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米大統領選で鮮明になった「分断」は、「寛容さ」で解決可能か?

散々こじれた挙句、結果的にはジョー・バイデン氏の勝利で幕引きとなった、2020年の米大統領選挙。しかし、いまだに強硬な姿勢を見せるドナルド・トランプ氏とその支持者を見てわかるように、米国の分断は決定的なものとなってしまいました。この「分断」は、たがいの「寛容」や「妥協」によって解決できるのか?という疑問を検証するのは、メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』の著者で米国在住の作家・冷泉彰彦さん。冷泉さんは、米国の「分断」を考える際に、日本の「靖国問題」を例に出しながら、思想の「分断」が「寛容さ」によって解決を見る可能性があるかについて考察しています。

寛容というマウンティングでは解決しない現代の「分断」

アメリカでは、12月14日に大統領選の「選挙人投票」が行われて正式にバイデン=ハリスのチケットが、次期正副大統領に決定しました。ですが、依然としてトランプはこの結果を認めずに、バイデン氏のことを「1月にはフェイク大統領になる」などというツイートを垂れ流しています。

勿論、テクニカルには残り1週間となった1月5日の「ジョージア選出上院2議席の再選挙」という国政レベルのビッグマッチがあるので、それまでは「敵と味方」の対立モメンタムを維持しないと、トランプ派が面白がって投票所に来てくれないという切羽詰まった問題があるようです。また、その先には2022年の中間選挙において、在野のトランプが2010年のペイリンのように「影の大魔王」として共和党内での権力を行使したい、そんな思惑もあるでしょう。

そうではあるのですが、とにかく合衆国憲法の規定により各州が実施して、各州が承認した選挙結果を認めないというのは、大変な事態です。

その一方で、トランプに関しては、民主党系の各州の知事、あるいは検事総長(州のアトーニー・ジェネラル)たちが、大統領特権の消滅に伴って違法行為を摘発しようと待ち構えています。例えば、NY州としては、トランプとその一家に関する脱税の摘発を考えていますし、OR州などはデモ隊に対する超法規的な暴力を指示扇動した罪について、また国境の自治体などでは移民を迫害して人道危機を起こした罪についてトランプ個人を起訴しようと躍起になることが予想されます。

トランプが一家でフロリダ州に逃げているのには、そうした背景があり、もしかしたら1月20日の就任式に出ないかもしれないのは、バイデンが嫌いとか負けを認めたくないという以前に、DCにノコノコ出ていって1月20日の正午を過ぎると、そのまま逮捕されてしまうかもしれない、そんな思惑もあるのかもしれません。

日本の靖国問題で考える、「分断」に「寛容」は有効か?

こうした問題について、バイデン氏は「自分の連邦政府にはトランプ個人の捜査はさせない」としています。「他にもっと重要なことがあるから」というのですが、そんなことを言っても司法省傘下のFBIや財務省傘下のIRS(国税)などは、トランプの違法行為についての証拠を山のように集めているはずで、仮に州レベルなど地方政府でジャンジャン起訴されるような事態になれば、連邦だけ「知らんぷり」をするのは難しくなるでしょう。

一方で、トランプとしては自分が「完敗しない」限りにおいては「喧嘩がズルズル続いた方が」モメンタムを維持できる、そんな計算もあるかもしれません。ということは、まるで1970年代から80年代の日本のように、「刑事被告人が闇将軍」というような事態が続くかもしれません。

問題は、それによって「共和党政治家の多くがトランプ票に依存する」という状態が長期化することであり、その結果として「双方が妥協できない分断の構図」が定着するということです。そんな中で、コロナの影響などで経済が大きく不調になるようだと、アメリカの国力は停滞してしまう、そんな可能性もあると思います。

そこで、年末年始に読者の皆さまにも考えていただきたいのですが、日本でも同じように起きている「分断」について「寛容」という姿勢は有効なのかという問題があります。

例えば、一つの思考実験として靖国神社の問題を挙げてみましょう。「自分の祖先は死んだら靖国に魂があるので参拝してくれ」と遺言して戦死している、仮にそう信じられる人がいたとします。その一方で、「自分の祖先は靖国信仰を伴った国家神道を戦争遂行イデオロギーとした政権によって戦地に送られて殺された」というような信念を代々受け継いできた人もいるでしょう。

