アメリカのユナイテッド航空機内で倒れ搬送先の病院で死亡した乗客が、新型コロナと思しき症状を隠して搭乗していた疑いが報じられ、世界に衝撃を与えています。このような「事件」を防ぐ手立てはないのでしょうか。今回のメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』では著者で健康社会学者の河合薫さんが、件の死亡男性も捉われていた可能性のある「認知バイアス」の危険性を訴えるとともに、IATA(国際航空運送協会)の調査で改めて明らかになったマスクの新型コロナ予防効果を紹介しています。
プロフィール:河合薫(かわい・かおる)
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。
飛行機でコロナは感染するのか?
コロナコロナの一年となりましたが、2020最後の裏返しメガネも「コロナ」に関する“事件”を取り上げます。
今月14日、米ユナイテッド航空のオーランド発ロサンゼルス行きの機内で乗客の男性が倒れ、ニューオリンズに緊急着陸しました。男性は救急搬送された病院で亡くなりましたが、男性の妻が救急隊員に「夫は味覚や嗅覚の喪失など新型ウイルス感染に関連する症状があった。高血圧や呼吸器関連の基礎疾患がある」と話していたことがわかりました。
同航空会社では搭乗前に検温を実施。乗客にはコロナ感染症状に関するチェックリストも行なっていましたが、男性は「新型ウイルス感染の診断を受けていない」「新型ウイルス感染に関連する症状はない」と記入していたそうです。
…なんとも。年末年始を控えて、対岸の火事とはいえない“事件”です。
新型コロナは発症前または無症状の感染者でも、他者に感染させる可能性があるところが厄介なところですが、「コロナかも…」とおぼしき症状がでていても、「まさか自分が…大丈夫だ!」と思ってしまいがちです。
いわゆる「認知バイアス」です。
しかし、現在のように市中感染が広がっている状況だと、自分が「感染させる側」になっている可能性も極めて高いので、十分気をつけなければなりません。
特に外出先で検温されると、それだけで「何か対策をしてる」と安心してしまいがちです。平熱より低かったりすると、ちょっとだけ胸を張りたくなるという摩訶不思議も。検温は気休めに過ぎないのに、「私は感染してないお墨付きをもらえた!」などと偽りの安心感を持ってしまうのです。
だいたい高熱がある人は出歩いてないし、前述したとおり発症前の方が感染力が高かったりするわけで。医療関係者の間では、無症状感染者が感染を広げる現象を「新型コロナ感染対策のアキレス腱」と呼んでいるほどです。
もっとも、検温をしないよりした方がいいでしょうけど、大切なのは感染予防の徹底です。当たり前ですが。特に機内の感染対策はとても重要。「飛行機の中で誰とも話さないのだから、マスクなんてしなくていいだろ!」と考える人もいるようですが、飛行機に乗る際はマスクが感染予防に最も効果があることがわかっています。
IATA(国際航空運送協会)が10月8日に公表した調査結果によれば、航空旅行に関連すると考えられる「新型コロナウイルスの報告事例」は2,700万人に1件でした。2020年初頭からの総乗客数が約12億人だったのに対し、確定例、高度疑い例、潜在例を含む感染例は44件で、その大多数は「機内でのマスク着用が浸透する前に発生したもの」だったこともわかっています。
たとえ未報告の事例が含まれていたとしても、2,700万人に1件という数字は極めて安心できる数字です。マスクを着用すれば安心度は相当高くなりますし、乾燥対策(機内は乾燥しています)にもなります。
年末年始、様々な事情で移動をする人も多いことでしょう。くれぐれもマスクを着用し、感染しない、感染させない心遣いをお忘れなく!蛇足ではありますが…、私が「息抜きの楽しみ」にしている運動施設では「濃厚接触者」が出てしまい、年明けまで全面クローズとなってしまいました。換気、消毒、もちろんマスク着用も徹底していたのに、「濃厚接触者に指定されてしまった」という人がいるだけで、唯一の楽しみまで奪われてしまいました。
致し方ないこととは思いつつ、残念な気持ちは消えません。
みなさんのご意見、お聞かせください。
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