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なぜベガルタ仙台は破産危機に陥ったか? J1に居続けたことが裏目に

Jリーグは9月28日、2021シーズンのクラブライセンス判定について公表。20億円を超える赤字となり是正措置を通達されたJ1サガン鳥栖のほか、財務面での不安を17のクラブが指摘されました。なかでも、約7億円の赤字を計上し約3億5000万円の債務超過に陥る見通しのベガルタ仙台について何が起きているのか、サッカー情報で人気のメルマガ『J3+ (メルマ)』著者のじじさんが詳しく解説。残留だけでは満足させられないと、タイトルを目指したことが裏目に出たと分析しています。

ベガルタ仙台の経営危機について

J1もJ2もJ3も折り返し地点を迎えている。J1は数試合が新型コロナの影響で延期になっており、J3は雷雨の影響で2試合が延期になっているが、J2は新型コロナの影響で延期になった大宮 vs 福岡が9月16日(水)に消化されたので全22チームが21試合を消化している。「50%という消化試合数を満たせずにリーグ戦が不成立になる」という最悪の事態はJ1もJ2もJ3も免れるのは確実となった。次の目標は75%という数字になる。とにもかくにも「50%という数字」と「75%という数字」を早い段階でクリアしたい。

ここに来て阪神タイガースでクラスターが発生したがプロ野球も試合は順調に消化されている。Jリーグは手拍子での応援が解禁になって「5,000人まで」という観客動員数の制限も撤廃されたが、10月に入るとアウェイサポーターの来場も認められるようになるだろう。徐々に「元の状態」に近づきつつあるが経営的に苦しいチームは少なくない。2019年に20億円以上の赤字を出した鳥栖がJリーグの56クラブの中では最も危ういチームだと思うが、2019年に2億数千万円の赤字を出した仙台も危うい状況になっているようだ。

「2020年の赤字額は7億円になる見通し」とも報じられたがコロナ後のホーム戦の平均観客動員数は2,607人となる。昨シーズンの平均は14,971人なので17.4%になる。MAXがG大阪戦の2,871人で、MINは大分戦の2,191人なので、「チケットの販売枚数をかなり制限している」と考えられるが2,607人というのは相当に厳しい数字である。今シーズンはここまで2勝10敗5分けで17位と低迷しているがホームのユアテックスタジアムではまだ未勝利。ホームで全く結果を出せていないので客足が伸びないのも当然である。

開幕前の期待値は高かった。GKヤクブ・スウォビィクとDFシマオ・マテの引き止めに成功した上でFW赤崎、FWアレクサンドレ・ゲデス、MFクエンカ、MF吉野恭、DFパラなどを獲得した。DF永戸こそ流出してしまったが充実した補強が出来た。特に期待が集まったのはサイドアタッカーのMFクエンカだったが開幕前に怪我をして長期離脱となった。順調に回復しており、そろそろ戦列に復帰すると思われるが「攻撃の中心となることが期待された選手」がほぼ半分の試合で使えなかったのは大きなマイナスである。

「無謀なチャレンジ」だったのか…

仙台にとって2020年は「勝負の1年」だった。渡邉晋監督が退任して木山監督を招聘したが、2019年にかなりの額の赤字が出たことを把握した上で大型補強に乗り出している。安定志向ではなくてリスク覚悟でお金をかけて好成績を残すことで観客動員を増やしたり、カップ戦などの賞金獲得を目指したと思うが、目論見どおりには話は進まなかった。ルヴァン杯はGL敗退、天皇杯はJ1のリーグ戦で2位以内に入らないといけないので出場することすら難しい。先のとおり、コロナと成績不振が原因で観客動員数は激減している。

