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小沢一郎が「政敵」野田佳彦を立憲代表に推すワケ。小異を捨て自民を倒す「立憲・維新共闘」と政権交代の現実度は?

立憲民主党の野田佳彦氏と小沢一郎氏が会食。政権交代を目指し、野党第一党にふさわしい新代表の人選や、今後の野党間連携について議論が交わされたとみられる。そのシナリオの1つとして考えられるのが野田氏の代表選出馬、および立民と維新の共闘だ。ただしその場合、日本共産党との関係性で新たな問題が生じてくる。元全国紙社会部記者の新 恭氏が詳しく解説する。(メルマガ『国家権力&メディア一刀両断』より)
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:野田・小沢の因縁会談で話し合われた政権交代のための新代表選出

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小沢一郎氏が「政敵」野田佳彦氏と会食。何を話したのか?

立憲民主党の野田佳彦氏と小沢一郎氏が7月19日夜、東京都内で会食したようだ。

同じ党でありながら、この二人が会談することは、滅多にない。おそらく、野田氏が民進党幹事長、小沢氏が自由党共同代表だった2016年以来だろう。

共同通信が会談の中身を次のように伝えている。

9月の代表選を巡って意見交換。次期衆院選で政権交代する必要があるとの認識で一致し、選挙での野党連携の在り方についても話したという。

政権交代を前提として、首相の顔にふさわしい人物を代表に選び、衆院選に統一候補を立てて戦えるよう野党間の話し合いを進める。そういう合意だろう。

泉健太代表ではだめだから、新しい顔にすげ替えたいということでもある。

自民党の派閥領袖のごとく、数の力をバックに密室で党のトップを決めることはできないが、政治的立場の異なる二人の大物議員の合意は党内に相当な影響力を及ぼすはずだ。

小沢氏「まただめじゃないか、沈没じゃないか」

政権交代を実現するには、野党が結束し、小選挙区に統一候補を立てて自公に対抗する必要がある。それゆえ、野党第一党である立憲の代表が誰になるかはきわめて重要なポイントだ。首相になるかもしれない人物がショボくては、まとまるものもまとまらない

現代表の泉健太氏は続投に意欲を示し、野田氏も「泉代表を支える」と公言するが、主流派に属している立場上、そう言わざるを得ないだけのこと。

一方、小沢氏の態度は明確だ。2021年11月30日の代表選では泉氏を推したが、もはやその気はない。ANNのニュースで、こう語っている。

政権取るのには野党共闘もしなきゃいけないだろう。そういうこともできるような執行部じゃないと駄目だ。泉でやったらまただめじゃないか、沈没じゃないか

野党勢力をまとめて二度の政権交代の立役者となった小沢氏からみると、自民党が裏金問題などで信用を失墜し、政権交代を期待する声が高まっているにもかかわらず、肝心の立憲民主党が野党連携に何ら効果的な手を打っていないのが歯がゆいのであろう。

小沢氏・野田氏「政権交代シナリオ」の最優先課題

小沢氏は昨年7月、党所属の衆院議員の半数を超える50人超の賛同を得て「野党候補の一本化で政権交代を実現する有志の会」を結成した。共産党を含む候補者調整に取り組むよう党執行部に働きかけるのが目的だった。

これを受けて泉代表は方針を転換、共産の協力を得て、今年4月の衆院3補欠選挙で全勝した。

しかし、東京都知事選では、これが裏目に出た。共産党とともに蓮舫氏を支援し、共産への拒否感の強い連合に小池百合子氏を支援する口実を与えてしまった。

小沢氏は「仲間内さえまとめきれない」と、みすみす連合の離反を許してしまった泉氏の政治力不足を批判する。

「叩き潰す必要がある」「なくなったらいい」と立憲、共産両党に馬場伸幸代表が罵声を浴びせる日本維新の会との関係についても、立憲の代表が替わることで改善の糸口が見つかると考えているようだ。

野田氏と小沢氏は、代表候補について、名前をあげて話し合ったことだろう。

そのさいのポイントは2つある。代表経験者を含むベテランの知名度を重視するか、若手の清新さを選ぶかだ。

東京都知事選における“石丸旋風”が示すように、既成の政党、永田町の論理、著名政治家にまつわる古臭いイメージが、無党派層を遠ざけている。無名でも、有権者を引きつける若手政治家が立憲の党内にもいるのではないか。

小沢氏が「政敵」の野田氏を代表選に担ぎあげる可能性も

今の時点で、代表選の候補者として名前が挙がっているのは、現代表の泉氏のほか、枝野幸男氏、長妻昭氏、重徳和彦氏、小川淳也氏といった面々だ。

このうち、重徳氏と小川氏はともに53歳だが、党の刷新感を醸し出すには、さらに若い40代が望ましい。たとえば、40歳の中谷一馬氏、45歳の関健一郎氏らが思い浮かぶ。

だが、党内で幅を利かしているベテランたちが、そうした若返りを受け入れるかどうかは大いに疑問だ。古い永田町政治という点では、自民も立憲もたいした差はない。若手が出馬した場合、地方票は集めても、当選は難しいかもしれない。

現実的には野田氏が問題視する「昔の名前で出ています」にならざるを得ないかもしれず、もしこの会合が小沢氏から持ちかけたものなら、野田氏を代表選に担ぎあげるための説得が主目的であることも十分、考えられる

