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誰の指令か?「学術会議は諸悪の根源」というデマを流布する人間の正体

菅首相による日本学術会議の任命拒否問題が発覚し世論の反発が高まるや、突如として展開され始めた、議員や識者による同会議に対する批判。しかしそのどれもがデマや印象操作の類であり、誤った情報が拡散される原因となってしまいました。この流れについて疑問の目を向けるのは、人気ブロガーのきっこさん。きっこさんは今回のメルマガ『きっこのメルマガ』で、改めてデマや印象操作を検証しつつ、その「一斉射撃」がなされた時期から立てたある一つの仮説を提示しています。

デマによって延命を図る政権

10月17、18両日に実施された全国世論調査では、どの媒体の調査でも、菅内閣の支持率が10ポイント前後も大幅に下落しました。スタート時が「御祝儀相場」だったことを差し引いても、まだ所信表明演説も行なっていないのに、まだ国会も開催されていないのに、わずか1カ月で10ポイント前後も下落するなんて、これは異例中の異例です。

あたしの場合は、新しい首相が所信表明演説を行なう前に外遊へ行くという国民軽視の姿勢にも呆れていますが、今回の内閣支持率の大幅下落は、日本学術会議に対する菅義偉首相の任命拒否問題が主な原因です。今回の全国世論調査では、この問題に関する菅首相の説明について「十分だ」との回答が10%台にとどまった一方で、「不十分だ」との回答は70%を超えました。

そりゃそうでしょう。菅首相も加藤勝信官房長官も「総合的、俯瞰的に判断して」という意味不明の呪文を九官鳥のように繰り返すだけで、具体的な拒否理由をいっさい述べないのですから。逆に、これで「十分だ」と回答している人が10%以上もいることが、あたしは、総合的にも俯瞰的にもまったく理解できません。きっと妄信的な自民党信者なのだと思いますが、あの説明を「十分だ」と言うのは、あまりにも無理がありすぎます。

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しかし、今回の問題は、これだけでは終わりませんでした。口が裂けても「警察から上って来た情報を基に政権に批判的な6名を任命拒否した」とは言えない菅首相は、日本学術会議そのものを悪者にするという論点のすり替えを始めたのです。そもそも、憲法で保障された「学問の自由」に、時の首相が政治介入したということが問題視されているのに、日本学術会議を悪者にすることで「日本学術会議は問題のある組織なので任命拒否しても構わない」という方向へ持って行こうとするなんて、国民をバカにしすぎです。

百歩ゆずって、仮に日本学術会議に何か問題があったとしても、それと「任命拒否」とは全く別次元の問題です。しかし、菅内閣と自民党応援団の面々は、こともあろうに、日本学術会議を悪者に仕立て上げるために次から次へと悪質なデマを垂れ流し始めたのです。

その先陣を切ったのは、フジテレビの上席解説委員、御用コメンテーターとしてお馴染みの平井文夫でした。平井文夫は10月5日のフジテレビ『バイキング』で、日本学術会議の会員について「この人たち6年ここで働いたら、そのあと学士院というところに行って年間250万円の年金がもらえるんですよ。死ぬまで。みなさんの税金から」などと事実無根のデマを流したのです。番組では翌日の放送で男性アナウンサーが訂正しましたが、このデマは自民党応援団の皆さんによって、あたかも事実であるかのようにネット上に拡散されてしまいました。

そして、翌6日になると、今度は「お騒がせおじさん」こと橋下徹が、自身のツイッターで「学者がよく口にするアメリカとイギリス。両国の学者団体には税金は投入されていないようだ。学問の自由や独立を叫ぶ前に、まずは金の面で自立しろ。」などと投稿して、日本学術会議への年間10億円の予算を批判しました。しかし、これも完全なデマです。アメリカでは科学者団体「全米科学アカデミー」に年間240億円以上の公的資金が投入されていますし、イギリスでも同様の団体「王立協会」に年間65億円以上の公的資金が投入されています。

日本学術会議自体も、2000年から2002年に掛けて各国43のアカデミー(学術会議)を調査して「各国アカデミー等調査報告書」をまとめていますが、この調査によると、43すべてのアカデミーに公的資金が投入されていることが分かります。それなのに、デマまで流してわずか10億円の予算を批判した橋下徹。

結局、橋下徹は6日後の12日になって「これは説明不足だった。アメリカやイギリスでは、日本のように税金で学者団体を丸抱えすることはないが、学者団体に仕事を発注して税金を投入する」などと釈明のツイートをしました。しかし、このデマも平井文夫のデマと同様に、自民党応援団の皆さんによって、あたかも事実であるかのように拡散されました。デマ認定されてもすぐには修正せず、6日間も放置して、十分に拡散されてからコッソリと釈明する。目的は「日本学術会議の評判を悪くすること」なので、とても効果的な手口と言えるでしょう。

そして、この橋下徹と同じ6日に、日本学術会議に関するデマを流したもう1人の人物が、自民党の「口利き賄賂おじさん」こと甘利明でした。甘利明は6日付の自身のブログ「国会リポート第410号」の中で、「日本学術会議は防衛省予算を使った研究開発には参加を禁じていますが、中国の『外国人研究者ヘッドハンティングプラン』である『千人計画』には積極的に協力しています」「軍事研究には与しないという学術会議の方針は一国二制度なんでしょうか」などと述べました。