「結果を出さないと大変なことになることは覚悟した上でギャンブル的な動きを見せた」と言えるがうまくいかなかった。「ギャンブル的な動きをせざる得ないほど追い込まれていた」とも言えるがJリーグのリーグ戦で思い通りの結果を残せるクラブは少数である。新型コロナが無くて、かつ、リーグ戦で3位以内に入ったり、天皇杯やルヴァン杯などでタイトルを獲得できたら一気に状況は好転したと思うが、昨シーズンまでの成績や開幕時点での自チームの戦力値などを加味すると「危険な賭けだった」と言わざる得ない。

開幕前にもFW山田寛とDF柳を期限付き移籍で獲得しているので「怪我人が続出したフォワード陣や新戦力のDFパラがフィットしきれずに不安を抱えていた左SBの手当て」は迅速だったが積極的に動いたことも経営をさらに悪化させたと考えられる。毎年、安定志向のクラブ運営を続けていたらクラブは停滞するので「数年に一度、勝負に出る」というのは必要なことだと思うが、「結果が出なかったとしても何とかなる」という状況でないと「無謀なチャレンジ」とみなされてしまう。「リスキーだった」と言われても仕方がない。

14節のG大阪戦(H)から6連敗と苦しんでいる。例年であれば残留争いに巻き込まれている成績なので木山監督の解任論を唱える人は増えてきたが「上位争いに参加すること」も「タイトルを獲得すること」もほぼ無理である。「どういう契約になっているのか?」は分からないが違約金が発生する可能性もあることを考えると解任という決断を下すのは難しい。昨オフにJ2の山形から引き抜いた監督なので「仙台と1年契約を結んでいる」というのは考えにくい。「少なくとも2年契約を結んでいるのではないか?」と思われる。

相対的な地位は低くなってしまう

残り試合では若手をたくさん起用して1つでも多くの収穫を手にしたいが「経営的に苦しいことが明らかになったクラブ」はオフの移籍市場で草刈り場になる可能性は高い。今オフは鳥栖も厳しいオフになると思うがたくさんのクラブがハイエナのように所属選手に群がってくる可能性は高い。来シーズンもJ1で戦うことは確定しているが「J2降格の有力候補の1つという立ち位置のクラブでプレーしたい」という選手は普通に考えると少ない。「激動のオフになる可能性は極めて高い」と言わざる得ない状況になっている。

経営陣を批判する声は少なくないがクラブ規模がJ1再昇格を果たした2010年と比較してあまり変わっていないのは大きな問題である。よく知られているとおり、DAZN効果もあってJリーグは急成長しており、神戸あたりは異次元の収益を得るようになったが仙台の成長度合いは極めて緩やかである。ずっとJ1に定着しており、流れに乗って右肩上がりで成長を続けることは決して難しいことではなかったと思うがあまり変わらない。周りのクラブがこれだけ成長しているので当然のことながら相対的な地位は低くなってしまう。

「J1でも最低クラスの資金力でありながらずっとJ1残留を果たしている」と評価することもできるがサポーターは慣れてくるので、しばらくの間、J2降格を経験していないクラブのサポーターはJ1残留だけでは満足できなくなる。広島であったり、柏であったり、C大阪であったり、湘南であったり、定期的にJ2に落ちているクラブのサポーターは「J2の大変さ」を理解しているので『とりあえずとしてJ2に落ちなかったこと』を評価するサポーターも出てくるが、仙台が最後にJ2に降格したのは2003年の話である。かなり昔の話になる。

「J1に居続けたこと」が逆に状況を難しくしている気もするがJ2に降格してなかなか再昇格できない千葉や京都や東京Vなどの現状を考えると「J1に居続けたこと」で失わずに済んだもの多かったはずである。仙台という地方都市の中では規模の大きい街で活動しているクラブなので「そのアドバンテージをうまくいかせていない点」は残念に思うが、クラブとしての分岐点を迎えている。クラブとして極めて難しい状況になっているが選手や監督やコーチが出来るのは「目の前の試合で全力を尽くして勝利を目指すことのみ」である。

image by: WAKA77 / Public domain

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