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菅首相「著書一部削除」の深刻度。今すぐやるべき国民との対話とは?

菅義偉首相の著書『政治家の覚悟』が新書版となって発売されましたが、単行本時の「政府が記録を残すこと」の重要性に関する記述が削除されていると話題になっています。出版した文藝春秋側が経緯を説明していて、菅首相の意向の有無は確認できていませんが、官房長官時代の多く問題から、足もとをすくわれかねないと軍事アナリストの小川和久さんが、主宰するメルマガ『NEWSを疑え!』で危惧しています。小川さんは菅首相のブログには削除された記述と同様の主張が残っていると指摘。その覚悟を貫くことが国防にも経済にも寄与すると持論を述べています。

菅首相は自著で自縄自縛になるのか

菅義偉首相の新刊『政治家の覚悟』(文春新書)が話題になっています。それもよい方向ではなく、下手をすると足もとをすくわれかねない問題だけに、このコロナの時代に必要な政治の安定性を考えるうえで、気にしない訳には参りません。

新刊が話題になったのは、今回の文春新書が2012年3月に出版した単行本を改訂したもので、「政府があらゆる記録を克明に残すのは当然」と公文書管理の重要性を訴える記述があった章などが削除されているからです。

政治家の覚悟』 (文春新書) 

2012年の単行本では、旧民主党政権が東日本大震災時、会議で十分に議事録を残していなかったことを批判し、「千年に一度という大災害に対して政府がどう考え、いかに対応したかを検証し、教訓を得るために、政府があらゆる記録を克明に残すのは当然で、議事録は最も基本的な資料です。その作成を怠ったことは国民への背信行為」などと厳しく糾弾していました。

さらに、菅氏のオフィシャルブログ(2012年1月28日)には「政府があらゆる記録を克明に残すのは当然」「議事録を作成していなかったのは明らかな法律違反であるとともに、国民への背信行為」などの記述が残されています。「議事録作成という基本的な義務も果たさず、『誤った政治主導』をふりかざして恣意(しい)的に国家を運営する民主党には、政権を担う資格がないのは明らかです。国会の審議で厳しく質(ただ)してまいります」と、まさしく「政治家の覚悟」を打ち出しています。

こうしたしごくまっとうな記述が、今回の新書では姿を消しているのです。官房長官を務めた安倍晋三政権時代、森友学園への国有地売却問題、桜を見る会問題を巡り、政権に都合の悪い公文書や記録が改ざんされたり、廃棄されたりしました。コロナ対策を話し合う会議でも、発言者や発言内容の詳細が分かる議事録を残していない問題が指摘されています。

都合が悪いから削除したことは、誰が見ても明らかです。これについては与党内からも批判があり、菅首相がどのように乗り切っていくのか注目されています。私は菅首相に、この問題を日本の宿痾を克服するための踏み台にしてくれることを求めたいと思います。

それというのも、技術立国によって経済力を培ってきた日本が疎かにしてはならない研究開発にも、記録を残さないという悪弊が影を落としているからです。その文化を変えていかないかぎり、日本の前途は明るいものにならないでしょう。

1985年、私は自衛隊が使っている国産兵器の欠陥問題を単行本『戦艦ミズーリの長い影 検証・自衛隊の欠陥兵器』(文藝春秋)にまとめました。小銃から戦闘機まで、日本の研究開発のお粗末さを絵に描いたような欠陥兵器の山でしたが、そこで明らかになったのが記録を残さないという悪習でした。

いうまでもなく、研究開発は失敗の積み重ねの面があります。ところが、日本の兵器の研究開発は失敗を恐れ、それが会計検査の対象として指摘されないよう、記録を全て廃棄することを繰り返してきました。そうなると、同じジャンルの兵器を開発するときも、またゼロからスタートすることになり、いつまでたっても日本の研究開発の水準が高まらない原因となってきたのです。

失敗を関係当局の目から隠そうとするのは米国にも似た面がありますが、米国の場合は失敗の記録を別に隠しておいて、次の開発の時にちゃんと活かすことを実行してきました。失敗した段階からスタートしますから、いつもゼロから始める日本と差がつくのは当たり前です。その中で、中国やロシアを圧倒的に引き離す研究開発を実現してきたのです。その国防研究開発が米国経済を牽引する最先端技術として花開いてきたことを忘れてはなりません。

このように、記録を重視するかどうかは研究開発にとどまらず、国家の経済力にも大きく関係してくるのです。日本の民主主義が先進国らしく健全に機能するうえでも、菅首相は公文書をはじめとする記録を残す姿勢を崩してはならないと思います。

安倍政権の官房長官時代の「文書隠し」については、それを認めることはできないでしょう。しかし、避けるべきことであったと原則的な立場から国民に釈明し、今後の公文書管理を徹底していく方向を示すことは練達の政治家ならできるはずです。菅政権の命運は、自分の著書によって自縄自縛になるかならないか、それが岐路になるかも知れないのです。(小川和久)

image by: 首相官邸 

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地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

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