MAG2 NEWS MENU

米英仏では廃止なのに?「経済安保情報保護法」を今さら作る日本の本音、旧統一教会の“影”懸念も

参院本会議で審議入りした経済安保法案(重要経済安保情報保護法案)。経済安全保障上の秘密情報を扱うための資格制度創設を目的とするものですが、保護対象となる情報の範囲や内容が極めて曖昧なため、政府によって恣意的に運用される恐れが指摘されています。さらに、同種の秘密指定は英仏では廃止され、米国でも廃止が勧告されていることから、「なぜ今さら日本でこんな法律を?」「旧統一教会が推進していたスパイ防止法案に似ている」といった不安の声も。メルマガ『ジャーナリスト伊東 森の新しい社会をデザインするニュースレター(有料版)』が詳しく解説します。

「経済安保情報保護法案」秘密の定義あいまいなまま成立へ

経済安全保障上の秘密情報を扱うための資格制度を創設する法案が、5日、衆院内閣委員会で賛成多数で可決された。

可決にあたっては、自民・公明両党、立憲民主、日本維新の会、国民民主党などが協議、重要経済安保情報の指定・解除、適格評価の運用状況について、毎年国会に報告するとの修正も加えた。

法案は9日にも衆院本会議で可決され、参議院での審議を経て、今国会中の成立を目指す。

法案の名称は「重要経済安保情報保護・活用法案」。安全保障に支障を及ぼす「重要経済安保情報」を新たに指定する。

法案では、情報を扱える人を「セキュリティー・クリアランス(適格性評価)」の資格を持つ人に限定。情報を漏洩した場合には、5年以下の拘禁刑などの罰則を科す。

日本は主要7カ国(G7)の中で唯一、経済安保情報を保護する制度がないという。法案の成立にあたり日本企業にとって海外企業と機密を含む技術の共同開発に参加しやすくなるなど国際競争力の強化につながる利点があるとのこと。

一方で法案には懸念すべきところもある。政府が保護の対象とする「重要経済安保情報」の範囲や内容が曖昧であったり、恣意的な指定になる可能性があることだ。

国家機密を扱う資格、どんな情報を調査されるのか

この法案は、経済安全保障に関する情報を含め、国家機密を扱える人を限定する「セキュリティー・クリアランス(適性評価)」制度を新たに拡大するもの。

セキュリティー・クリアランス(適性評価)とは、政府が指定した安全保障上重要な情報に接する必要がある公務員や民間事業者らに対して、政府が調査を実施し、信頼性を確認した上で情報を提供する制度。

本人の同意を得た上で、国の行政機関が、

  1. 家族や同居人の生年月日国籍
  2. 犯罪歴
  3. 薬物乱用
  4. 精神疾患
  5. 飲酒の節度
  6. 経済状態

などを調査する。

現在、日本でこの資格を持つ人は13万人、アメリカでは400万人がこの資格を保持しており、公務員と民間人の比率はおおよそ7対3(*1)。

政府は2014年に特定秘密保護法を施行し、防衛、外交、スパイ活動の防止、テロリズムの防止の4つの分野において、漏洩した場合に日本の安全に重大な影響を及ぼす恐れのある情報を特定秘密として指定。

新たな法案では、「サイバー」「規制制度」「調査・分析・研究開発」「国際協力」の4つの新しい分野について、新たに「重要経済安全保障情報」として指定した。

岸田首相は具体例示さず、あいまいな範囲に懸念も

政府は同盟国のアメリカだけでなく、インド太平洋地域で連携するイギリス、オーストラリアといった「準同盟国」と軍事だけでなく、サイバーや宇宙、人工知能(AI)など科学技術分野での協力強化を目指す。

そして各国と機密情報を共有し、管理を強化することで、中国や北朝鮮などへの流出を防ぐ狙いもある(*2)。

しかし法案の成立にあたっては、自民党や立憲民主党などからは、国が指定する重要インフラや重要物資の供給網などに関する重要経済安保情報が「あいまいだ」との指摘があった。

