世耕弘成の大誤算。なぜ和製ゲッベルスは自民を追い出されたのか?萩生田と「扱いの差」鮮明、党内政治敗北の深層

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世耕弘成(せこうひろしげ)前参院幹事長は、NTT本社広報部出身の3世議員。政界転身後は、民間仕込みのメディア戦略を武器に安倍元首相の参謀役として地歩を固め、「自民のヨーゼフ・ゲッベルス」と呼ばれたこともあった。そんな我が世の春を謳歌していた世耕氏は、なぜ「離党勧告」により自民党を追放されることになったのか。同じ安倍派にも関わらず「党役職停止」で裏金問題を切り抜けた萩生田光一前政調会長との「格差」はあまりに大きい。この記事では、世耕氏が人身御供にされた背景、国民にはおよそ理解できない自民党内の力学を、元全国紙社会部記者の新 恭氏が解説する。(メルマガ『国家権力&メディア一刀両断』より)
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:自民党を追放された世耕は二階、萩生田との差別に何を思うのか

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我が世の春を謳歌した世耕氏が「おそらきれい…」状態に

真相を覆い隠したまま、39人の議員に処分が下った自民党の政治資金パーティー裏金事件。「離党勧告」処分を受けた世耕弘成・前参院幹事長は、離党届を提出したあとの記者会見で、次のように語った。

「明鏡止水の心境で、政治責任を取ってこの事態をできる限り収束させたい」

明鏡止水。邪念がなく、澄み切って落ち着いた心のこと。政治家が好んで使うこのフレーズ。1934年、国会で汚職事件への関与を追及された鳩山一郎文相(当時)が「明鏡止水の心で善処する」と答弁して以来の常套句だが、だいたい、困ったことが起こった時、記者に質問されて発するようだ。

筆者が記憶しているのは、1989年7月の参院選に自民党が惨敗した責任をとり当時の宇野宗佑首相が退陣会見で語った「明鏡止水の心境であります」だ。自身の女性問題がもとになり在位期間わずか69日にして総理の座を投げ出した無念さを押し殺すような響きがあった。

平常心でいるときには必要としない。心が千々に乱れる状況でこそ使いたくなるのが「明鏡止水」だ。むろん、落ち着こうと自身に言い聞かせる場合もあれば、なんとか心の整理がついて前進できる状態の時もあるだろう。

世耕氏は、どうだったのだろうか。離党の決心に至るまでの苦悩は並大抵ではなかったはずだ。

二階氏の「バカヤロウ!」で命運尽きた世耕氏

二階俊博元幹事長が3月25日、次の衆院選には出馬しないと表明した。年齢に関係があるかと記者に問われ「おまえもその歳が来るんだよ、バカヤロウ」と気色ばんだ。

そのニュースを知った時、世耕氏は、自らの運命を巻き込む何ごとかが起きていると予感できたかもしれない。二階派にも及んだ裏金問題に派閥会長としての重大な責任があるとはいえ、二階氏がタダで身を引くとは思えないからだ。

よく知られている通り、世耕氏は衆議院への鞍替えを望んでいる。次期衆院選で、和歌山県の衆院小選挙区の議席は3から2に減り、世耕氏が出馬をめざす新2区は大部分が二階氏の地盤である。

二階氏は長男か三男のどちらかを後継者にするつもりだが、世耕氏が衆院に挑んでくるのを阻止するためにも、二階氏自身が議席を守り続ける必要があった。

その二階氏が衆院議員を引退するというのである。岸田首相と取引したのではないかと疑うのは当然だ。たとえば、党として世耕氏の衆院鞍替えを認めないことを約束するとか、新2区の公認候補者は二階氏の息子とする、などだ。

「不快」だけではない、世耕氏が自民党内で嫌われる理由

岸田首相は支持率のアップをはかるため、裏金議員を厳しい姿勢で処分したように見せる必要があった。が、あまり多くの議員にダメージを与えると、党内の反発が強まり総裁再選がおぼつかなくなる。

そんなジレンマを抱えながら、岸田首相は安倍派幹部のうち誰を犠牲者として選ぶつもりなのか。二階氏に疎まれている自分なのではないか。世耕氏の不安と焦燥を、二階氏の“引退表明”は、かきたてた。

まともな政党なら、引退しようがしまいが、二階氏を厳罰に処すだろう。なにしろ、政治資金収支報告書の不記載額が3526万円にのぼり、東京地検特捜部に自身の秘書と二階派の元会計責任者が立件されているのだ。

しかし、岸田首相は森喜朗元首相と同様、二階氏に対しても処分を避けたかった。二人とも、ムラの長老であり、“祟り”が怖い存在だ。

もし二階氏を処分すれば、宏池会の会長だった岸田首相自身も、処分を免れるわけにはいかなくなる。宏池会の元会計責任者の有罪が確定しているからだ。

二階氏だって、離党勧告だの党員資格停止だの、晩節を汚すようなレッテルをはられたくはないだろう。

二階氏が自ら身を引き、岸田首相は処分を見送る。誰かが仲に立って、そのように話をまとめ、あの記者会見をプロデュースしたのではないか。世耕氏はそのような想像をめぐらし、我が身がきわめて不利な立場にあることを悟ったはずだ。

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