さまざまな国際法違反や国際公約を破り続けてきた中国が、ここに来て突如「国連中心主義」を持ち出し、これまでもルールを遵守してきたと強調し始めています。その真意はどこにあるのでしょうか。今回のメルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』では台湾出身の評論家・黄文雄さんが、考えうる2つの理由を挙げそれぞれについて解説。やはり中国の国連称揚には、日本が大いに警戒すべき「裏の動機」がありました。
※本記事は有料メルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』2020年9月30日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:黄文雄(こう・ぶんゆう)
1938年、台湾生まれ。1964年来日。早稲田大学商学部卒業、明治大学大学院修士課程修了。『中国の没落』(台湾・前衛出版社)が大反響を呼び、評論家活動へ。著書に17万部のベストセラーとなった『日本人はなぜ中国人、韓国人とこれほどまで違うのか』(徳間書店)など多数。
【中国】対米戦略に国連中心主義を持ち出した中国の欺瞞
本日9月30日、アメリカ大統領選挙を前に、初めての大統領候補者によるディベートが行われました。
今回の大統領選挙では中国問題をどのように扱うかも一つの争点にもなっていますが、9月29日の人民日報はこのディベートを前に「中国問題をディベート・ショーのために悪用するな」と、くぎを刺すような解説を掲載しています。
この論説では「アメリカ大統領選挙はアメリカの内政問題であり、中国には関心がない。同様に中国は独立国家として、独自の主権や安全保障、発展の利益を守る権利がある」ため、「アメリカの政治家はアメリカの内政に中国問題を持ち込むのはやめるべきだ」と要求しています。
中国の貿易問題のみならず、人権問題や台湾問題について、アメリカは口を出すなとけん制した形ですが、その一方で中国が力を入れているのが「国連称揚」です。
人民日報のネット版「人民網」では、わざわざ「国連創設75周年」というページを立ち上げて、国連主義を強調しています。これは日本語版でも見ることができます。
ここでは習近平国家主席が国連のグテーレス事務総長と行ったテレビ会談で表明した、次のような言葉が紹介されています。
現在もなお新型コロナウイルス感染症が世界中で拡大しており、世界の新型コロナ対策の手を緩めるわけにはいかない。中国は経験や手法を余すところなく各国と分かち合い、必要とする国々を引き続き支援していきたい。中国は国連機関、特に世界保健機関(WHO)が肝要なリーダーシップを発揮することを断固として支持し、国際協力と共同対策を強化し、人類衛生健康共同体を共に構築していく。
世界には一つの体制しかない。つまり国連を中心とする国際体制だ。世界には一つのルールしかない。つまり国連憲章を基礎とする国際関係の基本準則だ。中国はこれまでイデオロギーによる対立をしたことも、デカップリングを主張したことも、覇権を唱えようとしたこともない。
(出典:人民網ホームページ「国連創設75周年」)
WHOが中国の意向に沿って、台湾を新型コロナウイルスへの国際協調の輪から外したことは、もはや言うまでもありません。アメリカはWHOからの脱退を決定しましたし、台湾も新たな国際機関が作られるなら、そこへ参加したいという意向を表明しています。
中国は「国連憲章が世界のたった一つのルールだ」と言い、中国はルールを遵守してきたと強調しますが、国際ルールを守らないというのが中国であり、WTO違反や国際法違反を繰り返しています。アメリカが中国に要求しているのも、西側の資本主義経済の仲間入りをする際に約束した、経済の自由化という国際公約を守れということです。
また、香港にしても、イギリスとの「一国二制度の50年遵守」という国際公約を、いとも簡単に破ったわけで、都合の悪いことに頬かむりをするのも、中国のいつもの手です。
そもそも現在の中国は国連憲章に署名したわけではありません。国連憲章が署名されたのは1945年6月26日にサンフランシスコにおいて調印されました。
いうまでもなく、当時、中華人民共和国はまだ影も形もありませんでした。中華人民共和国の建国は1949年です。
つまり、この国連憲章に署名したのは中華民国です。しかし現在の中国は、「中国こそが最初に署名した国のひとつ」だという嘘を垂れ流しています。
