MAG2 NEWS MENU

仁義なき自民内部抗争が勃発か。菅首相が自ら招いた「自滅の刃」

新型コロナ対策で大きく躓き、急速に国民の信頼を失いつつある菅政権。自民党内では早くも、「この首相では次の選挙は戦えない」という声が上がっているとも報じられています。党内実力者たちは今後、どのような動きを見せるのでしょうか。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』で元全国紙社会部記者の新 恭さんが、久しぶりに自民党で始まりそうな権力争奪戦の行方を占っています。

頑迷なコロナ対策で菅政権自滅…党内抗争激化か

菅首相は迷路をさまよっているようだ。「GoToトラベル」は感染拡大に無関係と言いながら、結局のところ全国一斉、一時停止である。

今月28日から来年1月11日までで、もちろん効果が出るのは、そのまたずっと先。旅行関連業界と顧客は混乱のきわみにあり、対策の効果があらわれるまでの間、医療危機のさらなる深刻化は避けられない。

「GoToトラベル」は遅くとも半月前にストップしておくべきであった。そうすれば、もっと穏やかに年末年始を迎えられることだろう。

菅・二階の二頭政治は、早くも弱点をさらけ出した。論理矛盾があっても、二人が旗を振ってきた事業に対し、左遷人事恐怖症の官僚たちは何も言えない。

人の移動が増えれば、感染拡大しやすくなる。これは常識であろう。ところが、菅首相は「移動は感染と関係がない。分科会からも提言があった」と言い続けてきた。分科会の尾身会長が「ステージ3」相当地域では事業を中止すべきだと訴えた後も同様だった。

その考えが変わらないなら、「GoToトラベル」を全国一斉に、一時停止するというのは、つじつまが合わない。

そこで、一時停止を発表した12月14日のぶら下がり会見で、1人の記者が「GoToトラベルに感染拡大のエビデンスがないとの認識はあったか」とあらためて問いただした。菅首相はこう答えた。

「そこは、医師会の会長が申し上げているのではないでしょうか。それと、移動によっては感染を拡大しないという提言もあります。そこについては変わりません。ただ、専門家の委員の先生方から指摘をいただき、現実的に患者の方が出ていますから、年末年始、集中的に対応できるチャンスだと私は判断しました」

まったく支離滅裂というほかない。「GoTo」と感染拡大は関係ないと専門家が言っているが、専門家の指摘があるので、一時停止するというのだ。自身の思考停止を告白しているようなものではないか。

「GoToトラベル」と感染拡大の関係について中川俊男・日本医師会会長は「エビデンスがはっきりしないが、きっかけになったことは間違いない」と語っている。中川会長は「きっかけになった」に重点を置いてしゃべっているのだが、菅首相は「エビデンスがはっきりしない」の部分だけを都合よく利用し、トラベル推進の根拠にしてきた。それを今さら取り下げるのは沽券にかかわるとでも思うのだろうか。

いずれにせよ、こういうまやかしの理由によりズルズルと事業は続けられた。あげく、医療崩壊を心配する国民から匙を投げられ、内閣支持率はまたたくまに落下、あわてて政策を急転回したというお粗末だった。

薬効で元気を取り戻した安倍前首相はこんな局面を待っていたかもしれない。辞任前、菅官房長官にコロナ対策を任せていたのも忘却の彼方、「やっぱり俺でなきゃだめだろ」と、恥じらいもなく言えるチャンス到来だ。

だが、今ごろ地団駄踏んでいるだろう。「桜を見る会」前夜パーティーへの隠し支出で東京地検特捜部から近く事情聴取を受けそうなはめになって、事情は一変。国会でウソをつき通してきたツケがまわって、議員の資格も問われる始末。さすがに安倍再登板待望論も引っ込んだ。

コロナ対策の失政と、それによる内閣支持率の急落。いよいよ、菅政権の先行きは不透明になった。

政府が大株主として鎮座するNTTの完全子会社となったNTTドコモにケータイ値下げ競争の先頭を走らせるなど、国民の気を引く看板政策さえ、いまやかすんで見える。党内の人心は落ち着かない。たぶん「この人で大丈夫か」と疑念が膨らんでいることだろう。

来年9月の自民党総裁選を見据え主要派閥はどう動くのだろうか。

安倍氏と麻生太郎氏の盟友関係は不変だろう。さきの総裁選では、安倍氏の持病悪化による緊急避難を優先するあまり、二階幹事長と菅首相の計略にはまったかたちだが、冷静さをとり戻した今なら、また違った見方、考え方があるだろう。

安倍氏が、かねて禅譲を噂されていた岸田文雄氏を後継としなかった背景には、候補者の一人、石破茂氏の存在があった。石破氏を封じ込める作戦で安倍、麻生、二階の各氏が共闘するなか、党を掌握する二階氏の推す菅氏が浮上し、岸田氏は後退した。

