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下請けに訴えられるアップル、感謝されるトヨタ。違いは何か?

大手企業が下請けの中小企業に対して無理難題を押し付ける─。ドラマでもよく見受けられるシチュエーションですが、実際に米アップルが訴えられたという事案もありました。今回のメルマガ『戦略経営の「よもやま話」』では著者の浅井良一さんが、ビジネスにおけるアップルとトヨタの企業比較、そしてドラッカーの言葉を引きながら協力会社と大手企業の関係について論じています。

成果を適える「鬼に金棒」 泣く子と地頭には勝てぬ

いつものことなのですが、不意にこんなことが頭に浮かびました。それは、事業において無敵となる「鬼に金棒」とはなんだろうかで。つらつら考て、成功を手にした名経営者の言動などから総合的に類推してみて、そこで浮かんで来るのが二つのキーワードです。一つは“ビジョン”であり、もう一つは“よき人材”というものです。

「なぜ二つのキーワードなのですか」なのですが、この二つは、時代の欲求を切り拓いて多くを適えて、それによって企業に大きな「成果」もたらしめるための“源泉”であるからです。なんとなれば“ビジョン”がなければ「成果」は見えず、そして“よき人材”の参画がなければ「成果」に至ることはないからです。

「鬼に金棒」の由来を調べてみるとこんな風に書かれています。

鬼に武器を持たせた様子を言い表したことわざです。強い者は丸腰でも充分強いのですが、武器を持つとさらに強くなることは当然で、武器を持つ者が鬼であればなおさらです。

とあります。そこで事業では、それがどんなふうなものかを考えてみたのです。

ところで世間一般での解釈は「泣く子と地頭には勝てぬ」の様で、中小企業に取引上の優位さを笠に着て、無理難題を押し付ける大手企業こそが「鬼に金棒」そのものだとされているようです。

少し前のことですが、中小企業の「島野製作所」が度重なる過酷な条件変更にアメリカ「アップル」社を訴えるという事件がありました。訴状は独占禁止法違反と特許権侵害とういうもので、有利な地位を乱用しての一方的な受注量の削減や値下交渉さらの技術流出を理由とします。結果的には敗訴して「アップル」が全面勝訴となったのでした。

少し余計なことですが「アップル」が全面勝訴した背景は何なのか、裁判はもとより争いごとなので、多くの有能な弁護士を擁している「アップル」が契約の段階からして準備万全なのは想像に難くありません。

これは特に珍しいことではなく、特にアメリカではこのことをディール(駆け引き)だとして常套な手腕と解されているようです。2011年にアップルのCEOになったティム・クック氏は、調達等で辣腕を振う実務家で“下請け”への価格交渉は厳しいものがあります。これをして「鬼に金棒」といえば、それなりに納得されるでしょうか。

話をここから始めるのは、どうも世間一般で語られるこの“認識”についてあらためて考えたいのと、そうでなくて「すべての人を幸せにする」とする「価値観」の普遍性を探りたいからです。もとより「事業をして“成果”を得さしむ」ことは、厳しいことです。けれど「厳しさ」は「幸せ」と相反するものではないはずです。

アップルが“宇宙に衝撃を与える”商品を、可能な限りコスト・ダウンしてより廉価で提供しようとするのはビジネスとしての基本です。ただ、そのために下請会社への圧力をディールとするのはいかがなものか、なぜなら貴重な経営資源を摩滅させててしまうからで、もっとスマートで思慮深い「鬼に金棒」の振るい方があるはずです。

スティーブ・ジョブズは“イノベーション”により顧客が想像もしなかった革新的な商品を連続して世に出して「市場創造」しました。顧客が予想もしなかったより良きものを、より使い勝手がよく、より高い品質で、より安くは“マーケティング”の基本テーマです。それは「飛びぬけた“才能”とコラボレーション」してできたことです。

ただ、そこからの先の製造においての“サプライチェーン・マネジメント”については“宇宙に衝撃を与える”ものではなくて、実務家が確かな手ごたえで行う陳腐化した“旧スタイル”のままで、蛇足的に言うと、そこには“ビジョン”はなく“よき人材”とのコラボレーションもなくて“金棒”は持っていないとなるようです。

ドラッカーは企業の衰退に関して「企業が衰退する最初の兆しは、意欲ある人材に訴えるものを失うことである。」と言っています。魅力のある“ビジョン”こそが「意欲ある人材の拠り所」です。