9月21日の人民網では「中国が映し出す国連憲章の精神」という題名の記事で、「国連創設から今年で75年になる。1945年6月26日、50か国の代表が米サンフランシスコに集い、重要な文書である『国連憲章』に署名した。中国は最初に署名した国の一つだ。それから75年間、国連安保理常任理事国として中国は約束を誠実に守り、終始一貫して国連憲章の趣旨と原則を厳守しただけでなく、国連の発展のために際立った貢献を果たしてきた」などとしれっと記述しました。
これは「日中戦争に勝利した中国共産党」というプロパガンダと同様のデマです。
中華民国は1971年のアルバニア決議において、中華人民共和国のロビー活動の結果、国連安保理常任理事国の座を失いました。この決議では「蒋介石の代表を国連とすべての関連組織から追放する」とされており、これに怒った蒋介石は中華民国の国連からの脱退を決定したわけです。
このとき日本は佐藤栄作内閣でしたが、中国の国連加盟には賛成するものの、中華民国の追放には反対し、「二重代表制決議案」および「追放反対重要問題決議案」の共同提案国に連名しましたが、結果は否決、アルバニア決議が採択されたのです。
しかし、現在も国連憲章には中華民国が国連安保理常任理事国であるままです。ですから、中国は台湾の国連や関連機関のWHOへの参加を妨害するわけです。しかし国連憲章を忠実に守るならば、中華民国が常任理事国だということになります。
中国が国連中心主義を持ち出すのは、もう一つの理由があります。それは敵国条項があることです。国連憲章の第53条、第77条1項b、第107条には、第二次世界大戦での枢軸国を敵国と規定する「敵国条項」が現存します。
● 国連憲章テキスト
そこでは、もしも第二次世界大戦における敵国が、戦争の結果としての確定事項に反したり、この敵国が再び侵略行為を行ったとみなされた場合には、軍事的制裁を行うことができるとされています。
つまり、日本が中国の軍事的脅威に対して何らかの対抗措置を行った場合、中国は「日本が新たな侵略を始めた」と難癖をつけて、日本を攻撃することも可能だということです。
だから中国および親中派は、日本の再軍備や憲法改正について「軍靴の音が聞こえる」などと言って、侵略行為が再び始まると強調するわけです。
そうなれば「日本が中国から爆弾を落とされても仕方がない」ということになります。日本の親中派や左翼が中国の軍事膨張や軍事的冒険主義を批判しないのはそのためです。むしろ「日本が再び侵略を狙っている」というイメージを植え付けて、中国の軍拡や核保有を正当化しているのです。
日本にも国連至上主義を唱える政治家や論客がいますが、少なくとも国連憲章から敵国条項がなくならなければ、日本の国連至上主義は自らで自らの手を縛ることにもなりかねません。当然、世界第3位の経済大国である日本は常任理事国になる資格が十分にあります。
もっとも中国はアフリカや途上国を、経済支援という名の「債務の罠」によって自分の支配下に置き、国連において自国に都合のいいように操っています。そのような国連に対して、アメリカも距離を置きつつあります。
日本は中国の「国連中心主義」に警戒すべきであり、安易に賛同したり歩調を合わせるべきではありません。中国の真意を見抜き、戦略的に動くべきなのです。
ところで、日本のマスメディアは、アメリカの大統領選挙について、アメリカ国内の世論調査もふまえて民主党のバイデン有利と伝えていますが、ワシントンDC在住の私の友人は、トランプはほぼ安全圏にいるといいます。
台湾にとって、共和党のトランプと民主党のバイデンでは、かなり政策が異なってくると思われます。だからアメリカ大統領選挙への関心は、日本とは比べものにならないほどに高いのです。
今年は、台湾が国際社会の一員となれるかどうかの正念場だと思います。先進各国から国家として承認されるかどうか、そして日本の国会でも、せめて「中国に台湾への武力行使(侵略行為)放棄を求める決議」といった決議案が提出され、通過してほしいと願っています。
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image by: Harold Escalona / Shutterstock.com
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2020年9月配信分
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