むろん、小沢氏にとって、野田氏は近い間柄ではない。むしろ、かつては“政敵”だったと言ってもいいほどだ。

2012年6月、当時の野田首相は「税と社会保障の一体改革」という美名に包み、自公両党と修正合意した消費増税法案の成立に執念を燃やしていた。背後には財務省の強い意向があった。

しかし、マニフェストに違反する消費増税を掲げたまま総選挙に突入すると、民主党が壊滅的な敗北を喫するのは明らかだった。にもかかわらずなぜ、消費増税を打ち出すのか。小沢氏は強硬に反対した。

自民党総裁選と立憲代表選は「同時」に行わなければならない

以下は拙著「小沢一郎の死闘1500日」の一節だ。

消費税増税法案を採決する6月26日の衆院本会議。野田内閣が提出するその法案に与党議員としてどう対処するか。その決断によっては、小沢は離党を覚悟しなければならない。野田は自公の望む「小沢切り」を選択し採決の日を迎えた。

小沢氏は法案に反対し、49人の民主党国会議員とともに離党した。そんないきさつが、これまで二人を遠ざけてきた。

だが、四半世紀ぶりにめぐってきた政権交代のチャンスを生かすために、政治理念や過去の恩讐をこえて手を握る必要性を二人とも感じているのかもしれない。

野田氏のほうから声をかけたとすれば、これまで野党が結束して非自民政権をつくる必要性を唱えてきた小沢氏に、立憲として代表選、野党連携でどのような道筋を描くべきか、意見を聞く目的があると考えられる。

野田氏は9月の代表選を自民党の総裁選と同時に行うべきだと主張している。

代表選が終わってから自民の総裁選で電波ジャックをされるのも、総裁選のあとに代表選をやるのも意味がない。時期を合わせることにより、自民と立憲のトップを見比べてもらうチャンスが生まれるというわけだ。

その観点からも、自民党の総裁候補と比べて見劣りのしない候補者が立つことが大切だ。

7月14日の「ABEMA的ニュースショー」で、野田氏は「自分も含めて『昔の名前で出ています』の路線ではいけない」「自分でやろうとは全く思っていない」と言い、代表選への出馬を否定した。

しかし同時に、「政権交代のチャンスはめったにない。私の時に手放したのが悔しく、取り戻すためなら、なんでもやろうと思っている」とも言っており、多くの人々に担がれるのなら自分の出番もありと考えているフシがある。

党内で根強い野田待望論、日本維新の会との「共闘」も視野

実際、党内には野田待望論が根強い。

野田政権で外相をつとめた玄葉光一郎氏は6月13日夜のBS-TBSの番組で、「野田氏は胆力がある。今、一番時代に求められている」と述べ、政権交代した場合の首相として野田氏が適任だと指摘した。

野田氏は安倍元首相への追悼演説で、自民党右派を感激させ、保守層に好印象を残した。穏健な人柄で、演説はめっぽう上手い。

野田政権で副総理をつとめた岡田克也幹事長や、財務相だった安住淳国対委員長も野田氏を推している。

NHKの国会中継がある衆院予算委員会の質疑に野田氏が立ち、自民党の裏金問題を追及したところからも、野田氏の存在感をアピールする党執行部の意図がうかがえた。

維新や共産を含む「野党候補の一本化」を訴える小沢一郎氏に対し、野田氏はこれまでどちらかというと否定的な見解を示してきた。

だが、一本化ができなければ、その恩恵で反自民票を集めてきた議員は総崩れになってしまう。理想論で選挙はできない。

総選挙が近づき、政権交代もありうる情勢になって、野田氏の考えも変化してきているということだろう。

フジテレビ特別解説委員、平井文夫氏の月刊「正論」(5月号)におけるインタビューで、野田氏は日本維新の会との連携に強い意欲を示している。

立憲民主党と日本共産党の関係はどうなる?

また、共産党との共闘についても昨年11月のBS番組の生放送で次のように語った。

共産党と選挙区で戦っている所はいっぱいある。その中で全選挙区でぶつかりあって、お互い消耗しても仕方ない。すみ分けは、あったっておかしくない。お互いに消耗戦をやめようぐらいのことを野合と言うだろうか、(それは)戦術的な問題だ。

4月の衆院3補選で立憲民主党の候補は、いずれも共産党の支援を得て当選した。野田氏もそれは強く意識しているはずだ。しかし、維新と組もうと思えば、共産党を切るよう求められる

だからこそ、泉氏には期待できない豪胆な政治力が必要だと小沢氏は考え、野田氏と手を握る気になったのではないだろうか。

2009年に民主党、社民党、国民新党の連立による政権交代を実現した衆院選で、共産党は候補者の数を05年選挙の275人より大幅に減らし152人としたが、そこには選挙担当の民主党代表代行をつとめた小沢氏の調整力が見え隠れした。

大局観と熱意をもって交渉することで、実質的な野党連合体はできるというのが小沢氏の信念であろう。

腐りきった金権自民党への不信と怒りは極限に達している。それでも、政権交代が実現できないとなれば、政治に対する国民の諦念、無力感はさらに高まり、民主主義の形骸化につながっていくだろう。野党各党が小異を捨てて、大局を見据えた連携ができるかどうか。この国の政治の未来が、そこにかかっている。

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