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女帝メルケルのドイツですら。「女性優遇は非生産的」論文が炎上した訳

ドイツの化学誌に掲載された「女性優遇は非生産的」なる論考に批判が殺到し、記事はその後削除、同誌の諮問委員が相次いで辞任するなど大きな波紋が広がっています。この件に関して、「古い価値観の根深さを物語るものなのかもしれない」とするのは、健康社会学者の河合薫さん。河合さんは自身のメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』で、科学の世界ではこれまでも「女性」が「女性」というだけで能力が評価されてこなかった事実の存在を明らかにするとともに、女性問題で世界的に後れを取っている日本に対しても警告を発しています。

プロフィール:河合薫(かわい・かおる)
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。

あの「メルケルさん」の国で起きたこと

「研究の世界 女性優遇は非生産的」という、いかにも即炎上しそうなタイトルの記事が朝日新聞の28日付朝刊で報じられました。

記事によれば、ドイツの有力科学ジャーナル『アンゲバンデ・ケミー』に、「特定のグループ(=主に女性)を平等に扱うように勧めたり、義務付けたりする登用制度が台頭し、強制されることは、最も有能な候補者を逆差別することになるのであれば、非生産的だ」といった趣旨の論考が掲載されたそうです。

で、想像どおり件の論考は公開直後から炎上し、同誌の諮問委員が相次いで辞任する事態になってしまったとか。

実は、ドイツは日本同様、性役割を重んじる価値観が根強く、クオータ制導入にも一貫して反対の立場を取ってきました。

ところが、4年前の2016年1月。大手企業の100社を対象に、「監査役会の女性を3割以上にする。女性候補者がいない場合は空席とする」という、“フレキシブルクオータ制”を導入したところ、ほぼすべての会社が目標を達成したのです。

なんといってもメルケルさんがトップを務める国。「クオーター制をやります!」と号令がかかれば、対応できるだけの土壌はできあがっていたのです。

そもそもドイツでは、労働時間を徹底的に管理することで、「男性も仕事ばっかりしないで、さっさと家に帰って家事育児をしなさい!」と、ケア労働を重視してきました。

「1日10時間以上働くこと」を原則として禁止。抜き打ちの監査が入るほど厳重に徹底され、残業超過が発覚した場合には、雇用者(もしくは管理職)に最高1万5,000ユーロ(約180万円)の過料もしくは1年以下の懲役という罰則が課せられます。

有給休暇も年間で最低24日間と定め、100%近い消化率。さらに、残業した分は「労働時間口座」に貯蓄し、後日休暇などで相殺し、「自分時間」に転換することもできます。

いずれにせよ、今回の出来事は「古い価値観」の根深さを物語るものなのかもしれません。

一方、科学の世界では「女性」が「女性」というだけで、能力を評価されてこなかったというエビデンスが数多く存在します。

特に世界的に注目を集めたのは、、1997年にスウェーデンの医学者、WennerasとWoldによって書かれた論文です(C.Wenneras & A.Wold; “Nepotismand Sexism in Peer-Review”, Nature, 1997.)。

WennerasとWoldは、「スウェーデン医学研究評議会による研究費補助金の審査過程で男性は『男』というだけで高く評価され、女性は『女』というだけで低く評価されていた」という事実を、統計的な分析から明らかにしました。

さらに、審査員となんらかのコネがあることも、審査の評価に影響していたのです。

性差別と縁故主義……。学問に、“王道”が存在していたのです。

Wennerasらによれば、コネを持たない女性が科学業績だけで“ガラスの天井”を破るには、最高ランクの雑誌に男性より20本ほど多くの論文を発表する必要があると推計。それは不可能に近いことを、意味しています。

なんせ、程度の差はあれ、査読付きのジャーナルに投稿して掲載されるまでには、最低でも3カ月、1年近くかかるわけで。男性より20本も多くの論文を発表するなんて、よほどの体力と頭脳と根性の持ち主じゃない限り無理。というか…それでも無理。不可能です。

そこで、スウェーデン医学研究評議会はその翌年から、女性の審査員を増やし、審査過程の透明性を高めました。

ですから、話を戻すと、今回の論考も、その論考を掲載したことも、非難されてしかるべき。とかく女性問題では世界的に遅れをとっている日本は、「アンゲバンテ・テミー」が踏んだ地雷を踏まないよう気をつけなくてはなりません。

みなさんの意見もお聞かせください。

【関連】なぜ私の生き方を縛るのか?性差別を再生産する女性向けサイトの問題点

image by: Shutterstock.com

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米国育ち、ANA国際線CA、「ニュースステーション」初代気象予報士、その後一念発起し、東大大学院に進学し博士号を取得(健康社会学者 Ph.D)という異色のキャリアを重ねたから書ける“とっておきの情報”をアナタだけにお教えします。
「自信はあるが、外からはどう見られているのか?」「自分の価値を上げたい」「心も体もコントロールしたい」「自己分析したい」「ニューストッピクスに反応できるスキルが欲しい」「とにかくモテたい」という方の参考になればと考えています。

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