効率化や時短こそ美徳とされがちな現代にあって、その逆の「手間ひま」の価値が顧客から高く評価されているメーカーが大阪にあります。今回の無料メルマガ『MBAが教える企業分析』でMBAホルダーの青山烈士さんが紹介しているのは、国産ごま取り扱いシェア日本一の「和田萬」。創業130年を超える老舗企業の戦略と戦術を、青山さんがプロの視線で丁寧に分析・解説しています。
手間ひまをかけることの価値
今号は、国産ごま取り扱いシェア日本一の企業を分析します。
● 株式会社和田萬(ごまを主とする食品の製造加工および販売)
ごまを楽しみたい方をターゲットに「歴史や想い、独自の焙煎技術」に支えられた「香りと風味が豊かで旨みたっぷり」「豊富な品揃え」等の強みで差別化しています。
ごまのことは和田萬に聞けば、なんでもわかるという存在であることが安心感を与え、ごまの重要性を丁寧に伝えることで、顧客の支持を得ています。
■分析のポイント
いま世の中では時短ニーズが高まっています。ものを作っている企業も効率化を追求して自動化などが進んでいます。そういった流れの中で、和田萬は手間ひまかけて自家焙煎をしたり、畑でごまを栽培したりしているわけです。
多くの企業が手間ひまをかけないのであれば手間ひまをかけることは差別化につながります。差別化とは、他社と異なる考え方や行動の結果ですからね。
手間ひまをかけることで美味しくなるという効果を見込むことができますが、手間ひまをかけるということはよりコストがかかるということも意味しますので、そのコストを回収できなければ、手間ひまをかけることに魅力を感じないでしょう。ですので、多くの企業が割に合わないと感じてしまうということです。
これは重要なポイントですが、多くの企業がやりたがらないことをやるというのは差別化を考える上で非常に有効です。
そして、和田萬の場合、手間ひまをかけていることをしっかりと伝え、顧客に手間ひまをかけることの価値を認識してもらうことに力を入れています。顧客は価値に対して対価を支払いますので、ここをおろそかにしてしまうと価格競争に巻き込まれてしまい、まさに割に合わなくなってしまうのです。手間ひまは、顧客からは見えにくいものだからこそ伝えることが大切、ということですね。
また、和田萬の手間ひまを厭わない姿勢は素晴らしいですがこの姿勢はごまと向き合い続けてきた歴史が支えていると感じます。歴史に支えられた強みは、強固であり、手間ひまをかけることが差別化につながるということを示した好事例だと思います。
今後、和田萬がどのような存在になっていくのか注目していきたいです。
◆戦略分析
■戦場・競合
- 戦場(顧客視点での自社の事業領域):ごま製品
- 競合(お客様の選択肢):ごまメーカー など
■強み
1.香りと風味が豊かで旨みたっぷり
- 手間ひまかけて作られた有機ごまはおいしい
2.豊富な品揃え
- 店内で食べられるごまアイスなど、様々なごまが味わえる
- 贈り物としても喜んでもらえる
★上記の強みを支えるコア・コンピタンス
- 創業1883年のごま専門メーカー
- 国産ごま取り扱いシェア日本一
- ごまを楽しんでもらいたいという想い
- ごまの中心部まで火を入れる焙煎技術
→他社でやろうとすると焦げてしまうので、真似できない - 4代目・和田悦治さんは、小さなごま粒に40年以上、朝8時から夜9時まで、世界中のだれよりもごまと向き合い焙煎してきました。今も現役であり続けています
- 全国200軒以上の契約栽培の農家さんとのネットワーク
上記のような、歴史や想い、技術、ネットワークが強みを支えています。
■顧客ターゲット
- ごまを楽しみたい方
- ごまにこだわる方
- 健康に関心のある方
- 菓子職人や料理人の方
◆戦術分析
■売り物、売り値
「約100種類の胡麻商品」
いりごま、すりごま、ごまペーストの定番製品以外にも、ふりかけやごま和えのもとなど、豊富にラインナップ
<おすすめ商品>
- 黄金香りごま(140g): 486円(税込み)
和田萬の1番人気商品。世界有数の金ごまの産地トルコ、その中でも選りすぐりの金ごまを、その道40年以上の「焙煎職人」が味や香りを引き出した。 - 金の雫(金ごま油180g) : 1,296円(税込み)
良質の金ごまだけをしぼった香り華やかなごま油。雑誌掲載NO.1商品。 - 国産 金いりごま : 498円(税込み)
自給率わずか0.1%の希少な国産ごまを丁寧に焙煎。
■売り方
- キャッチコピーは「胡麻のことだけ考えて百三十五年」
- ごまの文化を広めるために、ごまの食べ比べ教室や、煎りかた教室などを開催
■売り場
- 大阪市北区の天満地域にある和田萬本社の横に、江戸時代からの蔵を改造した「萬次郎 蔵(まんじろう くら)」という直営店舗を構えている
- 公式Webサイト
※ 売り値や売り物などは調査時の情報です。最新の情報を知りたい場合は、企業HPなどをご確認ください。
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