もちろん、こんな事実はありませんが、仮にも現職の閣僚経験者の発言ですから、これには自民党応援団の皆さんだけでなく、反中のネトウヨの皆さんも飛びつきました。そして「日本学術会議は中国政府に軍事協力している反日組織だ」という事実無根の誹謗中傷が、甘利明のブログをソースとして大拡散されてしまったのです。

さすがに、このデマにはマトモな人たちからの批判が相次ぎ、日本学術会議の大西隆・元会長も「日本学術会議は中国の千人計画とはまったく関係ない」と明言した上で、甘利明のブログの内容を「悪質なデマ」と断じました。すると甘利明は、ブログの「積極的に協力しています」という部分をコッソリと「間接的に協力しているように映ります」と書き換えたのです。自分がデマを流したのですから、きちんと謝罪して訂正するのが筋なのに、さすがは4年前の「口利き賄賂疑惑」の説明責任も果たしていない無責任おじさんですね。

そして、この姑息な「コッソリと修正」にも批判が集まると、今度は「『積極的に協力』と云う表現が適切でないとしたら『間接的に協力していることになりはしないか』と改めさせて頂きます。」などとアジのひらき直りを炸裂させたのです。大西隆・元会長は「(デマは)訂正されたが、そのまま受け取った方もいるようだ」と述べて、影響力の大きい現職の与党議員による悪質なデマの流布が野放しにされている現状を危惧しました。

しかし、甘利明に続いて日本学術会議を攻撃したのも、甘利明と同じ自民党の閣僚経験者である「違法献金おじさん」こと下村博文でした。自民党の政調会長、下村博文は、甘利明のデマの翌7日、日本学術会議について「政府に対する答申は2007年以降出されていない」などと述べて、日本学術会議が13年間も仕事をしていないという印象操作を行なったのです。

物事は「聞かれた」から「答える」わけで、「諮問(しもん)」があっての「答申」です。日本学術会議は、政府から「これこれこういう問題があるが、どう考えるか」という「諮問」を受けて、初めてその問題を議論し、まとめた「答申」を政府に提出するのです。13年間も「答申」がないという下村博文の指摘は、政府が13年間も「諮問」をして来なかったというブーメランなのです。それでも、現職の閣僚経験者がこうした発言をすれば、多くの人は日本学術会議に対して「何も仕事をしていない無駄な組織」という印象を持ちますよね。

誤解している人がいると困るので補足しておきますが、日本学術会議はとても多くの仕事をしています。日本学術会議が専門的な立場から意見を表明する方法は「答申」「回答」「勧告」「要望」「声明」「提言」「報告」の7種類がありますが、「答申」が政府からの「諮問」を受けての対応であるように、「回答」は省庁からの審議依頼を受けての対応です。そのため、この2つに関しては、政府側、省庁側の問題になります。

一方、他の5つは、日本学術会議側から自発的に意見を表明するものですが、このうち最も数多く出されているのが「提言」です。下村博文は「政府に対する答申は2007年以降出されていない」と述べましたが、2007年以降これまでに、日本学術会議は自発的な「提言」を321件も政府に提出して来ました。今年は過去10年で最も多く、先月9月末までに68件もの「提言」が提出されています。

今年の「提言」を見てみると、科学技術に関する専門的なものから、あたしたちの日常生活に直結したものまで、とても幅広く扱われていました。一例を挙げると、子どもや妊婦さんの受動喫煙対策の充実を求める提言や、LGBTの人たちが差別されずに同じ公的サービスを受けられるようにするための法整備を求める提言など、専門的な立場から述べられています。

また、1年半前の2019年5月には、いつ発生するか分からない感染症のパンデミックを想定して、ウイルスなどの微生物や病原体に関する専門教育の充実を提言していました。当時の安倍政権は、この提言をスルーしましたが、もしもこの提言を聞き入れてきちんと対応していたら、現在の新型コロナ禍の状況も少しは違っていたかもしれません。

さて、話を日本学術会議に対する悪質なデマに戻しますが、他にも「レジ袋の有料化を提言したのは日本学術会議だ」などというデマも垂れ流されています。実際に原典に当たってみると、日本学術会議の提言は「地球環境を守るためにプラスチックゴミはできるだけ減らす必要がある」というものでした。この提言を受けて「それならレジ袋を有料化したらどうか」と言い出したのは政府与党です。

ちなみに、日本のプラスチックゴミにおけるレジ袋の割合はわずか1.7%なので、日本中からレジ袋がすべて消えたとしても、プラスチックゴミの総量はほとんど変わりません。ま、それはそれとして、今回のことであたしが何よりも注目したのは、これらの日本学術会議に対するデマや印象操作が行なわれたのが「ほぼ同時」だという点です。

フジテレビの平井文夫がデマを流したのが10月5日、橋下徹と甘利明がデマを流したのが翌6日、下村博文が印象操作を狙った発言をしたのが翌7日、こうした事実を時系列で見てみると、まるでどこからか号令が掛かったかのような一斉掃射だと思いませんか?それも、すべてが事実無根のデマと姑息な印象操作による攻撃なのです。

これらの事実を総合的、俯瞰的に判断した結果、あたしの脳内シアターには、どこかのおじさんがパンケーキを食べながら「嘘でも何でもいいから、とにかく日本学術会議の評判を悪くしろ!」と手下どもに命令している映像が映し出されました。目には目を、印象操作には印象操作を、ということで、今回は、あたしも最後に印象操作をしてみました(笑)。

(『きっこのメルマガ』2020年10月21日号より一部抜粋・文中敬称略)

image by: 菅義偉 - Home | Facebook

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