だが、菅政権誕生から3か月を経た今、石破派は解体の危機に瀕し、安倍・麻生連合にとって、恐れるに足らぬ存在になった。そこであらためて党内を見渡すと、むしろ邪魔なのは二階幹事長であると彼らの目には映っているのではないか。

菅首相を担いで勢力を拡大し続けている二階幹事長の、大親分気取りの傲慢なふるまいが気に障らないはずはない。菅首相とともに長期政権を思い描き、幹事長ポストにしがみつきたい魂胆は見え見えだ。

安倍氏の復権を望む声が細田派、麻生派のなかから湧き上がってきたのは、強力な後継人材が見当たらないせいでもあるが、「桜を見る会」疑惑の再燃で、その空気は一気に冷めてしまった。二度も持病悪化で政権を放り出したばかりでなく、国会で虚偽答弁し、議員辞職してもおかしくない人物を、いかに自民党とはいえ、三たび、総理総裁にするわけにはいかぬだろう。

菅首相、二階幹事長は表向き、前首相に敬意を払うように見せかけて、裏で、蹴落としにかかるはずだ。そうなると、安倍・麻生連合は菅降ろしを画策し、安倍氏は立候補をきっぱりあきらめて、総裁選には別の候補者を擁立するほかない。だとしたら、誰だろうか。

麻生派の河野太郎氏。英語が堪能で改革志向も強く一定の国民的人気はある。が、安倍氏や麻生氏が背後で糸を引くには、いささかやりにくい。なにより、河野氏が神奈川県連つながりで菅首相に可愛がられている面が麻生氏には気に入らない。

小泉進次郎氏。この線もありえない。やはり菅首相と親しい。原発ゼロを唱える父、純一郎氏の存在も気にかかる。

どうみても、岸田氏しかいないのではないか。岸田氏自身、その気になっている。

自民党の岸田文雄前政調会長率いる岸田派(宏池会、47人)が、近く古賀誠名誉会長の名前を同派の名簿から外すことが9日、分かった。

(「岸田派が古賀氏を名簿から削除へ 岸田氏「自立」アピール」12月10日産経新聞ニュース)

9月の総裁選後に古賀氏のほうから申し出があったということだが、そこには若干の説明が必要だ。

保守本流といわれ、4人の総理大臣を輩出した「宏池会」は2000年11月のいわゆる「加藤の乱」をきっかけに谷垣禎一氏らのグループと、古賀誠氏らのグループに分裂した。その後、2008年に谷垣派と古賀派は合流し「中宏池会」が誕生したが、2012年の総裁選で、古賀氏が谷垣再選を支持しなかったため、谷垣派は再び、宏池会を離脱した。

この間、岸田氏は古賀氏と行動をともにし、2012年10月、古賀氏から宏池会の会長を引き継いだ。古賀氏は名誉会長となり、名門派閥の領袖となった岸田氏は、一躍、将来の総裁候補の一人と目された。

岸田氏は古賀氏を政治の師と仰いできたが、今年9月の総裁選出馬にあたり、支援を求めるために訪ねた麻生副総理から「古賀とメシを食ったその足で俺のところに来るなんて、どういうことなんだ」と怒鳴られた。自民党福岡県連内の勢力をめぐって絶えず争ってきた古賀氏との縁切りを岸田氏に求めたのだ。

むろん、政治の師と仰ぐ古賀氏にそんなマネができるはずはない。岸田氏は禅譲の期待を抱き続けた安倍前首相に見限られたばかりか、宏池会に源流がある麻生派の支援も受けられず、菅氏の前に屈した。

これを見て岸田派の将来を案じた古賀氏は、自ら身を引くことで、岸田氏が安倍・麻生連合の支援を得られる条件を整えたわけである。岸田氏に運がめぐってきつつあるように思える。

人事の刀を振りかざし、強権ぶりを見せつける菅首相は、リリーフ登板でも、安倍路線の謙虚な継承者でもない。コロナ対策で大きくつまずいたとはいえ、早期に失地回復し、解散総選挙での勝利をひっさげて総裁選にのぞみ、本格政権の基盤をつくりたいともくろんでいるだろう。

しかし、解散の絶好のタイミングを見つけるのはたやすいことではない。東京五輪の開催も不確実だ。菅政権が短命に終わるのか、それとも…。久方ぶりに、自民党内の権力争奪戦が始まりそうである。

image by: 自由民主党 - Home | Facebook

新恭(あらたきょう)この著者の記事一覧

記者クラブを通した官とメディアの共同体がこの国の情報空間を歪めている。その実態を抉り出し、新聞記事の細部に宿る官製情報のウソを暴くとともに、官とメディアの構造改革を提言したい。

有料メルマガ好評配信中

  初月無料お試し登録はこちらから  

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 国家権力&メディア一刀両断 』

【著者】 新恭(あらたきょう) 【月額】 初月無料!月額880円(税込) 【発行周期】 毎週 木曜日(祝祭日・年末年始を除く) 発行予定

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け