MAG2 NEWS MENU

山口達也を破滅させた“本当の容疑者”フジテレビと警察の欺瞞を暴く

先日掲載の「三浦春馬を誰が殺したか?“犯人”は今日もビールを旨そうに飲んでいる」では、アルコール依存症と自殺との関係を専門家の目線で解説してくださった、精神科医にして映画監督でもある和田秀樹さん。和田さんは今回、9月22日に逮捕された元TOKIOの山口達也容疑者を巡る報道に関する違和感を記すと同時に、飲酒運転の原因のほとんどがアルコール依存症であることをひた隠すかのようなマスコミや警察の姿勢を厳しく批判。さらに警察が動かない我が国に起きているさまざまな「不幸」を列挙しています。

フジテレビの『とくダネ!』でボツになった話

山口達也さんという元ジャニタレが飲酒運転で捕まったとのことで、『とくダネ!』という番組から早速電話がかかってきた。

翌日の生出演は無理だが、Zoomなら出られるとか、アルコール依存性の可能性が高いからきちんと治療すべきだとかいう話をしたら、夜に、Zoom出演ではなくコメントとして使いたいのでと取材の電話がかかってきた。

結論的にいうとボツになった。

フジテレビとしては、アルコール依存症という診断を受けていないのに、そういう風に決めつけることはできないということと、尺の関係(36分も特集したそうだが)でカットされたそうだ。

古市さんは一応、病気だから治さないと、と言ったそうだから、それでカットされたのかもしれないが、医者に公式見解として出されるのがまずいという判断だったように思えてならない。

確かにレッテル貼りはまずいが、精神医学の世界では厳然とした診断基準がある。

意図したより大量に飲んでしまうとか、社会的な問題が起こっているのに使用を続けるとか、身体的に危険な状態でも使用を反復とか11の項目のうち2つが当てはまればこの診断(正式にはアルコール使用障害)を受けることになる。

2013年のDSM-4-TRまでは3項目だったのが、2013年のDSM-5からは2項目に減らされている。

それだけ早期発見早期治療をしないとどんどん事態が悪化することを慮ってのことだ。おそらく2項目当てはまる人なら、自分がアルコール依存症の軽いものになっているという自覚はないだろう。

しかし、放置していると連続飲酒になって仕事ができなくなったり、自殺のリスク(年間5,000~7,000人のアルコール依存症の人が自殺していると考えられる)、あるいは肝臓を壊したり、さらに悪いことに肝臓を壊しても酒がやめられなくて(私の同級生の勝谷誠彦さんはそういう状態だったということが書かれていた)命を失うことになる。

理解しがたいテレビ番組のダブルスタンダード

アルコール関連死は年間5万人。コロナの死者の40倍である。

コロナでマスクをしない人間や外出自粛をしない人間をコテンパンに叩いておいて、その40倍も人が死ぬ病気について医者が警告しようとしたら、局の都合とやらでボツにするフジテレビの体質が許されるわけがない。

ついでにいうと容疑者の段階で犯人ときめつけておいて、精神科の診断基準を満たしているのに依存症と決めつけるわけにいかないというフジテレビのダブルスタンダードも許せない。

実際、現在の飲酒運転の原因のほとんどがアルコール依存症であることがわかることはテレビ局にとっても、電通(すべての広告代理店)にとっても不都合な真実なのだろう。

少なくとも飲酒運転でつかまる人間は、社会的に大きな制裁を受ける(田舎だと免許がないと暮らしていけない)ことがわかっているし、捕まる可能性があってもお酒をやめられないのだから、少なくともアルコール使用障害の診断基準を2項目は満たす。つまり、その診断を受けることになる。

そして、アルコールというのは依存性が高いものだから、売る方にも責任があるということになる。

実際、WHOが全会一致で採択して、2010年から出しているアルコールの有害な使用を低減するための世界戦略では、アルコールの24時間販売や飲酒シーンのCMをやめるように世界各国に勧告しているわけだが、先進国でこれを丸無視しているのは日本だけだ。

売る方にも規制という話になるとテレビ局の職員の年収1,500万円が確保されなくなる。

今回のインタビューでも制作会社の人と思しき取材者はそのような啓蒙をしたかったようだが、高給取りの社員のプロデューサーが止めたようだ。

自分たちの給料を守るために年間5万人の人が死に、その10倍くらいの人が社会的生命を断たれるのに、WHOの勧告を無視するテレビ局が報じるコロナ対策など守れというほうがチャンチャラおかしい。

テレビの事件報道は「断罪」あるのみ

せめてもの救いはNHKだ。

木曜日の朝だったと思うがニュースを見ていたら、アルコールの専門家が依存症の可能性が高い(本当は診断基準を満たすのだから依存症と言っていいが)ことや、ちゃんと1回目の事件のときに自助グループに入っていたらこんなことにならなかったと論じていた。ビール会社の元社長が会長だった時代にはこのような報道は許されなかっただろう。今の会長は多少健全なようだ。

事件報道は、断罪のためでなく、これからこのような事件が起きないためという観点からいうとこのようなソリューションをセットにしないと意味がない。

自殺報道でも、ちゃんと命の電話などを伝えるべきだ(一部のテレビ局ではそうするようになった)。

私もソリューションを伝えたのにボツにされた。フジテレビはそういう局なのだろう。

「昼間に検問をしない」警察にとって不都合な真実

さて、飲酒運転がアルコール依存症だというのは、警察にとっても不都合な真実である。免許の更新で試験場に行くと、飲酒運転断罪のビデオを見せられたあげく、警察OBの講師が「なんで、こんなことをわかっているのに飲酒運転を続ける人がいるのかわかりません」とほざく。

わかっているのにやめられないのが依存症だ。

でも意志の力でやめられるという話にしておかないと警察としても捕まえにくいし、アルコール飲料の会社にも規制がかかるし、テレビ局は堂々とCMが打てない。

そのためにアルコール依存症の啓蒙が遅れ、それが未治療のまま、肝臓病や自殺で死んでいく人が多いのが日本の現状だ。

警察もテレビ局の社員も人が死ぬことには抵抗がないからこんなことになるのだろう。

アルコール依存症の人たちだって、まずいことはわかっている。

だから、酒を買いに行くことを含め、検問のない昼間を狙う。

私の見るところ警察もそれをわかっているのではないだろうか?

