テレビのワイドショーで好き放題に話すタレントを専門家や学者など「識者」が失笑するのは、よくある光景です。しかし、アメリカ大統領戦の混迷を受けて米国をバカにする発言は、失笑されるべきものながら、「識者」たちも過去に同様の発言を繰り返してきたと軍事アナリストの小川和久さんは指摘します。今回のメルマガ『NEWSを疑え!』で小川さんは、阪神・淡路大震災のちょうど1年前に起こった米国の地震被害を嘲笑った例などを上げ、他国に学べないと痛い目に遭うと警告しています。
「アメリカに学ぶものなどない」だって?
朝の情報番組の画面からタレントさんの声が聞こえてきました。「アメリカから学ぶものはない」という意味のことを言っていました。米国大統領選挙の混乱ぶりに対するコメントですが、スタジオの「識者」たちは失笑するかのような表情を浮かべました。
確かにタレントさんは国際政治の専門家ではありません。プロ野球選手出身の、それも有名選手の息子という二世タレントです。「識者」たちが小馬鹿にする理由はそこにあります。
それに、タレントさんの言っていることは間違いです。米国からは学ぶことの方が圧倒的と言ってよいほど多いのです。タレントさんは米国の何を、どこまで知っているのでしょうか。その米国を今回の大統領選挙の混乱を通じて否定してしまうのは暴論とさえ言えるでしょう。
しかし、タレントさんを非難できないのが日本の現状です。例えば、阪神淡路大震災の前年のことです。ロサンゼルスを襲ったノースリッジ地震で高速道路が崩落したのを見て、日本の大学教授たちは「日本の高速道路では考えられない」と言い放ったのです。しかし、阪神淡路大震災では阪神高速道路が横倒しになり、無残な姿を世界にさらしてしまいました。1989年のサンフランシスコ地震(ロマ・プリータ地震)の時も、日本の専門家は同じような見解を口にしていました。
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関連して思い出されるのは、30年ほど前に朝日新聞に投稿された米国留学帰りの厚生省の医系技官(医師)の言葉です。ここでも「アメリカに学ぶものなどない」と見下すような言葉が羅列されていました。
高速道路や医療の世界に限らず、当時はむろんのこと、その後の展開を見ても米国からは学ぶことのほうが多いのは明らかですが、なぜかタレントさんのような見方が日本国民の間に広がっている印象があります。
井の中の蛙大海を知らず、という言葉があります。井戸の中で暮らすカエルは見上げた視界に入る範囲が全世界だと思い込み、その外側の広い世界を知らない、つまり、視野が狭いことを指していますが、その視野をもとに身についてしまった価値観は、米国を往来する人々でも容易に変わらないのが恐ろしいところです。
これは米国だけでなく、相手が中国でも、そして北朝鮮にも言えることですが、学ぶべきは学ぶ、改めるべきは改めるという思考の柔軟性がなければ、国際社会の荒波の中で日本の安全と繁栄を実現することはできないと思います。
似たような言葉に、夜郎自大という中国の諺があります。世界に通用しない価値観のもと、自分たちが一番だといい気になっていたら、目の前に巨大な中国が口を開けて待ち構えていたなどということには、絶対になって欲しくないものです。(小川和久)
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