首相は「恣意的指定とならないよう、今後(法成立後)、外部有識者の意見もふまえて作成する運用基準で範囲を明確化する」と答弁するも、具体例は示さなかった(*3)。

法案はインフラや重要物資の供給網に関する情報のうち、漏えいが安全保障に支障を与える恐れがあるものを「重要経済安保情報」に指定。

政府はその情報の機微度をコンフィデンシャル(秘)級としており、より高いトップシークレット(機密)やシークレット(極秘)級を対象とする特定秘密保護法とは区分した。

米英仏では廃止の流れ、なぜ日本で法律に?チラつく旧統一教会の影

政府は、日本が先進7カ国(G7)の中で、このコンフィデンシャル級を含め、機密情報を保護する制度が未整備であると指摘する。

しかし、日弁連の斎藤裕副会長は、

「コンフィデンシャル級の秘密指定は英仏で廃止され、米国も情報保全監督局が廃止を勧告している。非常にニッチな情報を保護する法律をなぜ作らなければならないのか」(*4)

と疑問を呈す。

提出された法律は、産業スパイによる機密情報の流出を防ぐために、監視システムの設置と罰則の適用を含む内容となっており、「スパイ防止法」という言葉が思い浮かぶ。

実際に、自民党は1985年にスパイ防止を目的とした関連法案を国会に提出していた(*5)。

しかし、この法案を推進したのは、旧統一教会系の政治団体「国際勝共連合」であったことを覚えておく必要がある。

日弁連の斎藤裕副会長は、

多くの市民の機微情報を国の機関が一元的に収集する制度は日本の歴史上初めてだ。権限行使の乱用を防ぐ仕組みが全く議論されていない」(*6)

と懸念するも、それが生かされていない。

【関連】有田芳生氏が入手、統一教会「秘密文書」にみる自民党工作。地方・国政に信者議員、“新聞社・TV局協力者”育成も

【関連】三浦瑠麗氏、東京拘置所にBMWで乗り付け。夫・清志被告に接見と思いきや意外な行動…“横領離婚”は秒読みか

【関連】旧統一教会の関連団体と「政策協定疑惑」の守山文科大臣に後ろ暗い過去。名門灘中にかけていた“圧力電話”

【関連】「JRタブー」とリニア新幹線の闇。川勝静岡知事「悪玉説」を流布するのは誰だ?日本最後のフィクサーと安倍の呪い

【関連】釈放まで82時間!いなり寿司「万引き誤認逮捕」悪いのは警察か店かあの政治家か?議論白熱…「他人事じゃない」「対策しないとヤバい」の声も

引用・参考文献

(*1)川田篤志、近藤統義「政府が大量の民間人を『適性評価』、秘密を漏らしたら最長5年の拘禁刑 経済安保情報保護法案の概要」東京新聞 2024年2月8日

(*2)「『身辺調査』の結果は上司に筒抜け…不利益はないのか 『経済安保』法案、岸田首『「今後検討する』連発」東京新聞 2024年3月20日

(*3)東京新聞 2024年3月20日

(*4)近藤統義「米英仏では『秘密指定』廃止の流れ 経済安保情報保護法案 なぜ今さら日本に?指摘される『最大の不備』は」東京新聞 2024年3月31日

(*5)岸本拓也、曽田晋太郎「統一教会系団体が推した『スパイ法』と相似形…閣議決定された経済安保情報保護法案の背後に何が」東京新聞 2024年3月5日

(*6)近藤統義、2024年3月31日

(『ジャーナリスト伊東 森の新しい社会をデザインするニュースレター(有料版)』2024年4月13日号より一部抜粋・文中一部敬称略)

この記事の著者・伊東森さんのメルマガ

初月無料で読む

image by: 首相官邸

伊東 森この著者の記事一覧

伊東 森(いとう・しん): ジャーナリスト。物書き歴11年。精神疾患歴23年。「新しい社会をデザインする」をテーマに情報発信。 1984年1月28日生まれ。幼少期を福岡県三潴郡大木町で過ごす。小学校時代から、福岡県大川市に居住。高校時代から、福岡市へ転居。 高校時代から、うつ病を発症。うつ病のなか、高校、予備校を経て東洋大学社会学部社会学科へ2006年に入学。2010年卒業。その後、病気療養をしつつ、様々なWEB記事を執筆。大学時代の専攻は、メディア学、スポーツ社会学。2021年より、ジャーナリストとして本格的に活動。

有料メルマガ好評配信中

  初月無料お試し登録はこちらから  

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 ジャーナリスト伊東 森の新しい社会をデザインするニュースレター(有料版) 』

【著者】 伊東 森 【月額】 ¥330/月(税込) 初月無料 【発行周期】 毎週 日曜日

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け