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迷走の恐ろしさ。「Go To」はブレーキの踏み方を知らぬ運転手状態

新型コロナウイルス感染症の再々拡大を受け、対策分科会は政府に「Go To」キャンペーンの見直しを提言。「Go To」継続を強調していた政府も感染状況に応じた対象除外や一時停止を求めるなど方針を転換しました。この迷走について、メルマガ『8人ばなし』著者の山崎勝義さんは、どんな時にブレーキを踏むか決めていないか、ブレーキの踏み方すら知らないから起こることと、車の運転に譬えてその恐ろしさを説きます。日本国という車をコントロールする人たちに、危険信号や非常時の出口は見えているのでしょうか?

出口のこと

アクセルとブレーキを同時に踏み込めばブレーキが優先される。以前にも言った通りである。これは車というものが安全重視の設計思想に基づいて作られているからである。
●参考:「アクセルとブレーキの踏み間違い?首相官邸の迷走は危険運転状態」

一方、車を運転する側であるドライバーの基本と言えば、アクセルを踏んでいる間はブレーキを常に意識し、ブレーキを踏み込んでいる時は次の再加速に備えアクセルを意識するということであろう。こうしたドライバーの意識そのものが運転時の認知・判断・操作に要する総時間を短縮させ、なるべく路上に危険な状況をつくり出さないようにすることに寄与している。つまり、危機回避は常に一歩先を想定することから始まる、ということである。

加えてもう一つ大事なのがそのやり方である。アクセルはどんな緊急時でも絞り出すようにジワッと踏み込まなければならない。タイヤのグリップを感じながら確実に、である。これを出鱈目に踏み込むとホイルスピンやアンダーステアの原因となり事故を起こすことになるかもしれない。

一方ブレーキは緊急時にはガツンと踏むことである。ペダルを底着かせるつもりで思い切りよく、である。あとはABSを信じるだけである。目の前に子供が飛び出して来たまさにその時、呑気に加減をしている場合ではなかろう。緊急時制動性能は衝突安全性能とともに自動車メーカーが心血を注いで開発しているところでもある。この時のための準備なのである。

仮に緊急時にドライバーがブレーキの踏み方を知らなかったとしたらどうだろう。そもそもブレーキシステムそのものが無かったらどうだろう。どちらも考えたくないほどに恐ろしい仮定である。

実のところ、今の「Go To」はそれではないか、と思うのである。始めたはいいが(始め方もこれまた決して良くはなかったが)、いざ見直すとなると「いつ、どのようにして」がさっぱり見えてこない。決めていなかったからだ。こんな無責任な施策があろうか。大体ワーストシナリオを想定しない指導者にベストシナリオを望む資格などあろう筈がない。

「いいことをしているんだから悪い結果を招く筈がない」まさかこんなふうな甘えたことを考えるほどに能天気ではなかったと信じたいが「まあ、いい感じに進むだろう」程度には軽薄だったかもしれない。実際、緊急時における止め方が前もってシミュレートされていたとは到底思えないざまである。

改めてここで言っておくが、人間の手による施策、例えば「Go To」などが感染拡大に直接間接を問わず影響を与えるかどうかなど正直どうでもいいことである。大事なのは、感染がまさしく拡大しているという現実を前にした時に如何に見事な撤退戦をやってのけられるかどうかである。出口戦略の有無と言い換えてもいい。これがない場合の戦いが如何に泥沼化するかということくらいは良識ある日本人なら疾(と)うに歴史から学んでいる筈だ。にもかかわらずこの有様である。

大体、危機的状況下において国を導くべき立場の者が、ことを始めるに急アクセルの見切り発進、ことを止めるにブレーキの踏み方知らずでは話にならない。そもそも感染拡大の防止と経済活動の正常化はその根本において共起するものではない。なればこそ、加速しながらもブレーキを常に意識することを忘れず、制動を掛けながらもアクセルを常に意識することを忘れない心構えが大切なのである。

危機管理とは即ちワーストシナリオに備えることである。「こうなった場合はこうする」というふうに常にその出口を準備することである。火がつき煙に巻かれてから「さあ出口はどこだ」といくら叫んでみても手遅れなのである。出口を明示しないままに進められる施策は、その理念がどんなに崇高なものであったとしてもおよそ頼みにできるものではない。怪しいと疑うべきだ。おかしいと非難すべきだ。沈黙せず声を上げるべきだ。

それにしても認知から余程時間が経ってから判断し、判断しても猶やり方が分からず、ただただ「~するつもりだ」と言うばかりで事がうまくいくとでも思っているのだろうか。忘れては困る。何をしたとしても効果が出るまでには2週間のタイムラグがあることを。

image by:image_vulture / Shutterstock.com

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ここにあるエッセイが『8人ばなし』である以上、時にその内容は、右にも寄れば、左にも寄る、またその表現は、上に昇ることもあれば、下に折れることもある。そんな覚束ない足下での危うい歩みの中に、何かしらの面白味を見つけて頂けたらと思う。

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