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「虚偽事項公表罪ヤバいわよ!」小池百合子が7月都知事選で「カイロ大卒」を明記できぬ訳。女帝に迫る覚悟のとき

東京都の小池百合子知事が“50年前の嘘”を認めて楽になりたいなら、そのタイミングは今しかないのかもしれない。「文藝春秋」5月号が報じた学歴詐称疑惑の新証言はきわめて信憑性が高く、小池氏は正面からまともに反論できない。このまま夏の都知事選に出馬し、「カイロ大学卒業」を明記して公職選挙法の虚偽事項公表罪に問われるか、それとも経歴欄を書き換えて一線を退くか。人生を通して「事実とは違う美しいストーリーを仕立てあげ、その主人公として自分を売り込んできた」女帝・小池氏はどちらを選ぶのか。元全国紙社会部記者の新 恭氏が詳しく解説する。(メルマガ『国家権力&メディア一刀両断』より)
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:都知事選で「カイロ大卒」と胸を張れるのか。窮地の女帝に迫る覚悟のとき

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小池知事を追い詰める「学歴詐称」証言に高い信憑性

東京都の小池百合子知事は4月12日、その政治生命を左右するかもしれない月刊「文藝春秋」最新号(4月10日発売)の記事が掲載されてから初めての定例会見にのぞんだ。

「カイロ大学首席卒業」という小池氏の肩書。それを「虚偽だ」とエジプト留学時代に同居していた女性がかねてから告発していたが、こんどは、環境省キャリア官僚だった小池氏の元側近が「私は学歴詐称工作に加担してしまった」として手記にまとめ、同誌に発表した。

しかもその内容が、小池氏の卒業を証明するカイロ大学の声明文を捏造し、駐日エジプト大使館のフェイスブックに掲載したというのだから、ただごとではない。

声明文の原案を書いた元ジャーナリストの具体的な証言内容も明らかにしていて、その信憑性はきわめて高い。

定例会見で、関連の質問が出るのは明らかだった。噂されていた衆議院東京15区補選への鞍替え出馬を取りやめ、7月の都知事選に残りの政治家人生を賭ける決心をした小池氏にとって、この時期に学歴詐称疑惑が蒸し返されるのは致命的だ。

火消しのためにも、会見では、心の動揺を気づかれないよう、「一笑に付す」演技を心がけねばならなかった。

「記事が出たということは承知しております。卒業したことを大学が認めている。毎度毎度、選挙のたびに記事が出るのは残念なことです」

質問に答えはじめた小池知事は、前回の都知事選(2020年7月5日)の1か月ほど前のことを思い出していた。

小池知事「困っているのよ」2020年初夏の記憶

小池氏のエジプト留学時代の同居人、北原百代さんの証言をもとにノンフィクション作家、石井妙子氏が書いた「女帝 小池百合子」が書店に並び、都議会がカイロ大学卒業証書・卒業証明書の提出を求めるなど、追及を強めていた時期だ。

このほど文藝春秋に告発手記を寄せた元都民ファーストの会事務総長、小島敏郎氏(弁護士)が、「相談したいことがある」と小池氏に呼び出されて都庁近くのオフィスに赴いたのも、そのさなか、2020年6月6日のことだ。

小池氏が環境大臣だった時代、ともに「クールビズ」を推進、その縁で、小池都知事誕生後に特別顧問となり、参謀役をつとめていた小島氏を、小池氏がいかに頼りにしていたかは、その相談内容でもよくわかる。

カイロ大学の件で困っているんだけれど」。小池知事は学歴詐称疑惑を払拭するための方策で悩んでいた。

カイロ大学卒業を疑っていない小島氏が「卒業証書や卒業証明書を見せればいいんじゃないですか」と当然の指摘をすると、小池氏は「あるわよ。でも、それで解決しないから困っているのよ」と言う。

これまでにも小池氏は卒業証書、卒業証明書とされる書類を公開しているが、捏造ではないかという疑いは拭いきれていない。卒業証明書に押されている大学のスタンプの印影が不鮮明かつ判読不能なのも、疑われる原因だ。

