MAG2 NEWS MENU

アパレル業界の死?Amazonのプライベートブランド服が世界を席巻する日

コロナ禍によって加速した、製造と小売を一体化したファストファッションの衰退と百貨店アパレルの崩壊。このぽっかりと空いた市場は、どこが穴埋めをしていくことになるのでしょうか? メルマガ『j-fashion journal』著者でファッションビジネルコンサルタントの坂口昌章さんは、そんな隙間を埋めるのが米EC大手Amazonの「アパレルPB(プライベートブランド)」ではないかとして、その展望を予測しています。

これからのファッション業界はアマゾン「PBアパレル」が台頭する可能性

1.日本のアパレル市場が大変革

現在、我々の眼前には、店舗流通からネット流通への巨大な流れが見えている。

ファストファッションが衰退し、グローバルSPAもコロナ禍で大減速。百貨店と百貨店アパレルも崩壊を始めている。

つまり、世界、日本のアパレル市場には大きな隙間が生まれているということだ。その隙間を埋めるべく動いているのが、アマゾンである。

米国『Digital Commerce 360』発行の「北米EC事業トップ1000社データベーストップ1000 2020年版」によると、第1位のAmazonは現在、111のプライベートブランドから、2万2,617点の商品を展開しているという。これは、2018年6月と比較すると3倍以上の商品数にあたる。

アパレル、アクセサリー、靴類は、Amazonブランドの商品の54%にあたる1万2,222点を占めている。

アマゾンのPB戦略は、派手な広告をすることもなく、密かに成長している。

最早、マスメディアを動員してプロモーションする必要はない。最も効果的なプロモーションは、アマゾン広告であり、それを自由にコントロールできるからだ。

また、アマゾンはイメージを取るより、実を取る戦略を取っている。ブランドというより単品訴求であり、気がついたらPB比率が高まり、利益率が高まるというのが理想だろう。

2. AI活用のMDモデル

現在、アパレル業界ではAI活用が期待されている。しかし、そもそも日本のアパレル企業の企画手法は、トレンド情報分析が基本であり、統計を重視していない。トレンド情報分析をAIに委ねるのはかなり困難だろう。

店舗販売では、品番ごとの売上のバラツキが少ない。各10枚ずつ、棚に積んであれば、0枚~10枚のバランスが把握できる。しかし、各1枚しか陳列されていなければ、0枚か1枚しか把握できない。

通販であれば、在庫に関係なく、受注が入る。しかも、時系列的な変化も把握できる。店舗販売より、通信販売の方が統計からの判断がしやすいのだ。

しかも、アマゾンであれば、地域ごとの変化も把握できるし、広告の出し方によって需要を判断することができる。

たとえば、二種類のスカート丈の画像をAグループとBグループの顧客に提示することによって、どちらが売れるかを判断できる。

テストマーケティング、アンケート調査等、様々なデータ収集が可能であり、その結果をAIで分析することができる。

AIを活用するなら、AIを活用しやすい需要予測の手法が必要なのだ。

そういう意味では、アマゾンのPBは最も統計処理的、最もAIが活用しやすい事例になるだろう。事例研究としても、アマゾンのPBはとても興味深い。

3.コンプライアンスとエシカル

アマゾンは米国企業であり、米国のファッション観を持っている。米国にとって、アパレル製品は工業製品の一部であり、大量生産する商品である。欧州のように、一部の富裕層のための手工業的ファッション観ではない。

従って、アマゾンPBも付加価値の高い個性的なファッションではなく、ベーシックでリーズナブル価格の商品になるだろう。

商品企画といっても、商品のデザインやパターンよりも、どこでテキスタイルを調達し、どこで縫製を行うか。そのコストパフォーマンスを厳しくチェックすることになる。

また、米国では、日本以上にコンプライアンスが重視される。環境や人権に配慮しているという第三者認証を求めるはずだ。

更には、法律に定められたことでなくても、倫理的な活動を行うというエシカルな動きも顕著になっている。

LGBTに対する配慮、身体障害者の雇用、フェアトレード等を考えたモノ作りが求められるはずだ。

日本企業は商品の品質やデザイン、コストといったモノに対する意識が高いが、意外に社会的な配慮が掛けている場合が多い。しかし、社会的意識、社会的配慮を高めることこそが、事業企画であり、商品企画なのだ。

アマゾンPBがエシカルを強く押し出し、消費者が支持すれば、日本市場に対応している日本企業も社会的配慮が求められるだろう。

4.更なるアパレル市場の二極化

これまでは、店舗販売を中心としたグローバルマーケティングだったが、アフターコロナは、店舗販売からネット販売への流れが加速するだろう。

ネット販売の巨人はアマゾンであり、アマゾンを中心にアパレルビジネスが回るようになるのではないか。

しかし、日本のアパレル企業が淘汰され、その穴を全てアマゾンが埋めるとも考えづら
い。

アパレルとは工業製品ではなく、もっと個人的なものであり、自分の個性を表現するものという考え方もある。そうなると、セルフソーイングの流れが出てくるかもしれない。

あるいは、オーダーする段階で、様々なオプションが選べる服。生地を選び、ボタン、ポケットなどを自由に選んで、オリジナルの服が作れる。そんなサービスも生れるだろう。

デザイナーも服を作るだけではなく、服を着こなすプロとして、インフルエンサーになっていくのではないか。

自分で作り、同時にバイヤーとして、服を仕入れ、それらをコーディネートして、自分がモデルとなってファッション情報を発信する。専門の技術を磨くよりも、多面的に才能やセンスを発揮するデザイナーが求められるようになるだろう。

社会的なファッションと個人的なファッション。この二つの流れがより鮮明になっていくと思う。

編集後記「締めの都々逸」

「世界を動かす アマゾンよりも あたしゃ 自作の服を着る」

社会的な服と個人的な服に二極化する。どちらも企業の利益のためではないということですね。

アフターコロナは企業のために働くよりも、社会のためにはたらく。あるいは、個人のために働くことになるのではないでしょうか。

そもそも、企業って何のために存在しているのでしょうか。それは、個人ではビジネスができない時代の装置だったように思います。

企業は個人を幸せにしません。でも、社会のための企業、個人のための企業なら幸せになれるかも。

いずれにしても、他人に支配されるのは嫌ですよね。支配される安心感もありますが、僕は嫌だなぁ、と思います。(坂口昌章)

image by: Hadrian / Shutterstock.com

坂口昌章(シナジープランニング代表)この著者の記事一覧

グローバルなファッションビジネスを目指す人のためのメルマガです。繊維ファッション業界が抱えている問題点に正面からズバッと切り込みます。

有料メルマガ好評配信中

  初月無料で読んでみる  

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 j-fashion journal 』

【著者】 坂口昌章(シナジープランニング代表) 【月額】 ¥550/月(税込) 初月無料! 【発行周期】 毎週 月曜日 発行予定

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け