ジョブズは、突き抜けた“ビジョン”でもって、突き抜けた“有能な人材”をかき集めて、飛び抜けた“もの創り”を行いました。ジョブズ亡き後も、突き抜けた“ビジョン”の照返しで繁栄しています。ただ、後継者はその恩恵の回収に必死になっており、意欲ある人材が去り始めたらならば、その栄光はたそがれ始めるのでしょうか。

コラボレーション 

話変わって、我が国でもっとも『鬼に金棒』という言葉がふさわしい企業はどこかを考えてみたのです。そこでとうぜんとして浮かび上がってくるのが「従業員を知識労働者として育成し活躍の場を与える」とする「トヨタ」となると思うのです。さらに、協力会社さえも“知識型企業”に変身させてもいます。

あるべきの“ビジョン”こそが“よき人材”を「惹きつけて」「育成の基盤づくりをして」「場を与え支援して活性化される」ですが、はてさてトヨタは、どんなビジョン(基本理念)を掲げているのか。

「基本理念」5番目と7番目にこのように記されています。5番目には「労使相互信頼・責任を基本に、個人の創造力とチームワークの強みを最大限に高める企業風土をつくる」とあり、7番目には「開かれた取引関係を基本に、互いに研究と創造に努め、長期安定的な成長と共存共栄を実現する」とあります。

トヨタの「サプライヤーズ・ガイド」に「世界最適調達の仕組み」として2つの「支援プログラム」が掲げられています。

・競争力のある新規サプライヤーや新技術を発掘するための「新サプライヤー・新技術開発プログラム」
・世界でベストな現行サプライヤーの競争力がさらに向上するように支援するための「現行サプライヤーへの改善支援プログラム」

このプログラムにより行おうとしていることについて、「新規と現行のサプライヤーがお互いに切磋琢磨することにより、世界から最も競争力のある部品調達するようになります。」としています。毎年2回のコストダウン要求をしますが、サプライヤーが切磋琢磨で実現したコストダウンは一定期間利益として残すのを認めています。

トヨタと協力会社の関係は「競争」と「共創」の日々のなかにあり、本体と協力会社さらに協力会社間に厳しい切磋琢磨の競争の関係があり「トヨタという“ブランド”」に誰が一番“貢献”するかによって現実的に調達が決めらようになっており「共創」が行われます。本体はより良く「共創」が実現されるように、厳しい支援も行います。

こんな話が、銀行が融資をしようと「トヨタの一次下請けは無理としても二次下請けにも食い込めない。トヨタの系列は財政が健全で金を借りてくれないんですよ」という嘆きです。ここで言いたいのは「競争」と「共創」でお互いを切磋琢磨し続け、持続的な世界的な競争力を成長させているということです。

ここで誤解を招かないように補足説明をし確認します。トヨタが協力会社の“安定経営”をもたらしていることについてですが、それは先に言ったように、協力会社自身がトヨタとの「競争」と「共創」を通して、トヨタの“安定経営”に貢献するからで、繁栄は、従業員や協力会社との“コラボレーション”で成されています。

トヨタという企業は、知識のために“危機感”を持つのが上手です。「マネジメントの機軸」を外さず「自らの強みに焦点を合わせ、強みでないことことは他社に任せる」を実行しているようです。ただ私見ですが、価値観の共有できる企業となるとかなり微妙なものがあるようで、トヨタでも試行錯誤で進まなければならないようです。

ドラッカーから、また引用を行うのですが、「顧客が必要とするもの提供するには、二つの原則に従わなければならない。第一に、強みとするものだけを行わなければならない。第二に、その他については、それを強みとする者とコラボレーションしなければならない」とあって、トヨタはこれを為しています。

「静かな革命」の影響がさらに激しさを増しています。「社会、市場、雇用の場のいずれもが、新しい種類の欲求をもつ、新しい種類の人たちにによって占拠される。」と見立てています。それはよく見ると至る処で起こり始めていることで、経営者及び起業家の「異質なビジョン」でもっての“機会”の到来が起こっています。

image by: Ned Snowman / Shutterstock.com

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戦略経営のためには、各業務部門のシステム化が必要です。またその各部門のシステムを、ミッションの実現のために有機的に結合させていかなければなりません。それと同時に正しい戦略経営の知識と知恵を身につけなければなりません。ここでは、よもやま話として基本的なマネジメントの話も併せて紹介します。

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【著者】 浅井良一 【発行周期】 ほぼ週刊

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