昼間に検問をすると50人に一人はアルコール依存症なので、ひっかけることはできる。でも、それをすると実は飲酒運転が思ったより危険でないことがばれてしまう。

実際、アルコール依存症の人も昼間は検問がないが、事故を起こすと酒臭いと検査を受け、免許を失うからかなり慎重に運転する。私もかつて(30年以上前、茨城の病院に勤めていた頃)は飲酒運転の常習犯だったので、酒を飲んでいるときのほうがスピードも出さないし、なるべく捕まらないように事故を起こさないように、昼間と比べてはるかに大人しい運転をしていたのでよくわかる。

現実にアルコール依存症の人は日本で200万人いると推定されているのに、飲酒事故は年間わずか3,047件(令和元年統計)、いかに飲酒運転が実は安全かを物語っている。金持ちのボンボンがポルシェに乗って飛ばしまくるほうがはるかに危ないが、金持ちや政治家のボンボンを捕まえるのは、あるいは免許を取り上げるのはまずいから積極的に取り締まらないし(首都高をみればわかる。田舎は警察のいじめの対象なので田舎の高速のほうがはるかに覆面が多い)、罰則も重くならない。

かくして地方の食文化(ほとんどが飲酒を伴うため)が潰され、跡地にパチンコ屋が立って定年後の警察の天下り先が守られるという構図が続いている。

このような不都合な真実が知られないためにも、飲酒運転とアルコール依存症を結びつけるのが避けられるのだろう。

警察がひょっとしたら、そのような報道をしたら情報をやらないぞと脅しているのかもしれない。

実際、山口達也さんも、警察が捕まえたからといってまだ有罪と決まったわけではないのに犯人扱いして報道されるのに、アルコール依存症に関しては診断基準を満たしているのに、そのように報じたくないというフジテレビのような局が厳然と存在するのだ。

「警察が働かない国」日本の不幸

警察が働かない国ならではの、不幸は実はいろいろな形で起こっている。

レイプだって3割しか起訴されないし、殺人は1,000件も起訴されていないが、死因不明死体が事件性があるものを含めて1万4,000も出ているのに、ろくに調べていないから、この数字があてになると思えない。たとえば、毒殺事件は4人くらい殺した人間しか捕まっていない、殺人事件の8割から9割が顔見知りということになっているが、これだって捕まえやすい人しか調べていない結果かもしれない。

もちろんストーカーなどの被害にあってもたいがいは人手不足を理由に門前払いか、ろくに捜査をしてくれない。

ところが、今の交通安全週間を見ればわかるが、交通事犯を捕まえるためにはなんでこんなにたくさんという警察官が投入される。

要するに警察は、捜査機関としては最低限の人員しか使わないで、やっているふりをするが、金もうけのための交通違反の取り締まりをするための機関になりさがっている。

「やってる感」が日本を破滅に追い込む

これが今回のコロナ禍に大きな影を落としている。

国の家賃支援給付では予算総額に対して、実際の給付額はわずか6%だという。書類の添付が面倒な上に、ソフトがあまりにわかりにくい。

私などはもう4回も添付資料に不備があると言われて送り直しているのだが、そのたびに不備を指摘される。その上、送り直しの際に以前書いたはずのデータが消されているので膨大な時間がかかる。

金をけちって電通のようなところ(今回のソフトの委託業者はどこかしらないが、役人か政治家が決めたのだろう)だからこんなソフトしか使えないのだろうし、審査のスタッフをけちるからこんなことになるのだろう。

その間に倒産が相次ぎ、8月くらいから自殺が増え始めている。8月は去年の8月と比べて15%程度自殺が増えているのだ。

セロトニンが自粛で減ってからうつ病を発症するまで2、3カ月のタイムラグがあるので、これは想定できることだが、その上に経済状況が悪ければ自殺が増えるのは当然のことだ。

家賃支援にしても持続化給付金にしても、もっと簡素な申請にして、うそを書いて給付金をもらった人間を警察が捕まえて重罰にすれば、いちばん早く困っている人にお金が届くのだが、日本の警察が働く気がないから、役人もそれがわかっているから、こんな面倒な手続きになるのだろう。

政治家(警察になんらかの借りがあるのだろう)も警察の仕事を増やさないように忖度しているとしか思えない。

「コロナ禍での自殺を増やさないために、お金が手に入るのを迅速にするための協力は惜しみません」というような警察庁長官が出ればいいが、財務省から年金財政を楽にするために自殺を増やしてくれという密命を受けているのか、あるいは警察官僚のパーソナリティに問題があるのか、そういう動きは絶対にないと言っていい。

image by: Khafre / CC BY-SA

和田秀樹この著者の記事一覧

高齢者を専門とする精神科医、学派にとらわれない精神療法家、アンチエイジングドクター、そして映画監督として、なるべく幅広い考えをもちたい、良い加減のいい加減男。

有料メルマガ好評配信中

  初月無料お試し登録はこちらから  

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 和田秀樹の「テレビでもラジオでも言えないわたしの本音」 』

【著者】 和田秀樹 【月額】 ¥880/月(税込) 初月無料! 【発行周期】 毎週 土曜日

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け