そこで、小島氏は新しい卒業証明書の発行を申請することと、それが届くまでにやるべきこととして、次のような提案をした。

カイロ大学から、声明文を出してもらえばいいのではないですか

都知事選出馬の記者会見をするのに卒業証明書を待っていたら時間がない。そこで、とりあえず文書を電子送信してもらえばいいと考えたわけである。

「本当は卒業していないのではないか」深まる小池知事への疑念

それから3日後の6月9日、意外なことが起きた。カイロ大学学長のモハメド・オスマン・エルコシト氏の署名入りの「声明:カイロ大学」と題する文書が突然、駐日エジプト大使館のフェイスブックに掲載されたのだ。

カイロ大学は、1952年生まれのコイケユリコ氏が、1976年10月にカイロ大学文学部社会学科を卒業したことを証明する。卒業証書はカイロ大学の正式な手続きにより発行された。

遺憾なことに、日本のジャーナリストが幾度もカイロ大学の証書の信憑性に疑義を呈している。これはカイロ大学及びカイロ大学卒業生への名誉棄損であり、看過することができない。(後略)

小島氏は「えっ!こんなに早くカイロ大学が対応してくれたの?」と驚愕した。大学の公式声明なら決裁の手続きに時間が必要だろう。エジプトとは時差もある。にもかかわらず、小島氏が提案してからこれほど短期間に可能なことなのかという驚きだが、当時は出馬表明のことで頭がいっぱいで、深く考えずにやり過ごしたという。

この声明文を新聞、テレビが報じると、学歴詐称疑惑は一気に鎮静化した。都議会に提出された「小池都知事のカイロ大学卒業証書・卒業証明書の提出に関する決議」から自民党と共産党が離脱した。小池氏は6月12日に出馬記者会見をし、都知事選で次点に281万票も大差をつけて再選を果たした。

再選後、小池知事の都政は大きく様変わりした。「都民が決める。都民と進める」という改革路線は、自民党、公明党、都庁官僚と手を組む古い都政に逆戻りした。

小島氏はしだいに小池知事に対し疑念を抱くようになった。小池氏のカイロ大学を卒業しているという言葉を信じていたが、2020年6月の小池氏の狼狽ぶりや、カイロ大学卒業証書・卒業証明書を提出せよという都議会の決議案を異常に恐れていたことを思い出すたび、「本当は卒業していないのではないか。だとしたら、私は疑惑の“隠蔽工作”に手を貸してしまったのではないか」と不安に苛まれた。

私文書偽造に手を染めたか。小島氏の疑念は確信へ

そんなある日、小池氏のブレーンの一人でもある旧知のジャーナリスト、A氏に不安を打ち明けると、A氏は「小池さんと戦う気持ちがあるか」と念を押し、次のような告白をしたという。

カイロ大学声明は、文案を小池さんに頼まれ、私が書いたんです」「彼女は卒業していると思っていたから原案を書いたし、気軽に『エジプト大使館のHPに載せればいい』などと助言しました」

20年6月7日、A氏が文案をメールで送ると、翌8日の夜、小池氏から、大使館のフェイスブックに掲載する声明文の画像がメールで届き、それに続くメールには次のような記述があった。

明日の4時から 郷原と黒木亮が外国記者クラブで記者会見とのこと。その前に全部済ませます

弁護士の郷原信郎氏と作家の黒木亮氏による、小池氏の学歴詐称疑惑に関する記者会見が6月9日の午後4時から外国特派員協会で予定されていた。カイロ大学声明が駐日エジプト大使館のフェイスブックに掲載されたのはその2時間前の午後2時過ぎだった。

いくら東京都知事からの要請であっても、エジプトの大使館が、そのような文書を掲載するものなのだろうか。不可解な話だが、実際そうなっているのだから仕方がない。小池氏がその権力をバックにねじ込んだと考えるほかないだろう。

小島氏は「私とA氏が果たした役割を鑑みれば、カイロ大学が自発的に小池さんの疑惑を懸念して声明文を作成した、ましてやエジプト政府が関わったなどということは、ほぼあり得ません。大学を卒業していない小池さんは声明文を自ら作成し、疑惑を隠蔽しようとしたのです」と綴っている。

小池氏が初めて都知事選に出馬した際、小池氏を応援したかつての盟友、若狭勝弁護士は自身のネット動画番組で「カイロ大学側の承諾もなく勝手に作成したということになると、私文書偽造罪が成立する」と指摘している。

