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毎日新聞記者は勉強不足。「防弾車」の窓ガラスが動く本当の意味

毎日新聞が掲載した「防弾車」に関する記事が、誤解を与えかねないものだったようです。軍事アナリストで危機管理の専門家でありテロ対策にも詳しい小川和久さんが、米国大統領の専用車に要求される性能を解説し、記事の間違いについて主宰するメルマガ『NEWSを疑え!』で指摘しています。小川さんによれば、毎日新聞が紹介した防弾車の性能は、専門家が呆れた北朝鮮の金正恩委員長の専用車並でしかなく、取材先である情報源のレベルが低いと喝破しています。

毎日新聞は情報源のレベルを疑え

12月9日の毎日新聞夕刊を見て、おやっ!と思いました。「防弾『最強車』、外交の支え テロ対策、世界で需要増」という記事は、見出しこそ違うものの、1週間前にもほぼ同じ内容で掲載されていたからです。このときは「米国は『ビースト』、日本はメルセデスの『マイバッハ』…首脳外交支える『最強』防弾車の世界」という見出しでした。

1週間をおいて同じ記事が載っているということは、よほど読者の反応がよかったのでしょう。そこで内容ですが、少し知識のある立場で言うと、きちんとした取材ができていない記事で、誤解をまき散らしかねない問題があります。どこが問題かといえば、例えば次の部分です。

「ただ、防弾車は一般に数百~数千キロ重量が増える。エネルギー消費も激しいため、電気の使用は最小限に抑えられる。窓ガラスの開閉は手動。分厚い窓ガラスは重くて開けられず、エアコンも使えないので真夏の車内は異常な暑さだったという。

 

さらに、防弾車は急傾斜を上れないこともある。『山で止まってしまうリスクと、通常の車で移動する危険性をてんびんにかけ、防弾車を使わないこともあった』という」(12月9日付毎日新聞夕刊)

重量と馬力の関係については、米国政府やメーカーに基準があるのです。この記事の情報源は知らないようですが、米国大統領の専用車の場合、パンクしないタイヤを使っており、それでも被害が出た場合、時速100キロで10キロほどを走り抜ける性能が要求されています。急勾配を登れないなどということはありません。

エアコンが使えないようなバッテリー容量でもありません。窓ガラスは、あとで述べるようにドアの防弾のために上下できない構造です。重くて開けられないのではありません。

米国の大統領専用車ほどでなくても、厚さ49ミリの防弾ガラスを装備した車(ベンツ)の場合、強化してあるサスペンションでも車体重量のために6年前後で交換しなければなりませんが、馬力不足などということは聞いたことがありません。

どのメーカーの車が馬力不足だったのか、それを聞かないと取材とは言えません。外務省が購入した車両が山登りできなかったと聞いたことがありますが、記者としてはそこまで取材しないといけません。

私は2013年9月、カリフォルニアのパサディナで大統領が西海岸にきたときに使う専用車に触れたことがありますが、これはブッシュ大統領が使っていたもので、大統領の警護を担当するシークレットサービスのオープンハウスで展示されていました。ガラスは固定式で厚さ120ミリ、ドアは私の身体以上の厚みがありました。

2019年2月にハノイに行った北朝鮮の金正恩委員長は、同じベンツでも「マイバッハ」ではなく、ガードと呼ばれる特注の防弾車を特別列車で3台持ち込みました。しかし、世界の専門家は呆れ返ってしまいました。窓を開け、満面の笑顔で手を振っていたのですが、これで金正恩委員長の専用車の防弾能力が低いことがわかってしまったのです。

窓ガラスが上下に動くということは、ドアの内側にガラスを収納するための空間があるということで、そんな構造ではRPG-7対戦車ロケットや14.5ミリ機関銃の徹甲弾には耐えられません。窓ガラスを固定化し、ドアの中も何層もの防弾構造にしてあるのが米国大統領の専用車なのです。私が触れたブッシュ大統領の車の場合、運転席側のガラスだけが手動で上から3センチだけ開くようになっていました。これは何かの事情で外部の人間と肉声で話さなければならなくなった場合の対策です。

加藤記者の意欲は高く買いたいと思いますが、取材した情報源が専門家ではなかったことが明らかな記事でした。日本の外務省や警察はこのレベルです。加藤記者には奮起して、修正を兼ねた続報を期待したいと思います。実を言えば、国際水準を満たした防弾技術を知っている専門家は、日本には一人しかおりません。(小川和久)

image by:bibiphoto / Shutterstock.com

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地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

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