「国が立ち行かない」などのピースをつなぎ合わせて平板な答えを繰り返す菅氏に、野村氏が助け舟を出した。

野村氏 「日本の行政は縦割りの弊害が危機管理を妨げている。官房長官自身は、これまで洪水対策に使われているダムが3割しかなくて、それ以外の経産省、農水省の管轄のダムが使われていないということに気づいて対策を打った。こういう問題がコロナにもあるのではないですか」

全国1,470カ所のダムのうち、治水目的も含む多目的ダムが570か所あり、これらが国交省管轄だ。他の900か所は水力発電や農業用のダムで、経産省、農水省の管轄である。水力発電や農業用のダムも洪水対策に使えれば…という話を国交省の河川担当の局長から聞いた菅長官は、がぜんハッスルしはじめた。

官邸に、国交省、経産省、農水省の官僚を呼び、既存のダムを活用した省庁横断的な洪水対策を実行するように指示した。今年6月のことだ。

菅長官は「ダムの有効貯水容量のうち水害対策に使うことができる容量をこれまでの約3割から約6割へと倍増することができた」と胸を張った。

まさか事前には知らなかっただろうが、野村氏の問題提起コメントは、渡りに船だったはず。菅官房長官は我が意を得たりの表情で言った。

「省庁の縦割りを打ち壊して一つの方向にもっていくことはきわめて大事です。一例ですが、コロナ対策のマスクは厚労省だけではだめ…製造ラインをつくる補助金を出すのに経産省、地方自治体との関係で総務省、大学病院は文科省…それに環境省も…マスクだけで5つの省庁が入っていたんです」

評判の悪いアベノマスクまで、縦割り行政打破の成果と言わんばかりのノリである。妙な“一例”はともかく、野村氏の助太刀のおかげで、ちゃっかり、ダム活用の話をアピールできたのは、菅氏も納得だろう。

菅氏がこれまで官房長官として評価されてきたとすれば、まずその第一は、安定感だ。キモは言質をとられないこと。記者会見においても、質問のポイントを巧みに外し、都合の悪いことは隠し通す。つねに淡々というより単調で、特定の話題以外には力がこもらない。最近あまり聞かれなくなった言葉だが、「三味線を弾く」のが得意技である。

今井補佐官と不仲で、このところ安倍首相にも冷たくあしらわれているという風評の絶えなかった菅官房長官だが、安倍首相とその側近たちが目の前でふんぞり返る時間も残り少なくなり、浮かぶ瀬が見えてきたところだろうか。

しかし、裏切り、寝返り、梯子外しは政界のツネである。“三味線”で記者会見は乗り切れても、党内世論を味方につけるのは容易ではない。

image by: 菅義偉 - Home | Facebook

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