20年の都知事選での学歴詐称疑惑については時効の3年を過ぎているが、私文書偽造罪は時効5年なので、いまでも適用できるのだ。

小池知事を追い詰める50年前の嘘。逆質問に白ける記者たち

さて、冒頭の記者会見のシーンに戻ろう。記者たちは当然のことながら、小島氏の主張に対する小池知事の見解を聞く。つまり、カイロ大学の声明文は大学が出したものではなく、小島氏が発案しA氏が作成した文案に修正を加えたうえで知事側から大使館に依頼して掲載されたのかといったことだ。

これに対し、小池知事は「大学を出たことを誰が証明するんですか」と記者に逆質問し、少し間を置いてこう言った。「大学でしょ。卒業を証明するのは友達でも親でもなく自治体でもなく大学が証明する。大学が証明しているのに他の方が詐称と言っているのがわからない」。

「小島氏が知事に提案してからわずか3日後にカイロ大声明が公表されたのは余りにも早すぎるのでは」と記者が質問すると、小池知事は余裕の笑顔を浮かべてこう言った。

「そもそも私、卒業というファクトがあるわけです。それにカイロ大学が意思をもって発出された。ファクトのベースがあるからスピード感があると思う」

要するに小池都知事は、小島氏が暴露した事実には一切コメントせず、「カイロ大学が卒業を証明している」の一本槍で突き進むスタンスなのだ。

カイロ大学は入学できても進級するのが難しい。「女帝 小池百合子」に登場したエジプト留学時の同居人、北原百代さんが、文藝春秋最新号に実名で「カイロで共に暮らした友への手紙」という文章を寄せている。

エジプトでは口語と文語が分かれています。…インテリ層が通うカイロ大学の教科書や授業では文語が使われています。この文語はエジプト人ですら使えない人も多い。だからエジプト人でも4人に1人が留年するといわれています。…外国人は入学を融通してもらえても、進級試験では容赦なく落とされる。

アラビア語が堪能ではない小池氏は進級試験に落ち、JALの現地スタッフとして働きはじめたが、1976年秋、サダト大統領夫人が来日する半月ほど前に日本に戻り、父が関係する日本アラブ協会の推薦で夫人のアテンド役をつとめた。それが新聞に取り上げられ、テレビ、ラジオにも次々と出演した。

カイロに戻ってきた小池氏から見せられた日本の新聞に「カイロ大学文学部社会学科を日本人女性として初めて卒業した」と紹介されているのを見て北原さんは「そういうことにしちゃったの?」と驚いたが、小池氏が後に今のような地位に就くとは夢にも思わず、注意することもできなかったという。

事実とは違う美しいストーリーを仕立てあげ、その主人公として自分を売り込む小池流「人生マーケティング」の最初のステップだった。

その後、小池氏は、男社会のメディア、政界に飛び込んで、「ジジ殺し」と評されながら政財界の大物に近づき、引き立てられ、のしあがっていった。

7月都知事選「カイロ大学卒業」明記で何が起こるか

小島氏の告発文によると、小池都知事が2020年の再選後、自民党に急接近した背景には、カイロ大学の声明が掲載されたことを受けて都議会自民党が小池都知事追及の決議案から降り、都知事選の対抗馬を立てなかったことがある。

二階俊博自民党元幹事長に頼んで都議会自民党に圧力をかけてもらったらしく、「自民党の二階さんや都連には大きな借りができた」と小島氏は指摘する。

今回、小池氏が衆院補選への出馬を断念したのも、二階氏が裏金問題の責任をとって次期衆院選への立候補を断念したことが大きく響いている。

これで、小池氏が自民党に復帰し二階氏や萩生田光一氏の支援で総裁選に挑戦するという計略は遠のいた。都知事選が「女帝」の命運を握っているといってもいい。

はたしてこのまま「カイロ大学が卒業を証明している」の一点突破で窮地を脱することができるだろうか。客観的に見て、真正面から小島氏の告発文に反論できない小池都知事のほうの分が悪い。

都知事選に出馬するのなら、候補者の経歴欄に再び「カイロ大学卒業」と明記せざるを得なくなる。さもなくば、学歴詐称疑惑はさらに深まるからだ。

ただしウソとわかれば、公職選挙法の虚偽事項公表罪に問われるだろう。かつての側近に手の内を晒された今度ばかりは、さすがの「女帝」にも打つ手がなさそうだ。

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image by: 都民ファーストの会 Facebook

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