この両者については、どう考えても論理的に相容れないわけです。いやいや「戦争の時代の被害者ということでは共通」だとして共通の立ち位置を探すにしても、では靖国に参拝すべきかどうかという点で、お互いの妥協点を作るのは困難です。前者が行く回数を半分にして、その半分にした回数であれば後者が渋々ついていく、などということが起こればいいのですが、問題の性質からして難しいことになります。

せいぜい可能なのは、「どちらか一方が寛容性を発揮して大きく譲歩する」という方法です。「わかった、君が年に靖国に10回いくのは認める。減らさないでいいし、自分はその10回に同行するし、賽銭投げて祈るところまで一緒にやろう」と「国家神道反対派」君が歩み寄ったとしたら、「靖国で会おう派」君の方は「そこまで言ってくれるのなら認めよう。君の寛容の精神は大したものだ」などと感謝するでしょうか?

これも難しいと思います。要するに、寛容の精神などというのは、所詮は自分の価値観には何の変更も加えないし、むしろ絶対的な優位性を持っているので、「哀れにも誤った信念を持ってしまっている相手」は「理屈として理解不能であり、丸呑みするしかない」というような姿勢が言葉の端々に出てくるわけであり、ということは「譲歩できる寛容さ」というのは、現代の日本語でいえば「絶対的にマウンティング(イヤな言葉ですが)を取りに行っている」ということになるからです。

これはやや極端な事例ですが、寛容性とか妥協というのが、現代の「分断」の解決法の一つとして、あまり機能しそうもないということの説明にはなると思います。「敬して遠ざけてスルー」というのも、機能しないのは同じ理由です。

そうなると、やはり徹底的に喧嘩を買い、決定的に中身の「ファクトとロジック」を暴露して、徹底的なディベートを行うということでしか、こうした「分断」の解決法はないのかもしれません。

アメリカの場合は、どんな人も立場も「平等」だということが思考法から態度に至るまで、徹底的に訓練された社会ですから、日本のように「マウント取りに行く」のは不快だなどというクレーム表現はありません。そんなことを言ったら、自分が「弱っちい」ことがバレて、徹底的に押されてしまうからですが、そうではあっても深層心理の深い部分では「マウント取られて悔しい」的な怨念というのは、突き刺さっているわけです。

トランプ現象というのは、正にそうした「こじらせた怨念」が暴れているわけであり、例えば「民主党の人道主義、人権という理念」などが徹底的に攻撃されているのには、深層の部分における怨念というものがあるのだと思います。

であるならば、バイデン氏の言う寛容とかスルーというのは、あまり機能しないのではないか、そんな懸念を感じるのです。そう考えると、こうなったら徹底的にやったら良いという考え方にも一理あるとせざるを得ません。

例えばですが、カリフォルニアの鬼検事であったカマラ・ハリスのイメージで、刑事被告人トランプを徹底的に締め上げて、事実を思い切りブチまける、その上でトランプ派の思っていたファンタジーを打ち砕いて、政治的影響力を雲散霧消させる、といった作戦はアリなのだと思います。

勿論、そうしないという作戦もあります。トランプへの追及という「過去」にはこだわらずに、コロナ対策や全く新しい環境経済に猛進して行って、気がついたらアメリカはずいぶん違う国になっていたし、いくつかの課題には改善が見られた、ということで民主党政権が大きく支持率を広げ、それに是々非々で協力した共和党穏健派も力を取り戻して、アメリカ全体として気がついたら「脱トランプ」が成立していた、そうなれば一番いいわけです。

ただ、第3のシナリオとしては、バイデン政権は求心力が定まらず、民主党内の抗争が激化して、バイデンはヨレヨレに、そんな中で民主党の左派(プログレッシブ)がどんどん左のポピュリズムを煽るようになって、トランプ派を吸収、という可能性もないわけではありません。そうなると、「分断」の境界が左にズレただけということになります。

いずれにしても、トランプとその主張が1月20日以降どうなっていくのか、この問題はトランプ訴追という問題と関わって行くと思います。それ以前に、まず直近の課題としては1月5日のジョージア再選挙で上院の2議席がどうなるか、ここに注目しながら年を越すことになりそうです。(メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』より一部抜粋・文中一部敬称略)

image by: Stratos Brilakis / Shutterstock.com

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東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1~第4火曜日配信。

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